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●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


連休が明け、朝の登校時間。私は別棟のトイレに居た。


メロとお揃いの笛をポケットから取り出し、眺めると、

不思議と時間の流れが早く感じてくるから不思議だ。


学校は貴族の学校ということで安全だろうとは思うものの、

私が慢心してつけないと、きっと使用人もつけないと思うし、メロとお揃いである。

メロはあれ以降いつも服の下に隠しつつ首から下げてくれている為、

私が学校だからつけなーい、というのは申し訳ないし悲しい。


ということで、学校に笛を持ってきている。


しかし、首にはさげていない。

校則に装飾品はつけないこと、とある為、スカートのループ部分にくくり、

ポケットにしまっているのだ。今は何となく出して眺めているけれど。


皆の分の笛や自衛用品は、来週辺りに屋敷に届く。

紐は屋敷にあるが、それは自衛用品と一緒に配布するつもりだ。


不安な登校も、この笛を握ると緩和される。

それにアリーさんの励ましを思い出すと、活力も沸く。

休日アリスに出会ってしまったが、他に攻略対象はいなかったし、

架空の親戚の存在により、アリスは私と会ったとは思っていない。


礼儀正しいタイプだし、もしかしたら今日、

「実は親戚とお会いしました」と話をしてくる可能性があるが、

しっかりとそれはシュミレーションしてある。


ずばり「なるほど」である。

基本、よほど悪意を込めた声色ではない限り、その言葉は敵対意思を感じさせない。

正直「親戚とお会いしました」という返答に「なるほど」というのは意味不明だが、

「へえ」「ええ」「はい」といった、微妙な声色で意味が変わるリスクを負うより、

意味不明な奴だと思われた方が安心である。


さらに、アリスが話を広げてきた場合の為、「ティアミス・アイリーン」の詳細なプロフィール、

もとい設定を考えて来た。

年齢は、私と同い年。下手に年齢をいじるより、そのままで行った方がいい、という判断だ。

そして何故貴族学校に通わないか。色々と理由を考えたものの、

「ティアミス・アイリーン」はここらの地域では無く、外国に留学しているという設定にした。

海外の知識は、留学すればいいと浮かれて調べ上げた知識がある。

留学書類紛失当時は絶望し、無駄なことをしてしまったと悔やんだが、役立って良かった。

大型連休中、遊びに来て、帰っていった。次にこの国に来るのは四年後。

性格は、社交的で明るく、特技はダンス。

特技に関しては、解説において最も可能そう、かつ無難なものということでダンスを選択した。

他の私に似ている親戚も皆色んな国に留学しているという設定を組んだため、

「次はいつこっちのほうに来るの?」と聞かれても平気だ。対策はばっちりである。


しかし、ここまで設定を作ったものの、

アリスが私に「ティアミス・アイリーン」の詳細を聞いて来るとは思えない。

多分「街で会いましたよ」だけだ。追及はしてこないだろう。

普通の友達同士や、普通のクラスメイトの印象ならまだしも、アリスの中で私は、

「机をじっと見てる変な人」だ。そんな人の親戚をわざわざ追求しない。


設定を組んだのは念の為だ。万が一不測の事態に陥った時の為。

突発的に気まぐれで詳細を尋ねられ、しどろもどろになってしまえば死ぬ。

その為の保険だ。そして保険は、使わないに越したことは無い。

温存できるなら、温存すべきもの。


ふと手元の時計を確認すると、少し早いものの、

教室に向かっても良さそうな時間にはなっている。

細心の注意を払いトイレから出て、周囲を確認する。

誰もいないことを確認して一歩踏み出すと、ぽん、と肩に手を置かれる。


「何してんだよ、覗きか? 趣味悪いなお前」


「クラウス……さん」


「やめろ耳がかゆくなる、クラウスでいい」


クラウスはうんざりした顔でこちらを見る。

さっきまでは居なかったはずだ。なのにどうして。


「な、何でクラウスがここにいるんですか……女子トイレの前ですけど……」

