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双子兄妹の変革

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


夜、広間にいる兄の元へ向かう。


「お兄様、今日、ミスティア・アーレンさんと、お会いしてきました」


そう伝えると、お兄様はゆったりとこちらを振り返る。


「どうだった? 彼女は」


「どことなく、不思議な方でした。

 本来、同じ爵位と言えど、そこの家の娘を助けたならば、

 自分の功績や恩恵に対するものに関心を持つはず、それが、全くない、

 むしろ早々に切り上げようとするくらいで……」


ミスティア・アーレンさん。

学校で襲われた私を助けたのは、

教師でも、職員でもなく、紛れもなく同じ制服を着た生徒だった。

痛みと熱で薄れゆく意識の中、その生徒……彼女がこちらに向かい駆けて来た。


私を台車にのせ、流し場に運び、処置をしてくれた。

自分の服が汚れることも気にせず、私を医者に運んでくれた。


そんな彼女は、アーレン家の令嬢だった。

アーレン家といえば、この国でも有数の伝統を誇り、血統を重んじる名門伯爵家。

あの家と繋がりを持つことは、家の繁栄に直結するとも言われ、

繋がりを持ちたがる家は多い。


有名な家だからこそ、その令嬢は注目され、その一挙一動は人々の話題をさらっていくもの。

けれど、アーレン家の御令嬢は、本当に目立った噂を聞かない。

どんな性格なのか、誰も知らない。


一度、私が十一歳の頃、茶会に出席した彼女を見たことがあったけれど、

話しかければ答え、お茶を飲む。

普通と言えば普通で、人を拒絶しているようには見えず、

何を考えているのか全く分からない、

感情が無いような、表情が無い令嬢。

家同士の繋がりを持つ為、話しかけるか迷っている間に彼女は消え、結局話すことは無いままだった。



その印象が、少し前に、全て覆された。


私を運び、全力で駆ける横顔。

馬車の中の、私を見る心配そうな顔。

医者についた時の、安堵した顔。


よく見れば、彼女にはしっかりと感情があることが分かる。


お礼の手紙を送り、返ってきた手紙には、

家の繋がりなんて、全く考えていない、こちらの回復を祈る言葉の数々。

一瞬、それが相手の思惑ではと穿った見方をしてしまったけれど、

実際に会ってみれば、むしろ早々に話を切り上げてくるくらい。

それに、家の繋がりなんて一切気にしていない、考えてもいないようだった。


「お兄様……私は、彼女と、友達になれるでしょうか、

 家の繋がりの為では無く、ただの……お友達に」


気にしないで、そう言われたけれど。

私は、私は、彼女と話がしてみたい。彼女を知りたい、と思う。


一度、彼女に話しかけようと思った。

家の繋がりの為に。あの時は、勿体ないことをしたかもしれないと思ったけれど、

今は話しかけなくて良かったと、心の底から思う。


今度は、家ではなく、人として、

私は、彼女と、友達になりたい。











----







「きっとなれるよ」


そう伝えると、僕の妹は、安心したように笑って、自室へと戻っていった。

一年生の入学式の次の日に襲われた妹は、もう、自分の足で歩く。

寝台に横たわることも無く、学校に通えるようにまでなった。

全て、妹を助けてくれたアーレン家の令嬢のおかげだ。

彼女には、感謝してもしきれない。

彼女が駆けつけて来て、処置をしてくれたおかげで、

妹は今を生きているといっても過言では無い。

それほど危ない状況だった。


そんな妹を襲った間者を仕向けたネイン家と敵対する家。

ゴート家が、取り潰された。

一家全員、牢に入れられ、異例の速さで裁判が行われ、死罪が決まり、執行された。

こちらとしては、良い報せだが、妙な流れだ。

首謀した当主では無く、一家全員が牢に入れられることも、

間者を送った罪で死罪というのも。全てが妙だ。普通の流れじゃない。

全く関係ない力が、ゴート家を消そうと働きかけたようにしか思えない。


自分の家の娘が関わったことで、火の粉がかかることを恐れて、

アーレン家が働きかけた可能性を、僕も、僕の父も考えた。

しかしアーレン家にはそうした様子も動きも見られず、真相は見えぬまま。


ただ、アーレン家に関係する何かが働いたのは確かだ。

今までネイン家の被害の訴えは、全て無かったことにされてきた。

よくある同列貴族間の諍いとして片付けられてきたのだ。

それが、アーレン家が関わった途端、止まっていたものが動き出した。


その何かが、どういう意思で動いているのか……。

一度、アーレン家の周囲について、調べたほうがいいかもしれない。

今こそ、アーレン家を守るような動きをしているが、

もしかしたら、その逆を目的として動いている可能性もある。

彼女の身に危険が迫れば、今度は、僕たちが手を差し伸べる番だ。


窓に目を向けると、星空がしっかり見える。

けれど、かすかに雷鳴が聞こえたような気がした。



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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