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入学前夜に悪役令嬢は状況を整理する

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 とうとう、明日は入学式だ。


 自室のベッドの上で、手鏡を見つめる。まごうことなきゲームのミスティア、もとい十五歳の私。当然だが、十歳の時から一歳ずつ歳を重ねて来た。そして加齢とともに、私は成長するわけで。そしてその成長はどんどんゲームのミスティアに近付くもので。「これ、いつか私の意識が途絶えて、ミスティアに成長しちゃうんじゃない?」と思ったこともあったが、入学前日である今日も今日とて私として生きている。


 そして、明日は入学式だ。とうとうゲームが開始される。


 その前に、現在現状の整理をしなければならない。何が始まる時でも、時間、場所、人、これからの目標を確認するための事前の状況整理は必要だ。


 まず、入学式から一年間。明日から、三月末までの一年間が、「きゅんきゅんらぶすくーる」のゲーム本編。開始からクリア、つまりエンディングの一年間だ。


 明日、主人公は私やレイド・ノクターと同じ、貴族の集う学校、正式名称は国立貴族院高等学校に入学する。そして、主人公は攻略対象、そして友人、サポートキャラ、ライバルキャラなど様々な人物と出会い、時に泣き、時に笑い、時にきゅんきゅんして、助言、サポート、妨害を受けつつ、ルートによっては死の危険に晒されながら、一年間を過ごし、最終的に誰かと結ばれたり結ばれなかったりするのだ。


 あれ、サポートキャラの記憶がぼんやりしているけれど、まぁいい、関係ない。


 そしてその攻略対象たちは今現在、狂いが生じている。


 一人目、レイド・ノクター。


 彼は性格こそゲーム通りなものの、無関心気味の困った婚約者扱いしていたはずのミスティアこと私を、少年に対し常軌を逸した愛情を注ぐ人間と勘違いしている。そして弟狂いの病を患っている。要するに異常、深刻なバグが発生している。早急に主人公と出会わせ治療しないと、彼自身、彼の弟であり執着の対象である大天使ザルドくんの精神衛生にも悪い。


 二人目、エリク・ハイムだ。


 黙ってさえいれば雰囲気や見た目は変わらないものの、私をご主人と呼び追尾している。誰がどう見ても正気ではない。五年経っても変わらない主従ごっこ遊び。彼は修羅の道を歩いている。彼に関して、現在正常な点は、容姿、優しさ、人当たりくらいだと思う。家庭教師イベントを破壊した私の罪は重く、早急に主人公と出会わせ、「本当の幸せ」を取り戻してもらわなければならない。


 最後に、ジェイ・シークことジェシー先生だけが、唯一正常だ。安定している。彼ほどまでに原作通りのキャラクターはいない。本当に先生に対しては安心感しかない。交流は続いているが、ただゲームで彼が語っていないだけで、ミスティアとジェシー先生は案外接点があったのかもしれないほど自然だ。


 そしてまぁ、ロベルト・ワイズだ。彼はちょっとよく分からないものの、わざわざ何かをする必要も、わざわざ関わりあう必要も無い。


 そんな攻略対象が集うきゅんらぶの舞台である、国立貴族学校。


 前世……現代的に言えば高校である。貴族が集うと言えど、その仕組みや在り方は基本的に前世……現代の高校に準拠しており、授業内容から、委員会や部活などの生徒組織の他、文化祭などの学校行事もしっかりあり、本当に高校である。クラシカル高校、みたいな。


 しかし国立、といえど在校生の保護者の寄付金でも賄われている部分もあるので、国が関与している私立。というのが正しいかもしれない。


 ちなみに校訓は「自立」貴族と言えど、自分のことは自分で出来るように、ということらしい。確かに「校訓だから仕方が無い」という行事系のイベントが多かった気がするものの、思い出せない。怖い。ちなみに、「自立」を促すため、生徒の使用人は出入り禁止だ。


 部活やテスト、文化祭などなど前世……現代の高校っぽさがある。確か購買も学食もあった、はず。入学説明会の時にも着ていたけれど、制服は赤みがかった黒というか黒みがかった赤のブレザーに、指定のシャツ、リボン、ベスト、スカート。ジャンパースカートやボレロもあるらしい。流石、中世のいいところだけをとって、複雑なところは曖昧化したり現代化した世界観。


 最後に、私の目標、と目標達成のためのやるべきことの確認だ。


 目標はただ二つ、一家使用人離散、投獄死罪デッドエンドの回避。エリクとレイド・ノクターの更生。


 正直、婚約したまま入学することは想定外だ。しかしこれは私の軽はずみな、前世妹思い出しにやつき不審行動と、先の見通しが甘かった私の自業自得である。


 現在、レイド・ノクターは弟に狂っている為、私との婚約を解消したがらない。それは自分が婿に行き、弟に家督を継がせる為。円満な婚約解消を目指すには、レイド・ノクターの協力が必須。そのためにはまず、レイド・ノクターの更生をする必要があり、それは最悪エンディング間近までかかる可能性がある。