「いやお前に言われたくねーし、俺は廊下に立ってる、

 お前はこそこそ出てきた、どう考えてもお前のがおかしいだろ」

「私女子ですし」

「じゃあ堂々と出て来いよ、探してたんだぜ? お前を」

「……何故」

「んなもん、せっかくの楽しい舞台に大事な役者様がいらっしゃらねえからだろーが。

 休みかと思って靴箱見れば靴はあるみてーだから校舎中走り回ったぜ、

 ほら……行くぞ!!」


クラウスはそう言って私の腕を掴むと、勢いよく走り出す。

足が速い。腕を引かれ楽は出来ているのかもしれないが、

ついていくのが精いっぱいどころじゃない。

廊下、階段、渡り廊下を駆ける。

このままだと間違いなく転ぶ。

が、転んで前のめりになりそうになる度、

クラウスが加速しギリギリ転ばない状態だ。


気のせいかクラウスは笑いながら走っている。

体力が尋常じゃない。

このままだと、足が千切れてどこかに置いかれる。

危機感を感じていると、クラウスが減速しはじめた。


「えっと、なに?」

「……よし、ついたぜ、ミスティア……ひひ」


辿りついたのは、舞台でも何でもない、Aクラスの教室。

私の在籍するクラスである。目の前には、黒板側の扉。


「ここが舞台ってことですか? あの、」

「じゃあ、行ってこい!」

「うわ」


クラウスは楽しそうに扉を開くと、私を教室に向け勢いよく押した。

半ば飛び込むように教室に入ると、後ろで扉が閉められる音がする。


ぎりぎり転ばなかったと鞄を背負い直し、違和感を感じた。

いつもの様な、始業前の会話が無い。それどころか、音が感じられない。

空気が、緊迫している。


恐る恐る周囲を見渡すと、生徒たちは皆、こちらを、いや、黒板を見ている。

黒板に視線を移すと、あまりの内容に、思考が停止した。




『アリス・ハーツパールは平民の生まれ

 父と母は貴族じゃなくて街はずれの料理屋』





そう、太字で、大きく書かれている。


アリスの座席を見ると彼女はただ茫然と立ち尽くし、俯いている。




クラウスの言っていた、舞台の意味は、間違いなくこれだ。

何だ、これは。


何故こんなことが起きた?

こんなことは、イベントには絶対に無い。


……強制力的なものか……?

いや、あまりに人為的すぎる。

物が消滅するなんてものじゃ無い。

文字が黒板に浮かび上がってくるなんて魔法は無い。

だとしたらクラウスが……?


イベントだとして、助けるはずのレイド・ノクターはどうしたと考えると、

レイド・ノクターの姿が見えない。

レイド・ノクターが、いない……。

ということは、アリスを救うのは、

この状況下では、ロベルト・ワイズがアリスを救うのかもしれない。

しかしそのロベルト・ワイズは、何故かこちらを睨みつけているばかりで、

動こうとしない。



「結局……騙してたってことだよね」


ぽつりと、誰かが呟く。

すると、それが開始の合図、とでも言う様に口々に皆、アリスを糾弾し始めた。


「ここ、貴族の学校でしょ? 何で平民が」

「今まで嘘ついてたんだ」

「どんな目的で入学したの? 泥棒とか?」

「貴族に近づく目的だったんでしょ」

「卑しい」


「違います、私は、勉強をして、お母さんに楽をさせてあげたくて」


アリスが顔をあげ、悲痛な叫びをあげるように釈明する。

そうだ、アリスの目的は、ただ一つ。

勉強がしたい、お母さんに楽をさせたい一心で、入学したのだ。


「じゃあどうして黙っていたの?」


生徒の一人が、アリスに問いかける。

疚しいことが無いなら、説明できたはずだと、きっと言うつもりなのだろう。

どうにかこの状況を打破できないかと考えるが、いい案が全く思いつかない。

「アリスは勉強をしたくて来ているだけです!」と説明をしたら、

「ミスティア・アーレンに取り入ったのだ」とよりアリスが糾弾される状況になりかねない。

実際、ミスティアはレイド・ノクターがアリスを助けた時、そうして責め立てた。

……周囲も、同じように。


「ミスティアさんは、どう思われます? 隣の席でしょう?」


どうするのが最善か考えていると、こちらに声が投げかけられ、目を見開く。

何故、私に、意見を?


いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

発言権を与えられたということは、チャンスだ。

問題なく、発言が出来る。庇った言葉を言ったところで、

「アーレンに取り入った」とアリスが言われても、

聞かれたから答えたまでだ、その発言が気に入らないのか、

と正当に反論出来る。



どうにかして、この状況を、流れを変えないと。


……私が、どう思うか?

アリスが、平民を黙っていた状況を?

どう伝えようか考え、アリーさんの言葉が浮かんだ。



思うまま、好きなように、伝える。

それが、一番いい結果を、生むんですよ。



スカートの上から、ポケットの笛を握りしめる。

思うまま、私が、どう思うか。伝える。


「……私も、隠し事をされていたら、衝撃は受けます、疑ってしまうと思います」


そう言うとクラスメイトはざわつく。

声がしっかり届くよう、はっきりと、声をだす。


「でも、自分と育ちが違う人間しかいない中に、入って、

 ただでさえ、初めての学校で、慣れない環境、

 その中で、私は、私だけが、あなたたちと違う環境で育ちました、

 と話すのは、本当に恐ろしく、勇気のいることだとも、思います」


徐々にクラスメイトが静まっていく。

緊張で手が震えてくるのを、後ろ袖に隠す。


「糾弾されるかもしれない、虐げられるかもしれない、そもそも、

 どんな言葉を返されるのか、想像もつかない。

 だから、騙すつもりも、やましいことがなくても、話せない。

 私が彼女と、同じ立場であったなら、誰にも話さず、

 卒業まで、ずっと黙って隠し通していたと思います」


もし、私が逆の立場なら、卒業まで誰にも話さなかったと思う。

こうして、黒板で暴露されたら、アリスのように釈明の声を上げることも出来ていない。


「……以上です。私は図書室に用があるので、ごきげんよう」


黒板の文字を黒板消しでしっかり消してから、アリスの手を取って教室を去る。

流石に教室においてはいけない。

しかし腕を握り潰されました! と思われないよう慎重に手を引いていくと、

前方からレイド・ノクターが歩いてきた。遅い。

登校時間は遅くないが、神のタイミングを呪う。


いや、こんな場合じゃない。

「死」という言葉が、頭に浮かぶ。

完全にレイド・ノクターと目が合っている。

逃げられないし、私は今、アリスの手を引いている。


「やあ、ミスティア」

「よろしくお願いいたします」


そう言って、レイド・ノクターの手を掴み、

アリスの手を重ねると、全速力で駆け出す。


時計を確認すると、朝のホームルーム開始まで十五分もあった。

完全に予定が狂っている、

クラウスダッシュにより時間が余りまくっている。


図書室の前まで駆けると、図書室は閉まっていた。

当然だ。まだ開く時間では無い。

図書室の扉に寄りかかり俯くと、段々落ち着きを取り戻し、

脳が理解をはじめる。己の、所業を。



……終わった。

衆人環視の目の前で、アリスについて言及してしまった。


状況を打開しようとは考えた。

しかしもしかしたら言及せずとも、レイド・ノクターが教室に到着し、

よりよい方向に事態が収束したかもしれないし、

ロベルト・ワイズが何とかしていたかもしれない。


この世の終わり。

心なしか、空気がどんよりしている気がする。

いや、どんよりとしているのは、私の心だ。

どうしよう、教室に戻って、

「ミスティア・アーレンがアリスのこと虐めて泣かしました」なんて話になっていたら。

私の身の潔白をジェシー先生は、信じてくれるだろうか……。


……それに、アリスの手を引いているところを、レイド・ノクターに見られた。

避難、移送、保護を目的としていたが、

「腕を引っこ抜き脱臼を試みている」と思われているかもしれない。

いや、レイド・ノクターにアリスの手をパスしたし、

