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夏 Jの逢引

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 今日は、半年ぶりのデートだ。はやる気持ちを抑えているつもりが、足が浮き立つ。早く会いたい。早く、俺のミスティアに会いたい。


 ミスティアに会えないと言ってから、約一年。教員採用試験に無事合格した俺は、来年の春から教師として働くことが決定した。それも赴任先の学校は、学区的にミスティアが通うことになるであろう貴族学校。あと二年経てば、あいつが生徒として通う学校だ。


 ミスティアを嫁に貰う第一歩が踏み出せたことも嬉しいし、あいつと会う時間も嬉しい。さらに合格によりあいつとの接触が解禁された。


 そして今日、とうとうミスティアと久しぶりにデートだ。気持ちが押さえ切れず足踏みをしながらの馬車に乗っていると、あいつの屋敷の前で止まった。御者が扉を開くのを待たず飛び出すように馬車から降りると、既にミスティアが待っていた。少し身長が伸びていて、顔だちも幼すぎあどけなさは減って、凛としたようにも見える。


「よう、久しぶり」


「お、お久しぶりです」


 ミスティアは少し緊張しているようだ。もしかして、俺と会うのが楽しみ過ぎて何を話していいか分からないのかもしれない。馬車に乗るよう促し手を差し出すと、遠慮がちに俺の手を受け取った。


 座席についたのを見計らってから、御者に合図を出すとゆっくりと馬車が動き出す。


 今日は、街に行く。街に行って、一緒にオペラを見て、食事をして、洋品店を見る。今日くらいは、恋人同士の様なデートをしても許されるだろう。


 駄目だ、口元が緩みそうだ、ばれないように窓に視線を移すと、ミスティアが「あの……」と包みを差し出してきた。


「あの、よければ、これ、合格祝い、です」


「合格祝い……?」


 何も考えず受け取ると小ぶりの箱だった。ミスティアが、俺に合格祝いを……? まだ目の前で起きていることが理解できない。


「あと、乗馬練習のお礼もかねて」


 ミスティアが付け足すように話す。なんだか引っかかる言い方だ。何でだ、と考えてはっとする。そうだ、今日は、ミスティアと俺が初めて会った日じゃないか。怪我をしていた俺を、介抱してくれた日。俺達の出会いの日だ。何で乗馬練習のお礼をと思ったけど、そうだ。


 合格祝いと記念日のプレゼントだ。大事な日なのに、ミスティアと会えることに浮かれてすっかり忘れていた。駄目な恋人だな、俺は。ミスティアはしっかり俺との記念日を覚えていてくれたのに。


「開けてもいいか?」


「どうぞ」


 包みを開けると、そこにあったのは馬をモチーフにしたブックエンドだった。


「えーっと、本、沢山読まれると聞いて」


「ありがとう、嬉しい」


 祝いの品を何にしようかと、沢山悩んで、親父に俺が本を読むということを聞いたのだろうか。確かに、最近俺は本を読む。教師として必要になるであろう教材資料だったり、いい恋人、いい夫になる為の手引書だったり、恋愛小説を読むことすらある。


 親父の前では恋愛小説なんか読まないから、バレてないよな……? ミスティアの為と言えど、恋愛小説を読んでることが知られたら、少し恥ずかしい。出てくる登場人物と、自分とミスティアを重ねて妄想してる、なんて思われたら死ぬしかない。そんなことはしない。ただ出てくる男の、主人公の女と結ばれる男の言葉や行動を見て、勉強してるだけだ。でも俺の柄じゃないなと思って、全然出来てない。それにガキみたいに悪口を言ったりとか合意なく触ったりする箇所もあって、そういうのは良くないなと思って参考になるのは大体主人公の女とくっつかない男の言葉だ。


 読んでいてくっつかない男の言葉なら駄目だと思ったが、まぁそもそも俺はミスティアとくっついてるしと気にすることはやめた。


「大事にする」


 そう言うと、ミスティアが「どうも」と照れたような顔をする。


 大切にする。一生かけて、お前ごと。


 心の中で呟いて、徐に馬のブックエンドを窓から差す光にかざした。きらきらして、宝物の様に光っている。それは、目の前のミスティアも、同じだと思いながら俺はブックエンドをなぞった。



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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