婚約者からの手紙
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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紅く染まった木々が枯れ、風が冷たく、凍てつくようなものに変わった冬。自室にて、机に向かってペンを取る私は、人生の岐路に立たされていた。
私の人生を大いに左右する存在。穏やかな日々を一変して激動する嵐の中に突き落とす存在は、たった一人しかいない。つまるところ、レイド・ノクターから手紙が来た。
春からちょこちょこ手紙は来ているが今回は違う。問題はその内容だ。
彼の手紙は基本的に庭の様子、家族の様子、最近読んだ本、最近聴いた音楽。この四種類で構成されている。だから私も、同じ様な内容で返している。初めこそ死罪投獄がちらつき血眼にして不審点が無いか、相手に自分が好意を持っている様に受け取られる内容ではないかと、書いた手紙を入念に見返すことを繰り返して返信していたが、話題を読んだ本の感想、聴いた音楽の感想に留めておけばいいと気付いてからは、少し気が楽だった。
たまに来る屋敷への招待さえ丁重にお断りし続けていればいい。そんな風に思って私は慢心、油断していた。
『今度御屋敷の中を案内してくれないかな、都合のつく日を具体的に教えてね』
そして、今朝届いた手紙の、最後に記されていたのが、この一文。
何だろう、『具体的に教えてね』に過去最大の圧力を感じるのは、気のせいだと信じたい。
一般的な婚約者同士の手紙のやり取りであれば、なんて微笑ましいやり取りであろうか。仲良く庭園などを散歩した後に優雅に二人紅茶を飲む姿すら想像できる。
しかし、私にとっては、私とレイド・ノクター二人が歩く映像から、徐々に周りが焼けこげ、次に映るのは私、父、母が投獄される姿。次にメロや屋敷で働いてくれている使用人の皆が路頭に迷う姿。そして最後に断頭台のカットが一瞬映った後に、漆黒の背景に鮮血の赤でゲームオーバーと描かれる終幕である。
先日、エリクとレイド・ノクターの地獄の遭遇事件が起きた為、今までずっと彼の誘いを断り続ける中、エリクと高頻度で遊んでいることを知られた。
あの後、個々に説明しエリクには誤解が解けたが、レイド・ノクターは納得していないようだった。おそらくその弁明を求めているのだろう。
カレンダーを見て、空いて居る日を確認する。
青く星がついている日はエリクと遊ぶ日。赤い丸がついている日は乗馬練習だ。あれから馬に乗れ走れるようになったものの、先生の「続けてないと腕が鈍るぞ」との指摘により練習は続行している。
そういえば、私がアルゴー事件当日、シーク家の屋敷で夕食を食べている時、アーレン家の屋敷では、私がアルゴー家の事件に居合わせたことを聞いた父が、アルゴー家を潰そうと暴れだし、騒ぎになっていたらしい。
そんな父を、母が「ミスティアはそんなこと望まない」と説得してくれたことで、第二の事件に至らなかったのだ。
本当にありがたい。本当に望んでいなかった。罪は法で裁かれるべきだし、家族に手を汚して欲しくないし、私が受けたダメージは、「もしかしたらただの誤解だったかもしれない相手に高圧的に接した」ことへの罪悪感だ。兄弟には悪意があったが、本当に悪意無くただの誤解によるものだった可能性だって十分にあった。反省しなければ。
ちなみに父は、ノクター夫人と甥の事件の時も、甥に報復をしようとして、ノクター伯爵に「自分にさせてほしい」と頼まれ耐えたらしい。家族が何もしなくて良かったような、複雑な心境である。
そうしてエリクと遊び、先生と乗馬練習をする。攻略対象と関わりまくっているが、私が攻略対象に関わるだけならばバグや異常事態は起きない、ということが分かった為、気後れは無い。
便箋に空いている日を順に書いていく。レイド・ノクターとのやり取りは気後れしかしない。
このままうっかり届け忘れて三か月後くらいに、ノクター家に手紙が届いてくれないだろうかと祈りを込めて私は手紙を認めた。
レイド・ノクターから返信が来たのはそれから一日後のことだった。驚愕した。意味が分からない。速度がおかしい。
混乱し、受け取ってすぐに開くと、いつも通りの業務連絡の最後に、こちらの日にお伺いしますね、と日取りを決めた状態で綴られている。目を凝らしてよく見ても、日付は変わることはない。そこに記されていたのは、紛れも無く二日後の日付であった。
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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