流石にそれは無いか。いや、分からない。

怖い、全てが悪い方向にしか考えられない。


……ここは落ち着いて、笛を握って、両親、メロ、使用人の皆、

アリーさんの顔を思い出そう。

大丈夫。大丈夫。そんな悪いことにはならない。

ほら、こんなに床だって輝いている。



「お前は、どこまで人を裏切れば気が済むんだ……!」


顔を上げると、ロベルト・ワイズが立っていた。


「……はい?」


一気に現実に引き戻された感覚に陥る。

一体何が言いたい? 裏切り?


「あの、裏切りってなんのことですか?」

「……お前は、アリス・ハーツパールに対して、

 何とも思わないのか……!?」


尋ねると、ロベルト・ワイズが軽蔑にも似た、

信じられないものを見るような目でこちらを見る。

何故アリスが出てくる? さっきのことと関係がある?

でも、さっきアリスは裏切り者、みたいな糾弾のされ方をしていた。

お前、というのは私のことを指しているはずだ。どういうことだ?


それに何とも思わないとは何だ、何だこの地獄の質問。

前にレイド・ノクターに「僕のことが嫌い?」と聞かれた時の恐怖が蘇ってくる。

「好意的に思うよ」と答えた場合、

まともに話をしたことも無いだろと糾弾されかねない。

「好意的に思わないよ」と答えた場合、完全な布石である、後に死ぬ。


「……別に、彼女に対して、私は何も思っていませんが」


「心が痛まないのか!?」


「どういう意味ですか?」


まるで私がアリスを虐めたかのような物言いである。

質問に答えずさらに質問で返すのは良くないが、

本当によく分からない。心が痛むってなんだ。

しかし、ロベルト・ワイズは答えようとしない。

本当に彼は何なんだ、一体。

基本的にいつも噛み合わない。


アリスと、私の関係性。

私が、アリスを加害したと思われるような行動。


そう考えて、一つだけ思い当たることがあった。

もしかしてアリスが、トイレで囲まれていたあの日。

アリスが詰め寄られているところを、ロベルトは見ていた?

あの時、確かに私はあの場に居た。

そこを見て、私が虐めたのだと勘違いしたのでは。

いや、でも、場所は女子トイレ。

ロベルト・ワイズが目撃することは不可能。

それこそ覗きである。


「……お前は、全部、あるのに、全部、持っているのに

 本当に、人の気持ちが無いのか……?」


「あの……言っている意味がよく……」


「お前は、やっぱり最悪な人間だ!

 信じた俺が馬鹿だった!」



ロベルト・ワイズが怒鳴った瞬間、何者かが目の前を横切ったかと思えば、

視界いっぱいに桃色が広がる。






アリスが、まるで私を庇うように、目の前に立っている。




アリスが、目の前に、いる。

理解しているのに次の行動も言葉も浮かばない。


「どうしてそんなことを言うんですか!?

 ミスティア様が、何をしたっていうんですか!?」


アリスが、怒っている。

私に背を向けているから、ロベルト・ワイズへ怒りを向けているのだろう。


何で? さっきの教室でのことの恩的な感じでだろうか?

一体どういう事だ、とロベルト・ワイズも思っているのだろう。

彼はしばし呆然とした後、口を開いた。


「どうして彼女を庇うんだ!

 彼女は君を陥れたんだろう!?」


「なんてことを言うんですか!? ミスティア様はいつだって私を助けてくれました!

 本当に心優しく清らかで尊い方なんです!!

 ミスティア様は、そんなこと絶対しません!! さっきから何なんですか!?」


「え」


怒鳴る様にアリスが話す言葉に絶句する。

いつだってって、いつ?

教科書を見せたから? トイレのこと?

……何か、彼女の中で架空の私が出来上がってないだろうか。

いや、架空の親戚を作り上げはしたが、そうではなくて、架空の私を。


「で、……でも、入学して間もない頃、君は泣いていたじゃないか!

