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良き嫁

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 入学式から四日が経ち。明日、五日目を迎えようとしている俺は夜、自室のベッドで呻き悶えていた。


 考えているのは、勿論俺の嫁についてだけ。


 俺の嫁が入学した。いや、嫁はまだ早いか。俺の恋人、ミスティアが、とうとう俺の学校に入学した。


 そして俺は、ミスティアのクラス担任。数あるクラスの中で、俺がミスティアのクラスの担任を任されることになったのだ。教室で俺を見るミスティアを思い出すたびに、この一年間ミスティアと問答無用でほぼ毎日一緒、という事実に喜びで暴れだしたくなる。


 はじめて、己のクラスの名簿表を見た時、運命はこうも俺たちに味方するのかと歓喜に震えた。こみあげてくる笑いをこらえ、床を睨みつけながら歩いていると相当な形相になっていたらしく、生徒どころか教師にも怯えられた。


 でも、嬉しいことばかりじゃない。俺とミスティアのクラスには、ミスティアの婿候補のクソガキがいる。


 レイド・ノクター。こいつだけどっかやりてえな、と思ったが、「いい教師」は生徒をどっかやらない。我慢した。


 そうして開かれた入学式、ホールは満員。新入生はかなりの数いたが、俺はすぐにミスティアを見つけた。きちんと座るミスティアは、制服に着られてる、って訳でも無く、しっかり着こなしていて成長が眩しかった。


 早く健やかに、早急にでかくなってくれと思う。ミスティアが歳を一つ取るたびに、俺も一つ歳をとる、年の差はいつだって、何年経ったって埋まらないが、早く大人に成長して、早急に、迅速に嫁に貰いたい。


 隣にクソガキがいたのを見つけた時はぶっとばしてやりたくなったが、新入生代表の挨拶をして離れていったから安心した。


 入学式が終わり、俺とミスティアのクラスに向かうと、二匹目のクソガキ、エリク・ハイムがミスティアにちょっかいをかけていた。


 ぶん殴ってやりたい気持ちを抑え、一睨みすると去っていく。生半可な気持ちで人の女に手出してんじゃねえよ。そう言ってしまいたいが、感情に流されるまま行動するのは簡単だ。ぐっと抑え教室に入ると、ミスティアと目が合う。


 そのままミスティアは、俺をまっすぐ見つめていた。


 ずっと一緒にいる時間があるから、ミスティアのクラスを持ちたいと毎日毎日毎日祈りに祈ってきた。なのに、胸が死ぬほど苦しくなる。下手すりゃ拷問かもしれねえな、と思いながら自己紹介を済ませている間も、ミスティアは真っすぐ俺を見ていた。


 俺も、同じようにミスティアだけを見つめたい、が、他の生徒の手前許されねえ。ミスティアお前無意識でやってるんだったら相当罪だぞ。


 と心の中でミスティアを少し恨む。なるべくミスティアを見ないようにして説明だのなんだのを進めたが、かなりの頻度でミスティアを見ちまっていた。


 顔がにやけるのも時間の問題だ、なんとかしねえとと思っても、俺の話を一生懸命聞くミスティアを前にして、目を逸らすなんて拷問でしかない。窓でも見るかと目を背けた俺の視界に、一匹目のクソガキが入ってきた。ああ、こいつなら大丈夫だ。絶対にやけたりしねえ。


 だから、俺のクラス担任一日目は、俺的には最高で、教師的には最低なものだった。




 二日目、もう昨日みてえな失態は絶対しねえ!


 そう心に誓い、教室に向かい飛び込んできたのは、ミスティアがクソガキ二匹に囲まれている光景だった。ミスティアが困ったような顔をしているのもお構いなしに、絡む二匹。一気に腹が立ち睨んでいるとうっかり肘を扉にぶつけていた。くそ、かっこ悪い。


 ミスティアに見られちゃいねえだろうかと確認すると、ミスティアはばっちり見ている。


 最悪だ、と思えば、ミスティアは「元気出して!」と応援するように俺に向かって一生懸命頷いていた。


 めちゃくちゃ、可愛い。元気が出ない訳ねえだろそんな顔しやがって。何だあいつ、天使の使いか、羽生えてどっか飛んで行かねえか心配になる。どこにも飛んで行かねえようにしっかりつかまえて、絶対守ってやるからなと決意を込めて頷き返した。


 そして今日実施したテストの採点をすると、ミスティアは学年二位だった。俺との将来を考えて勉強してくれている。ああ、褒めちぎってやりたい!めちゃくちゃに頭を撫でまわして、何でも贈ってやりたい。




