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プロローグ・バースデイ

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


 夜も深まり、ベッドに横たわる。もうすぐ、私の誕生日は終わる。


 つまるところ前世を思い出して一年が経った。状況は何も変わってないどころか日々悪化の一途を辿っている中、私は十一歳になった。


 十歳から十一歳になって、魔力が突然芽生えただとか、特殊能力が発現したとかはない。ここはきゅんらぶの世界。魔法や能力ものではなく、争いがあるとしたら血で血を洗うドロドロの恋愛。普通の乙女ゲームだからだ。


 その血で血を洗うドロドロ要因の一端どころか全てを担っている私が十一歳になったことで、悪のカリスマが開花することもなかった。中身はド平凡なまま、五年後に迫っていた学校入学があと四年になっただけである。


 思い返せば一年前の今日、前世の記憶を思い出し、自分がきゅんらぶのミスティア・アーレンとして二度目の生を受けたことを知り、それから春に婚約者であるレイド・ノクターと出会い彼の母が死ぬシナリオを変え、夏にエリク・ハイムと出会い、彼の家庭教師シナリオを破壊し彼を変えてしまった。秋に乗馬を教わったジェイ・シーク先生は、特に何もない。


 そして冬である現在、レイド・ノクターと夕食を共にしたり、エリクに勉強を教えたり、ジェシー先生には乗馬を教わっている。


 問題は山積みだ。婚約は解消できていないし、エリクは未だ一歳年下の人間に対してご主人などと呼ぶ。


 しかしとりあえず今年は投獄はされず無事過ごせたのだから良しとしよう。私自身、そしてアーレン家は誰かが大きな病気、怪我をすることも、領地が災害に見舞われることもなかった。特に変わりのない一年だ。そこで良しと思うしかない。


 変わったことといえば、レイド・ノクターに弟が産まれたことだろうか。今から三週間ほど前、レイド夫人は元気な男の子を出産した。名前はザルドくん。ザルド・ノクターくんだ。母子ともに健康で、出産に立ち会ったノクター伯爵は安堵により失神したらしい。レイド・ノクターとは夕食を二週に一度共にしているが、母子の健康状態を見るにそれも半年で終わるだろう。


 寝返りをうって、ふと目を開く。すると月明かりに照らされて今日の誕生日パーティーで皆にもらったプレゼントが視界に入った。門番のトーマスさんから貰った十二指腸ぬいぐるみが、他のプレゼントに巻き付くように置かれている。


 十歳の誕生日が盛大に行われた為、十一歳の誕生日くらいは落ち着いたものになるだろうという私の予想に反して、父が誕生日パーティーの会場に指定しようとしていたのは船だった。


 父は、誕生日プレゼントと、誕生日パーティーの会場を船にしようとしていたのだ。


 プレゼントと会場を一緒にする。「わぁ、なんて合理的なんだろう!」と呑気に受け入れられるはずもなく私は懇願した。


 説得する私、泣く父。祝われる側と、祝う側のさぞかし狂った光景だっただろう。母はどちらかといえば父側の人間で「船よ? いいのミスティア、ボートじゃないのよ?」と言っていた。


 両親の気持ちは分かる。私を愛してくれるということも。愛する人の誕生日は盛大に祝いたい。それは私も両親に対して同じ気持ちだ。でもその気持ちは派手で、煌びやかで、豪華絢爛なパーティーを開かなくても充分伝わっているのだ。


 私が、屋敷にエリクこと友達を連れてきたことを裏で泣いて喜んでくれていること。乗馬練習がしたいと私が自分の意思や、希望を伝えることに対して喜んでくれていること。私は全て知っている。


 そして、ただ生きているだけで喜んでくれる。肯定してくれる。そんなに嬉しいことは無い。だから十分なのだ。不足なんて何処にも無い。


 だから、顔を涙で濡らす父に、誕生日だから家族と屋敷の皆だけで祝いたいと何度も要求したのだ。


 そうして、父は折れ、私の要求は通ったことで、ミスティア・アーレン十一歳の誕生日パーティーは、屋敷で、家族メロ使用人のみ参加のパーティーに決定した。


 大々的に招待状を各方面に送った昨年と異なり、今年は内密に、極秘裏に行われ、アーレン家の人間以外には、私が世間話程度に話したジェシー先生くらいしかこの件は知らない。危険な取引でも行われているかの様だが、実際は立食パーティー。ドレスコードも無く無礼講。普段屋敷で働いてくれる人たちの慰労会も兼ねた。


 そうして、十一歳の誕生日パーティーは、ほのぼのと始まり、ほのぼのと終わった。


 華やかさも豪華さも昨年とは違っているが、屋敷の皆が美味しそうに食事をしている姿や楽しそうに伸び伸び過ごす姿は、何よりのお祝いであり贈り物だ。


 大好きな両親、大好きなメロ、大好きな皆が、楽しそうにしている。私の十一歳を、ただ生きていただけで経過した一年を喜んでくれる。中身がド平凡の私的には、出来ればずっとこれがいい。


 そんな十一歳の誕生日の夜は想像よりずっと穏やかだ。去年は前世の不安感でいっぱいで、半ば不安を殺すように眠ったけれど、今は皆を守るぞ、頑張るぞ、という強い気持ちのまま眠れる。


 また明日から、頑張ろう。私は昨年よりも穏やかな気持ちでベッドに入ると、そのまま瞳を閉じたのであった。





●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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