秋 Jの我慢
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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「これから、採用試験がある。悪いが合格まで会えない」
愛する恋人、ミスティアにそう伝えて早二週間、俺の精神は限界に近付いていた。我ながらなんて意志薄弱なことだろうかと頭を抱える。
だが、これはけじめだ。
ミスティアと会うと、頑張ろうと思う反面、その前後一週間、俺は使い物にならない。
一週間前はミスティアと会える期待と喜びで、一週間後はミスティアと会えた喜びと嬉しさで俺はいつもおかしくなる。
だからしっかり勉強をして、試験に合格して立派な教師になり、ミスティアを嫁に貰いあいつを幸せにする為に、俺は試験に合格するまでミスティアと会わないことに決めた。
しかし毎日、毎時間、毎秒「試験が終わるまでミスティアと会えない」という事実が俺を蝕む。今までも会う頻度が減ったり、期間が空くことはあったが、結局無理やり会いに行けば良かっただけだった。でも今は違う。会わないと決めた以上、会いに行けない。行くわけにいかない。もしも会うとするならばミスティアが危険な時くらいだ。
理性ではそう考えられるのに、本能がミスティアを欲して邪魔をする。ああ、駄目だ。早く会いたい。このまま会いに行きたい。会って、動いているところが見たい、声が聞きたい。
駄目だ。我慢しろ俺。今頃ミスティアは、俺と会うことを我慢している。寂しさを必死でこらえながら、俺が教師になれるよう祈り、信じて待っているミスティアを裏切るな。
それにミスティアは、去年の冬頃から育児本を読むようになった。「傷付けない叱り方」「悪癖の直し方」「注意をするにあたっての注意」俺との未来を考え、俺との子供の為に、今から育児の勉強をしている。そんな健気な女を裏切るなんて、父親として最低だ。
ぐっと堪えて、手元にある問題集に目を落とす。図書館の自習室で勉強をはじめ三時間。解いた問題の正誤を確認し、すべてに丸をつけていく。
ミスティア、会いてえなあ……。
そう考えてはっとして、慌てて問題用紙に視線を戻す。
正直、筆記試験は悪くないと思うが、問題は面接だ。口の悪さを正そうと気を付けてはいるが、目つきと顔は直らない。だからなるべく筆記で点数を取る。黙々と問題用紙に向かっていると、昼を知らせる鐘が鳴った。
昼か、何か食って少し落ち着こうと図書館を出ると、目の前を見覚えのあるガキが通り過ぎる。
忌々しい金髪。ミスティアの花婿候補だか婚約者のガキだ。そのガキは、花束を持って通りを抜けていく。
花束……。ミスティアにあげるってことか。
ミスティアのことは信じてる。ミスティアが好きなのも愛しているのも俺だけだ。万が一でも、ミスティアが他の男に靡くなんてありえない。でも、それでも俺以外の奴がミスティアを好きでいる、優しくする、何かをあげることに腹が立つ。
クソガキ、今すぐ捕まえて、どうにかしてやりたい。それかもう、ミスティアを攫ってどっか遠くへ行きたい。クソガキの手の届かないところに。でも、そんなことしたら秘密の関係がばれる、教師になってミスティアを嫁に貰う計画が台無しだ。
ぐっと拳を握りしめ、耐える。
そうしていられるのも、今のうちだからな。てめえは今、我が物面でミスティアを自分のものだと思ってるかもしれねーけど、ミスティアの心はずっと前から、そしてこの先も俺のものだからな。てめぇが入る余地なんてどこにもねーんだからな、覚えてろよ。
心の中で、半ば呪う気持ちで宣言し、睨み続けると、その姿は小さくなり、やがて見えなくなった。
ミスティアは、クソガキから貰った花束をどうするんだろうか。誠実だから、捨てはしないだろうが、きっと俺を思って困るんだろう。俺の未来の嫁を困らせやがって、やっぱり追いかけてどうにかしてやろうか。そう考えて駄目だと首をふる。
ミスティアに会えていないから苛々しているのもあるだろうが、ミスティアに関することになるとどうも俺は怒りっぽくなるらしい。
俺もまだまだガキだな。あいつに会わない間に、しっかり余裕のある男になっておかないと。
飯食って、さっさと勉強に戻るか。
俺はクソガキとは逆の方向へ、一歩足を踏み出した。
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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