 三日目、なんとミスティアが人命救助をしたと聞いた。火傷した女子生徒を処置したらしい。やっぱり俺の嫁は出来る嫁だ。本当早く嫁にしたい。可愛くて、真面目で、健気で、勉強熱心で、正義感が強くて、優しくて、怪我の処置をしようとするなんて、誰かにとられない訳ないだろ。それに馬にも乗れるし。くそ、馬なんか教えてやらなきゃ良かった。だが、馬がきっかけでミスティアと仲良くなって、恋人になれたから複雑だ……。


 怪我をしたのはネイン家の生徒らしい。確かその女子生徒には兄がいたはずだ。「妹を助けてくれたお礼に」なんて言って、ミスティアに近付いたらと考えると眩暈がする。ミスティアは絶対浮気しないだろうが、近づくだけで嫌だ。


 ああくそ、年上のくせに、心が狭い所を見られたくない。これから先、男子生徒と仲良くするミスティアを見ても取り乱さねえようにしねえとな。


 そして昼、ミスティアは別棟の空き教室で昼食をとっていた。そのままその教室に入りたい衝動を抑え、たまたまその隣の教室が空いて居たのでそこで食った。いつもと同じような購買のパンも、ミスティアが隣の教室で食ってると思うと御馳走だ。でも本当は、顔を合わせて食いてえ。


 放課後、用務員室の場所を聞かれた。人命救助を手伝ってもらった礼を言いにいくらしい。律儀だ。なんだよ天使か。やっぱ突然羽とか生えてどっか飛んで行く気がする。不安になって同行を申し出ると、ミスティアはそれを拒否した。「先生はお忙しいですし、申し訳ないです」と言って。心配なんてするなと言ってもミスティアは断固拒否した。


 もしかしたら、俺と一緒にいて、噂になることを恐れているのかもしれない。ミスティアは、俺との未来を考えてくれているのに。俺は目先の、ミスティアと一緒に居られるということに浮かれて、何も見えていなかった。反省した。


 そして四日目、今日の昼。昨日の事を反省して、心機一転正しい教師、正しいミスティアの旦那となるべく、俺は昼休憩に巡回していた。


 だが、クソガキ二匹に絡まれ困っているミスティアを見て、入れ替えていた心がどっかにいった。


 話があると嘘をつき、ミスティアを連れ出し、準備室にミスティアを閉じ込めた。これで誰にも邪魔されねえな、と鍵をかけて。


 ミスティアを見るまでは、ちゃんと正しい教師であろうと思ったのに、ミスティアを見た瞬間それが飛んだ。


 本当堪え性が無いの何とかしねえと、ミスティアに呆れられちまう。もしかしたら呆れ始めているかもしれない。正直に話なんてなく、嘘をついたことを白状すれば、ミスティアは感激したように俺にお礼を言った。


 俺は調子に乗った。前に親父に、「お前は見かけによらず単純だ」と言われた時は、「てめえの単細胞に似たんだろうが」と言い返したが、親父は正しかった。俺は単純で、どうしようもない馬鹿だ。


 その日は、ミスティアと一緒に昼を食った。向かい合って。話をしながら。最高の時間。ミスティアと食う飯は、本当に最高だ。結婚したらこれが毎日、当たり前になる。食い過ぎで太らねえよう鍛えとかねえと。ミスティアに、これから先も、気が向けば、来てもいいと言った。出来れば毎日来てほしいが、人目もあるし、将来もある。


 途中、勢いのまま、ミスティアに家庭訪問の日程を、最終日最後の時間にしていいか聞いたら快く了承してくれた。ミスティアから提出された紙には都合が合っていたが、一応本人の了承も欲しかった。恋人だし。


 勿論教師と生徒という立場上、恋人として挨拶には行けないが、しっかりと挨拶をして、将来の義理の両親にいい印象を与えたい。最終日、最後の時間にすれば、それまでたっぷり準備が出来る。


 結婚の挨拶の、予行練習。いつか必ず来る、ミスティアを貰う為の挨拶の、予行練習だ。


 そう考えて、気付いた。いや、練習でも何でもねえ、相手は嫁の、いやまだ嫁じゃねえ、恋人の、大事なミスティアの親だ。いつだって本番じゃねーか!


 俺は勢いよくベットから飛び上がると、未来の嫁の両親にしっかりとした挨拶をすべく、文言を考えるため机に向かって羊皮紙を取り出し、ペンを走らせた。





●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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