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連立交戦


◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

最新コミックス2025年06月02日発売 該当メイン章 夏の地獄(悪役令嬢とかけ落ちる者・ミスティアメロエリク編)

 五日目。ようやく、ようやく五日目である。明日からは二日間の休み。最高の気持ちだ。今日を無事に終わらせることが出来るならば。足の痛みは治まった。爆発していなかった。良かった。


 今日は料理長が弁当の準備が迅速に出来るようになったと嬉々としていた。「別に遅くても大丈夫ですよ」と返すと、悲しそうな顔をしたので早朝の登校である。もしかしたら、料理長の中でタイムアタック的な、そういうのがあるのかもしれない。


 今日のお弁当も楽しみだと、浮かれた気持ちで教室に入ろうとすると、私の席に男子生徒が座っているのが見えた。もしかして、と後ろ姿を注視すると、やはり二日目に教室を間違えていたFクラスの男子生徒であった。


 きっとまた間違えを指摘されたらショックだろう。しかし、今はまだ教室に私と彼だけだ。傷は浅いはず。


 一歩進み教室に入る。するとその男子生徒は、こちらを振り向き、ニタァ、と特徴的に笑う。


 ……あれ、何だこれ。すさまじく嫌な予感がする。本能的な危機感の元、一歩後ずさると、男子生徒は口を開く。


「逃げないでよミスティア嬢、どーみても怪しいもんじゃないだろ?」


 いや、どう見ても怪しい。正直、制服を着ているだけの不審者にしか見えない。男子生徒はニタニタ笑っている。そこに、二日目で見た様な「クラスを間違えてしまった少年の面影」というものは全くない。


 二日目と様子が違い過ぎる。学校デビューで済まされるレベルでは無い。正体不明の謎の生物に擬態、もしくは寄生されました、と言われたほうがまだ信じられる。それに怪しくない人は自分で怪しいものじゃないなんて言わないはずだ。名前を名乗った覚えはないのに、名前を知っているところも怖い。今からすぐに逃げたとしても、私の足じゃ確実に追いつかれるだろう。さて、どうすべきか。


「あぁー、まずは自己紹介からしたほうがいいか」


 そう言いながら男子生徒は立ち上がると、私に背を向ける。今がチャンスだ、逃げよう。音を立てないように慎重に一歩後ずさる。


「逃げるなよ、つまんないから。それに俺何するか分かんないし、すぐ追いつくから」


 こちらを一切振り返らずに男子生徒は言い放つ。詰んだ。こちらの行動を読んだのか、それとも感知したのか。


「はじめましてこんにちは、俺の名前は最後のお楽しみ、ってことで、えー、まずは趣味から?」


 名前を後回しにする自己紹介があるか。斬新すぎる。


「趣味は、楽しーこと探し。楽しいことをして、楽しく生きるのが信条」


 何となく、明るい話題だが、破滅を感じるのは何故だろう。


「そしてお前が、そんな俺に面白さを、刺激を与えてくれる、ミスティア・アーーーーーーーーレンっ」


 突然の大声に心臓が跳ねる。大げさすぎる身振り手振り、口調はどこか芝居がかっている。情緒が分からない。怖い。なんなんだ一体。びっくり箱を前にしている気分だ。


「お前と俺の出会いは入学式……、澄み渡る青空、輝く太陽は、夏のきらめきこそ感じさせないものの、それはそれは美しく、まるで夢を前にした……。……ああこの話し方疲れたわ、やめた。入学式、下駄箱で絶望した顔するお前見っけて、どーも面白そーなやつが居るなぁと思ってさぁ……、次の日偵察がてらてきとーに教室来たら? ご本人様が登場して? 適当に話してたらまあ面白くねえんだわ」


 ということは、二日目に教室を間違えたのは、わざとだったのか……。面白そうな、というところは笑顔で、面白くないというところは本当につまらなそうな顔をしている。中々の演技派の様子だ。


