冬 Eによる排除、あるいは肯定対象
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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ミスティアへのクリスマスプレゼントを買う為に、僕は街に出た。
彼女は、家族を大切に想っている。だから、クリスマスも、誕生日の時みたいに家族と使用人だけで過ごそうとしていることを知った僕は、クリスマスイブに、一緒に遊ぼうと誘った。しばらく考えこんでいたけど、何度もお願いして駄々をこねて、泣き真似もして、なんとか約束を取り付けた。
だから、クリスマスは一緒に過ごせなくても、クリスマスイブは一緒に過ごせる。誕生日プレゼントは過ぎた後に渡したけど、クリスマスプレゼントはクリスマスイブに渡せる。
プレゼント、彼女は良く本を読むから本がいいかもしれないけど、でもどうせなら身に着けるものを渡したい。そう思って手袋にした。専属の侍女に貰ったマフラーを大事そうにしているから、僕は手袋を渡す。本当はマフラーを渡したいけど、たぶん優しいミスティアは困ってしまうから、僕が譲ってあげる。
どんな手袋が似合うんだろうと考えながら、店を探していると、周囲の、僕と同い年くらいの女の子がこちらに目を向けていることに気付いた。
目を向けると、女の子は皆顔を赤くして、俯いたり、笑いかけてくる。笑いかけてくれた女の子に、軽く会釈をして、ふと思う。
僕は、強くなった気がする。
今までなら、こちらに視線を向けられるだけで怖くて震えた。相手の方を見るなんて、絶対に出来なかった。でも今は、それが嘘だったかのように簡単にできる。
ミスティアに会ってから、自分が変わったと感じる。徐々にその回数は増えつつある。
怖くて、気持ち悪くて仕方なかった周囲の視線が、今は全く気にならない。それどころか自分に向けられる好意的な視線が、煩わしいと感じる時もある。
僕には、ミスティアさえいればいい。彼女が幸せで、そしてその幸せに僕がいればいいから。他の誰かの視線なんてどうでもいい。悪く思われていたって、どうでもいいのだ。彼女と僕以外、どうでもいい。
ミスティアを傷つけない、害をなさない存在ならどうでもいい。
ふと、思い出したくもない存在を思い出してうんざりする。
レイド・ノクター、彼女の婚約者、邪魔なやつ。僕はあいつが大嫌いだ。消えちゃえばいいのにと思う。
たまにあいつについて質問すると、ミスティアは不安そうな、思い出したくないような悲しい顔をするし、彼女が疲れたり、何か思いつめたりしているとき、彼女のカレンダーを見ると、大抵あいつの名前がカレンダーにのっている。
レイド・ノクターは、ミスティアの幸せの邪魔をしている。
でも、それなのにレイド・ノクターは、彼女のことが好きなのだ。そこが一番嫌い。
前に彼女と三人でお茶をした時に、すぐにわかった。僕を見る、隠しきれない憎悪の目、嫉妬の目。
彼は彼女のことが好きなのだ。好きなのに、彼女に不安そうな顔をさせる。彼女の幸せを邪魔するくせに、彼女のことが好きなんて、矛盾してる。それに、親同士が勝手に決めた婚約者で、彼女に選ばれたわけでもないのに、婚約者面するところも嫌いだ。
僕がもっとミスティアと知り合うのが早かったら婚約者は僕だったのに。あいつさえいなきゃ、絶対僕だった。
心の中の憎悪を振り払うように周りに目を向けると、丁度手袋や小物を扱う店の通りまで来ていた。
服屋や帽子屋、髪飾りや耳飾り専門の店など、様々な店が立ち並んでいる。
あれれ?
通り過ぎていく女の人が皆、似た様な髪飾りをしていることに気付く。そういえば、僕を見ていた女の子たちもしていたかもしれない。
まるでお揃いにしているみたいだなぁ、と考えながら、髪飾り専門店の前を通ると行列が出来ていた。
店の壁には、「現在流行の髪飾り、一日入荷二十点」と注意書きかされているその注意書きの下には、あの髪飾りが描かれていた。
流行っているから、皆つけていたのか。
ミスティアはあまり髪飾りとかアクセサリーに興味を示さない。だから僕も流行について調べたりしていなかったけど。
大変だな、と考えてから、はっとする。そうか、売っているものを普通に買ったら、彼女は僕以外の誰かと知らない間にお揃いになるかもしれないのか。そう考えると、なんだかすっごく嫌だ。彼女が知らない人間が、彼女に認められていない人間が、彼女とお揃いなんて許せない。
オーダーメイドにしよう。彼女の手は良く握っているから大体の大きさなら分かるし、ある程度限定されないサイズにすればいい。
手袋の店を通り過ぎて、オーダーメイドの洋品店の扉の前に立つ。
うん、これで大丈夫。彼女に似合うとびきりの手袋を注文しよう。そして僕も、お揃いの手袋を作ってもらおう。
そして、いつか、マフラーも。
店の扉を開くと、店の中で温められた風と、外の冷たい冬の風が混ざりあって、僕の間を吹き抜けていった。
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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