春 Jの想いは加速する
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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昼、学校にあるパン屋の袋を持って職員室へと向かっていく。袋の中はメロンパン、果物のパン。チーズのパン、クリームのパンだ。
ミスティアが入学した時、うまいものを教えてやりたいと食堂でもパン屋でも毎回違うものを頼むようにして、今日はこれだ。ほぼ甘いやつ。正直甘いもんは得意じゃない。それどころか普通にきつい。だが、ミスティアの為だと思えば、何でも食える。愛の力だ。
でもパン屋も、食堂に置いてあるパンも、甘いものが多い。流石に全部甘いパンは堪えるからと塩みのあるパンも選んだつもりだったが、少し魚や肉を使ったような……それこそパイや、キッシュのひとつでも置いてもらいたい。パンみたいなものだし。だがそれらしきものは一切無い。
ミスティアが入学するころには増えるだろうか……? しかし確かパン屋と食堂のメニューは約六年ごと周期的に変わり、それは去年一新されたと聞いた。ならミスティアの入学する年も今年と同じものになるはずだ。
うまいもの、探さなきゃな。ミスティアが入学したとき、おすすめとか分かるやつでいたい。
そうだ、食う場所も探さなきゃな。
なるべく人目のつかないところ、それでいて空気のいいところがいい。あと景色もよくて……、そう考えながらふと窓の外を眺めると、見覚えのある顔が、女子生徒を引き連れて歩いているのが見えた。
あのガキ、確かミスティアの屋敷から出てきた、花婿候補のやつだ。この学校の生徒だったのか。
ガキがこれから昼を食べに行くのかは分からないが、まるで後宮を築き上げる王の如く両腕に女をはべらしている。ミスティアの花婿候補は脱落したのか。
じゃあ、図書館ですれ違ったガキの方が婚約者か? でも確定したわけじゃない。この女癖悪そうなほうが、ミスティアの婚約者だってあり得る。まぁ女癖悪かろうがどうでもいいか。ミスティアと結婚するのは俺、ミスティアが好きなのも俺だ。
でも、ミスティアは可愛い。正直人間の顔なんて興味無かったし、皆同じ顔に見えたが、そんな俺でも可愛いと思うほどミスティアは可愛い。そんな可愛いミスティアを前に、この女癖悪そうな奴が手出さない訳がない。絶対触ってる、触ってなくても嫌がるミスティアに何かしようと思ったことはある。
駄目だ、腹立ってきた。ぶっとばしてやりたい。触っていたならもう二度とミスティアに触れられないように、触っていないならこれから先ミスティアに触れることが無いように。腕二本とも折ってやりたい。
……いや、そんなこと知ったらミスティアは悲しむだろう。優しいし。平和主義だし。正義感強いし。いっそ突然消息絶ってくれればいいのに。
忌々しく床を睨みつけていると、突然肩を叩かれる。慌てて振り返ると、先輩の教師が立っていた。
「もう、ジェイ先生ったら!」
「え」
「お昼、終わっちゃいますよ? 全然来ないから探しましたよ?」
そう言われ時計を確認すると、もう休み時間終了までまであと五分になっていた。ああ、ミスティアのことを考えて、ぼーっとしちまった。多分この様子じゃ、何度か声をかけられていたのだろう。来年担任を任せてもいいと思われるよう、教師陣の信用も得ておかなきゃならないのに。
「すみません、生徒のことで、つい……」
「熱心なのはいいことですけれど……ジェイ先生は新任ですし、あんまり思い詰めないでくださいね」
「ありがとうございます」
ちょっと生徒のぶっとばし方を考えてたもので、なんて言えるはずがなく言葉を濁すと、先輩の教師は俺の事を思い悩む新任教師と捉えたようだった。去っていく背中を見送り、手元を見れば、袋に詰められた甘いパン。俺はせめて一個は消費するぞと職員室へ向かう足を速めた。
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