 このまま走って職員室に向かえばいいのだろうか。しかし彼は不審者では無くFクラスの生徒であるところが難儀である。


「そんで、がっかりしたわけよ、俺は。面白いと思ってた、お前が、くっそ馬鹿みてえに、全く持ってつまらねぇ人間だったことにさあ……ショックを受けて! ……泣きながら悩んで悩んで悩んでえ、でももしかしたらって、お前の周り、ついて回ってたってわけだなあ」


 ストーカー確定である。もう通報してしまうか。一歩下がり扉と自分の立っている位置を確認する。


「そし! たら! さぁ! 早速女が鍋ぶっかけられるところに居合わすわ、生徒会長最有力候補レイド・ノクター様様様様はお前に執心してるわ、エリク・ハイムもご執心、そんな奴らは平民のアリスとも関わりがあるみてえだし、あとちょろちょろ〜も最高な感じで! ……とにかく、お前はくそつまんねー、けど、お前の周りは面白いことに気付いちまったんだなーこれが」


 レイド・ノクター様様様様ってなんだ一体。それに突然すぎないか。全部が突然である。訳が分からない。色々展開が早すぎる。混乱していると、彼が教卓から降り、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。


「んーで、やっぱり俺の直感は正しかった! っつーことで、これからは、こそこそすんのやめて、大々的に、お前と仲良しこよしすることにしたから、よろしくってことで、ご挨拶に馳せ参じました、ミスティア様……なんてなあ」


 ぺこりと一礼。さっきまでの荒ぶりが嘘のように、綺麗な礼だ。


「そんで、最後のお楽しみお名前の御披露の時間。俺の名前はクラウス・セントリック、ながーい、ながあいお付き合いになるので、以後お見知りおきを……」


 彼はするりと教室から出て扉の前に立つと、にたりと笑ってからゆっくり扉を閉じ去っていった。


 何なんだ一体、幻か?瞬間最大風速の風が吹き抜けていったような爆速感。


「クラウス・セントリック……?」


 彼の名前を呟くと、全身に衝撃が走り、頭がぐるぐるとかきまぜられるような衝撃が走り、頭の中に映像がなだれ込む。そうか、彼に感じた嫌な予感は、彼のふるまいではなく、彼自身に対してだった。


 思い出した、完全に。彼の黒髪から覗いていた、金色の瞳。間違いない。彼は……、きゅんらぶの……


 確信に至る寸前、瞬間がらりと扉が開き飛びのく。するとそこには、去っていったはずのクラウス・セントリックがにたりと笑っていた。


「いなくなったと思った? いまーす! でもまぁ、一人のお前見てても楽しくないし、今日は行くわ」


 扉はゆっくりと閉められ、足音が徐々に小さくなる。今度こそ、Fクラスに戻ったのだろう。どうかしている。


 そんなどうかしている……、彼。彼はただのFクラスの生徒では無い。


 クラウス・セントリック。きゅんらぶにおいての重要人物だ。


 学校全体の情報を網羅し、主人公に情報を与えるサポートキャラクター。そしてミスティアに次ぐ問題児。


 問題児である要因はただ一つ。それは、彼が「面白そうだから」という理由でしか動かないところだ。逆を言えば、面白いためならなんだってする、享楽主義と刹那主義の複合型。「絶対的に、楽しくありたい、面白いものを見ていたい」そしてその為には手段は選ばないという天性の悪魔的思考を持つ。


 主人公、アリスにも「面白そう」「楽しそう」と近づいていき、アリスに攻略対象の居場所や精神状況の助言をしたかと思えば、ミスティアにアリスとレイド・ノクターが仲が良さそう、と伝えてみたり、とにかくひっかきまわす。自分から誰かを苦しめたり、助けるようなことはしない。あくまで「仕向ける」ことに特化する分より性質が悪い。子供ながらの残虐性と感受性を増幅させたまま行動力と知能を得た性質の悪い人である。


 彼の難しい所は、己の行いを「悪」だと認識して、それらの罰を受ける覚悟を持ちつつ、物事をひっかきまわそうとするところだ。いわば捨て身の娯楽精神。サポートキャラには程遠いが、サポートキャラである。悪逆非道のミスティアが存在するきゅんらぶの世界で、主人公のサポートを行う為には、ある程度何かが逸脱しなければならないのかもしれない。