 あれはミスティア・アーレンに詰め寄られたんだろう!?」


「確かに、詰め寄られて、怖くて泣いてしまいました、

 でも私を詰め寄ってきたのは知らない先輩で、

 ミスティア様は助けてくれたんです!!」


「う、う、う……嘘だ、み、ミスティア・アーレンに言わされて……」


「嘘じゃありません!」


「じゃあ、君は、ミスティア・アーレンに、いじめられたわけではない……?」


「当たり前です!!」


ロベルト・ワイズの声は徐々に弱々しいものに変わっていく、

そしてアリスはそれを全力で否定した。


「そんな、おれ、は……」


呆然としながら、ロベルト・ワイズがこちらを見る。

ロベルト・ワイズが、どういった状況でトイレのことを知ったか分からないが、

今までの怒りの態度は、私がアリスを虐げているという誤解から来ていたのか。

だから、「卑怯者」とか、「最低」とか言ってたのか。

なるほど。トイレに呼び出し集団で囲む行為は確かに最低で卑怯者だ。


「もしかして、ずっとミスティア様を誤解して、酷いことを言っていたんですか?

 私が、あの時、どうして泣いたか、話さなかったから……?

 それだけで……さっきみたいな言葉を……?」


「……」


アリスの問いに、ロベルト・ワイズは、俯いた。

するとアリスが、ぐるんとこちらに振り返る。


「ごめんなさい、ミスティア様、私、助けてもらった後、ロベルトさんに会って……

 ミスティア様との約束を守るつもりで、黙っていました……本当にごめんなさい」


「い、いや」


「お礼も、ずっと言いたくて……でも、約束もあって……、

 あの時、本当にありがとうございました……、それに、今日も……!」


アリスが、目に涙を浮かべながら、私の手を掴む。

恐怖や怒りというより、感激に近い。え、何だこの状況は。

脳の許容範囲を超えている。処理ができない。


「ミスティア」


今、一番近づいてはならない声がする。ゆっくりと声のする方向を見ると、

レイド・ノクターが立っている。これ、一番よくないパターンではないだろうか。

しかも、どことなく、怒っているような気もする。


「もうすぐ鐘が鳴るよ、教室に戻ろう、アリス嬢も……ロベルトくんも」


鐘が鳴ると言われても、アリスは教室に戻れる状況だろうか?

さっきまで、クラスの人たちに糾弾されていたわけで。

睨んだと思われないよう恐る恐るアリスの様子を見ると、

ばちっと目が合った。


「私はもう大丈夫です! ありがとうございますミスティア様」


そう言って、笑う。一瞬レイド・ノクターに向けてと考えたが、

私の名前を言っている。

ふと視線を落とすと、アリスは私の手を掴んだままだった。

私の手を包み込むように掴んでいるから、

私が彼女の手を握りつぶそうとしているだとか、

攻撃しているようには見えないだろう。

アリスは私の視線の先を見て、ぱっと手を離した。


「あ! ごめんなさい! 私ったら!」

「いえ、何も、何も問題ないです、何もないです、気にしないでください」


大丈夫、とアリスに伝えていると、肩に手が置かれた。

完全に、レイド・ノクターである。


「来るのが遅くなってごめんね、行こう」


右にレイド・ノクター、左にアリス。

地獄の位置。なんだこれ、意味が分からない。

恐怖のあまり一歩後ずさりをすると、視界にロベルト・ワイズが入った。


力なくうなだれ、呆然とした目でこちらを見ている。


「あの……」

「行くよ、彼は少し今後について考える時間が必要だから」


私が口を開くと同時に、レイド・ノクターが私の腕を引く。

かなりの力だ。そのまま教室に向かって引きずられるように歩く。

そんな私の隣には、アリス。


後ろを振り返ると、ロベルト・ワイズは、

ただただ立ち尽くしていた。

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アリスがロベルトを叩いた描写がないまま、 「叩かれたロベルト」とあったから不思議に 思ってましたが、 94部で「アリスロベルトビンタ事件」と あったから、 描写はないけど、叩いていた……
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