 だからこそ、やるべきことだけは、絶対やっておかなければならない。「やるべきこと」、というより「してはいけない」だが、とりあえず私の全うすべきことは、


 主人公と関わらない。


 主人公とレイド・ノクターが一緒にいる時に近付かない。


 その二人に関する不用意な発言をしない。


 この三つ。


 そもそも私は、デッドエンド回避以前に、ゲームのミスティアの様に、主人公に嫌がらせなんてしない。レイド・ノクターが好きじゃないからしない、ではなく、人に暴力をふるったり、陥れたりしようとすることは嫌いだ。


 よって何もしなくても、投獄とは無縁かもしれない。しかし、何が起きるか分からないのが人生だ。人間は誰だって些細なきっかけがあれば「誤解」をする。


 例えば、私が前を見て歩いていなかったせいで、主人公とぶつかってしまったとしよう。勿論わざとでは無いが、人によっては突き飛ばしたと見えるかもしれないし、主人公からしたら、殴ってきた。と思うかもしれない。人の感じ方は様々だ。だからこそ、関わらないことだ。


 関わらなければ、ひょんなことからの投獄への布石に発展することは無い。


 そしてレイド・ノクターと主人公が一緒に居るところに近付かなければ、ひょんなことからの投獄への布石に発展することも無い。


 更に、レイド・ノクターと主人公への不用意な発言をしなければ、ひょんなことからの投獄への布石に発展することも無いのだ。


 つまり投獄ステップは踏まない。なおミスティアはゲームで二人の邪魔か、主人公への加害行為しかしていない。関わらないことで二人の仲が深まらない、なんてことはあり得ない為、その点は安心である。レイド・ノクターと婚約解消が出来ていない現在、触らぬ神に祟りなし理論で行くのは必須だ。


 さらに、私はレイド・ノクターとエリク、二人の更生もしなければならない。


 現在の彼らは狂っているが、主人公と恋をすることできっと更生する。私はエリクが主従ごっこ狂い、レイド・ノクターが弟狂いになったことで発生しなくなったり、失敗しそうな恋愛イベントを、何とかして発生させ成功させる。主人公が誰を好きになるかは分からないが、イベントさえ発生し、主人公に関われば、彼らは主人公を好きになり更生するに違いない。大丈夫。


 表では傍観しつつ、裏ではサポートに徹する。ドラマティックなストーリーをさらに殺伐と盛り上げる悪役では無く、ロマンティックなストーリーを潤滑に進めるモブとして。


 そしてその入学式イベントだが、記憶はしっかりある。多分、ミスティアも出ていたから記憶に強く残っているのかもしれない。


 朝、登校してきた主人公が校門の前で転びそうになり、それをレイド・ノクターが抱き留めるのだ。エリクはその一週間後に、平民の女の子は珍しいと言ってちょっかいをかけていたので、まだ出会いの段階じゃない。


 確か、入学式前にレイド・ノクターと出会うシーンの後、三行、四行のモノローグでささっとエリクとのイベントに移行していたから、気を付けなきゃいけないのは明日だけ。明日に全力を注ぐ。


 確か、二人がいい感じになってる途中で、レイド・ノクターの後ろから、「約束していたのに、置いていくなんて酷いですわ」とミスティアが現れる。長きにわたるミスティアと主人公の因縁の始まりだ。


 その後ミスティアは「レイド様に抱き留められた〜」と、物語後半まで入学式のことを何度も何度も何度も何度も掘り返していた。それはもう、寿限無を習いたての子供が詠唱を繰り返す如くである。身近な永遠を感じるほどに。


 ミスティアは、「約束していたのに」と言っていた。そして「置いていくなんて酷い」とも。ならばレイド・ノクターの後に登校しなければいいのだ。そうすれば因縁ははじまらない。些細な事からこつこつと。ミスティアと主人公の因縁を減らす。


 それにミスティアは二人がいい感じになってる途中で、「約束していたのに、置いていくなんて酷いですわ」と後ろからやって来る。ようは邪魔をしたのだ。


 しかし明日、ミスティアこと私が邪魔をしなければ、二人はいい感じを継続できる。恋愛イベントが二段階くらい進んでもおかしくない。もうそのまま結婚してほしい。


 とにかく、レイド・ノクターの弟狂いはきっと恋のパワーで完治する。後はエリクとどうにかなるのを見守ればいい。


 明日を考えると胃は痛むし頭も痛むが、私が全て招いてしまったことだ。自分で蒔いた種の責任はしっかりとらなければいけない。それに約束なんてしていないし、明日はささっと一人で登校するだけでいい。レイド・ノクターと主人公のいる場に居合わせなければいいだけだ。


「よし、やるぞ」


 声に出して、気合を入れ、私は明日に備えるべく早々にベッドに入る。明日は、早く起きて、早く学校に行く。もうメロには言ったし、使用人のみんなにもお願いをした。準備は万端だ。


 私は、不安を抑え、明日に強く意気込みながら、目を閉じて明日を待った。



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

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何一つとして計画が大丈夫でない予感しかないのがすごい
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