 彼が私に興味を持った理由は、多分言葉通りのまま。私の周囲が面白いから……。何をどう見て、どう聞いてそうなったかは意味が分からないが、レイド・ノクターとエリクが私に執心だと誤解した為だ。


 ということは。何よりも享楽を愛し、人の破滅を楽しむ彼が、さらなる享楽を求め、この先、アリスが入るのがレイドルートだろうが、エリクルートだろうが、「ミスティアがアリスに嫌がらせをして泥沼の三角関係をしている」なんて噂を流しかねない。


 まずい、非常に、まずい。なんで五日目でこんなバッドエンド直通便に乗ってるんだ。意味が分からない。


 ……いや、逆に考えよう。彼はゲームではミスティアに、主人公の居場所を教えていた。きっと今回も、教えてくれるはずだし、アリスをサポートして、攻略対象との仲を進めてくれるキャラだ。


 そうだ、そうだ、ポジティブにいこう。前向きに考えよう。もしかしたら、ゲームでさっきのような一幕があったのかもしれない。


 登校するミスティアに、クラウス・セントリックが自己紹介をする一幕が。そこで「アリスとレイド・ノクターめっちゃ仲良しだね?」なんて煽った可能性は……


「めちゃくちゃ高いな……」


 なんてったって彼は煽りの天才である。火の無いところに煙を立たせる天才。可能性は充分に高い。大丈夫だ。今日の様なイベントはきっとあった。


 いや無理だ、そこまでポジティブに考えられない。


 今日はとりあえず、今日は授業を受け別棟に逃げを繰り返し、昼食になったら準備室に行こう。うっかり攻略対象と遭遇したら、クラウス・セントリックによる主人公を召喚、またはその逆の可能性がある。むしろ可能性しかない。とりあえず朝のホームルームまで別棟のトイレにいよう、昨日とは階を変えて。


 そうして教室から出て、別棟への渡り廊下に向かう。クラウスが突然現れてきたりしないか不安で仕方なく、何度も後ろを気にしつつ、気配を殺して迅速に。


 どうしてこうなったんだろうか。昨日から厄日が始まったとか?意味が分からない。原因を思い返しながら渡り廊下を渡っていく。


 そうだ、今日はもう、いっそ帰ってーー……


「君は最低な人間だな」


 声のした方を向くと、攻略対象、勤勉な彼、ロベルト・ワイズがいた。周囲を確認すると誰もいない。おそらく私に発言しているらしい。


 え? 最低?


 なんて返そうか。あまりにも脈絡がなさ過ぎて意味が分からない。「最低な人間だ」と言われる行いを彼にした覚えが無いし、会話をした覚えも無い。私がこの学校に来て会話をしたのは、ほぼレイド・ノクターかエリク、そして先生である。あとは用務員のアリーさん。


 レイド・ノクターに対しては度重なる無礼な行為をしている。「最低!」と言われても仕方ないことを散々している。でもロベルト・ワイズとは、自己紹介会を除けば今が初対面。


 ……もしかして挨拶されていたのに、気付かなかったとか?何回か挨拶されたのに私が気付かず、彼は無視されたと感じているのかもしれない。


「おはようございます、あの、ごめんなさい。よく聞こえなくて」


「……っ! 君は! 最低な! 人間だと! 言ったんだ!」


 ロベルト・ワイズはより怒りのボルテージを上げた。火に油を注いでしまった。彼がミスティアに怒るイベントじゃないよな……? 一つ一つ思い出そうと考える。


 すると、思い当たるところがあった。イベントでは無いものの、彼は騒いだり暴れるミスティアを、


「ミスティア嬢、静かにしてくれないか」


「その振る舞いは貴族らしくない」


 と注意していた。日常的に。わりときつい言い方で。すっきりした。これだ。思い出した。うんうん、そうだ。そんな感じの人だ。彼のこの、ミスティアに対する喧嘩腰の感じは正常である。正しい状態だ。


 やっぱり、挨拶を無視してしまったことに違いない。


「返事は無いのか!」


「ごめんなさい、あの、意図的にした訳では無いんです、考え事をしー……」


「この期に及んでしらばっくれるつもりか! ……本当に君という人間は! 貴族としての自覚が無いのか?! 知られなければいいと……そんな卑怯な考えで……!」


 貴族の自覚……、そうか! 学校で走りよりの早歩き……いや走った。確かに入学式の時に走った。その時のことも、か?無視と、入学式ダッシュ、この二つか!


「あの、入学式の時に走ったこと、それはただただ私の不徳の……」


「はあ? 何を言っているんだ! 話を変えるな! そこまで、そこまで君が卑怯者だとは思わなかった!」


「あの、無視したことは本当に……」


 そう言って頭を下げると同時に、何かが私の横を通る。


「彼女を侮辱するのはやめてくれないか」


 声の主……、レイド・ノクターが、私の肩を掴み顔を上げさせると、私の前に立った。ゆったり話しているが、その声には明確な怒りと冷たさがある。


 脳がレイド・ノクターの存在を認識した瞬間、すっと頭が冷えていく。


 あれ、何でレイド・ノクターがここに居るのだろうか。というか、これ、かなりまずいんじゃないか。エリクとレイド・ノクターが現在水が合わない。そしてさらにレイド・ノクターとロベルト・ワイズの水が合わなくなれば大問題だ。確かゲームでは、わりと穏やかな関係だったはず。え、まずいこれ、かなりまずい。


「れ、レイド様、これ、違うんですよ、誤解しています。ちょっと待ってくださいあのですね、私が彼を無視してですね、それは結果的にというか、とにかく違うんですよ、侮辱とかじゃないんです、全然違くて」


 慌ててレイド・ノクターの肩を掴むが力の差は歴然である、びくともしない。


「レイド・ノクター、君には関係ないだろう!」


 ロベルト・ワイズが声を荒げる。まずいまずいまずいまずい。誤解に誤解が生まれている。「え?何この人突然どうした?」とは思ったが、彼は、理由なく人を侮辱する人間では無い。そんな彼を、同じく正義の心を持ち真っ当な……、


 弟狂いを除けば真っ当な、公平、公正のレイド・ノクターが誤解してしまう状況は非常に良くない。


 この誤解は何としてでも解かねば。声をかけ、誤解を解こうとするものの、どんどん二人のやりとりは悪化していく。


「あの、レイド様、誤解でー……」


「話をすり替えないでくれないかな? 僕は、一方的に相手を侮辱するなんて、ワイズ家の当主になるものとして恥ずかしくないのかと、君に言っているんだよ」


「くっ……!」


 穏やかにレイド・ノクターは話す。対してロベルト・ワイズは憎々しげに顔を歪め押し黙る。まずい。ワイズ家の立派な当主を目指しているロベルト・ワイズにとって十分すぎる精神攻撃である。まずい、二人の間に溝が出来てしまう。


「待ってください、レイド様、あの本当に誤解だってー……」


「それに、関係ならあるんだよ、彼女は、僕の、婚約者だ」


 レイド・ノクターが高らかに宣言する。時が止まったような感覚に陥る。


 いや、ぼーっとしている場合じゃない。周囲を確認する、大丈夫。誰もいない。私、レイド・ノクター、ロベルト・ワイズしかいない。いや駄目だ、ロベルト・ワイズがいる。彼も私と同じような驚愕の表情をしていた。


「な、何を言っているんだ? そんな話何も」


「発表前だからね、学業のこともあると、慎重なミスティア……彼女の意向で内密にしているつもりだったんだ。だから、関係はあるんだよ。これで僕と彼女の関係性は理解した? 何か他に返したい言葉は?」


 レイド・ノクターが冷ややかな目をロベルト・ワイズに向ける。


「……。もういい、君たちに割く時間は無い」


 ロベルト・ワイズは、後ずさりをした後、足早に立ち去っていった。その背中を呆然としながら見つめた後、レイド・ノクターに振り替える。


「あの、レイド様、誤解がありましてですね、どうやら挨拶を無視してしまったらしくて」


 とりあえずまずはレイド・ノクターに事情を全て説明し誤解を解こうとすると、レイド・ノクターは、さっきとは打って変わって随分と落ち着いた表情をしていた。


「誤解もなにも無いよ、僕は全部知ってる。最初から見ていたから」


「え」


「君こそ彼に対して、誤解をしているよ。歩いている君に、彼は初めから最低だ、と突然罵った」


 エスパーである。心が完全に読まれている。


 ん……? 無視をしていなかった……? ならば一体なぜ最低と言ったのだろうか。何かしら理由があるはずだが……。


「だから、誤解なんて何もない……あとそれと、君に二つ謝らなければいけないね。様子を見過ぎて、間に入るのが、遅くなってしまったことと、それと婚約者だっていうこと、勝手に話をしてごめん」


「そうですか……」


 いやそうですかじゃない。婚約者だってことが知られてしまった。アリスとレイド・ノクターの円満な恋愛ライフが崩れ……、でも、ロベルト・ワイズは「あの二人婚約者でーす!」と広めるタイプでも無いな。


 多分。大丈夫なはずだ。それに、「元々愛も何も無く、親同士が決めた事でーす」と私が広めればいい。うん、大丈夫。


 ふと、目の前にいるレイド・ノクターを見る。そうだ、彼は、助けに入ってきてくれたのだ。


「ミスティア、そろそろ教室に行く時間だよ」


 そう言って、レイド・ノクターは教室に向かい、ゆっくりと歩みを進める。


「ミスティア?」


「すみませんでした」


「え?」


 レイド・ノクターの目を見て、頭を下げる。


「あの、常々ご迷惑おかけしてすみません。それと、庇ってくださり、ありがとうございました」


「あー、うん……、そうか……、あ……ああ、顔、あげて、分かったから」


 言われた通り顔を上げると、レイド・ノクターは、不思議なものを見る目で私を見ている。


「えっと」


「うん、ちゃんと聞いているよ、ごめん、五年分が一気にくることが最近増えて、ちょっと戸惑っているだけだよ」


 大丈夫、大丈夫と彼は頷いているが、全然大丈夫には見えない。五年分とは、一体。


 ああ、そういえば、彼の弟であるザルドくんが成長している年数だ。


 もしや今日、何かしらの弟とふれあいイベントが起きたのだろうか? 例えば、「おにーさま、大好き! 学校頑張ってね!」みたいな。私も高校に入学して今頃の時期に「おい、行ってら」と妹から入学祝いを投げ渡された時は嬉しかった。そんな感じのふれあいイベントが、今日あって、現在レイド・ノクターは思い出し、萌えているのでは。いわゆる、思い出し萌えでは。


 分かる、分かるぞそれは。私も思い出して「いやぁ、うちの妹はいい妹だなぁ」としみじみしていた。


 レイド・ノクターが思い出し萌えをしている……? いや、思い出し萌えではなくても、五年の月日は確実にザルドくんとの月日である。レイド・ノクターが何かしらで現在ザルドくんの五年分の何かしらを考えていることは確かだ。


 そして! ザルドくんに関して考えているにも関わらず、そこに暗さ、闇、弟狂い感は無い。普通のさわやかな感じだ。優しいお兄ちゃん。すごい爽やか王子感!! 弟狂いの症状が、緩和されている!


 今までちょっとした業務連絡的会話の中で、私がザルドくんの名前を出すと瞬時に闇に染まったり、彼が私にザルドくんの話をする時、めちゃくちゃ冷たい目をしていたが、今の彼にはそれが全くない!


 すごい! アリス治療すごい!! 恋の力すっごい! 効果めちゃくちゃ出てる!! これは弟狂い早期完治まった無しでは?


 エリクのご主人ごっこ狂いだって、早期完治が見込める。投獄死罪使用人一家離散に一歩一歩近づいてしまっていると思っていたが、一歩一歩離れている!


「えーっと、教室行こうか、ミスティア」


「ええ!……いや、お手洗いに行ってから、向かいますので、どうぞお先に」


「……ああ、分かった、じゃあ、教室で」


 危ない、うかれ顔で「ええ!」とか言っちゃったわ。危ない危ない。危うく一緒に教室に向かうところだった。せっかくの更生の道に置き石してどうする。


 私は希望を感じながら、レイド・ノクターに背を向け、お手洗いに向かったのであった。



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