表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/363

僕の夢

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 僕は、覚えているかぎり、昔から人と話すのが好きだった。僕のお話で、人が笑ってくれるところを見るのが好きだった。だから屋敷に誰かが来たら、どんなお話をしようか、どんなお話が聞けるかとわくわくしていた。


 屋敷には、色々な大人たちが出入りする。中でも商人のおじさんの話は面白い。おじさんはお仕事で色々な国を回っていて、そこで見てきたこと、聞いてきたことを僕に話してくれる。だから僕はおじさんに、本で読んだ騎士の話や、庭園に住んでいる猫が木に登った話をした。


 おじさんはいつも僕の話を声を上げて笑って聞いてくれる。ある日、庭園でしばらく遊んだあと屋敷へ戻ると、広間で大人たちが集まっていた。商人のおじさんもいる。そういえば今日は、お母さんがお父さんの仕事の人が来るから、来ちゃ駄目って言ってた日だ。僕は慌てて物陰に隠れた。


 今日はおじさんとお話してはいけない日だ。でも、挨拶はしても大丈夫かな?


 そう思って一歩踏み出したその時だった。商人のおじさんと、大人たちの声が聞こえてくる。


「伯爵はまだなのか、会合の時間は過ぎているぞ」


「ふむ、前の取引が難航しているのでしょう。ハイム伯爵は公平な交渉を望む方ですからね」


「それも今回は茶番のようなものでしょう」


「えぇ?」


「そちらの商人のお方は、エリクぼっちゃんにとても気に入られていますから」


「精神年齢が近いのでは」


「ハハ、子供の話ですから、聞いていても楽しくはないですよ、これも利益の為」


 商人のおじさんは話す。今まで見たことのない、冷たい顔で。


 あんなに笑ってくれていたのに、楽しくなかった? 嘘だったの? 僕に合わせてただけ?


 僕は怖くなって後ろに一歩下がると、大人が一斉にこっちを振り返った。そして困ったような顔をした後、皆笑顔を作り始める。


 どうしてまた笑うの、何で。何がおかしいの?


 大人の一人がこちらに近付いてきて、手を伸ばしてきた瞬間背筋に悪寒が走った。怖くて、気持ち悪くて僕は広間を飛び出して自分の部屋に逃げ込んだ。早く鍵をかけたいのに手が震えて、ドアノブが手の汗で濡れていく感触は今でもはっきり残っている。


 さっきの大人たちは、何がおかしかったのだろう。僕を見て、笑っていた。


 僕は、おかしいのかな。僕は、つまらなくて、おかしい人間なのかな。そう考えると、自分がすごく恥ずかしくて変で、いやな奴な気がして、それから段々、何を話していいか分からなくなった。どんな言葉も嘘に聞こえる。お母さんにもお父さんにも使用人にも何もされてないのに、どう接していいか分からなくなってしまった。


 昨日、一昨日、一週間前、一か月前、前に出来てたことが、どんどんできなくなってくる。


 段々人と目を合わせただけで気持ち悪くて堪らなくなって、吐いてしまうようになっていた。


 そんな姿、誰にも見られたくない。精一杯隠しているけど、明日は何が出来なくなるか分からない。ある時僕は部屋から出ることをやめた。


 お母さんは、毎日扉に向かって出てきてと泣いていた。心が痛かったけど、それでも僕は、おかしい自分を皆に知られることが嫌だった。僕は、僕が気持ち悪い。皆に気持ち悪いことが知られることが嫌だった。


 それから、半年。ご飯は毎日、毎食部屋の前に置かれている。誰もいない隙を見計らって食べた。


 始めはお腹が空いて食べるけど、食べているうちに罪悪感が湧いてくる。部屋から出ることができない。ちゃんとできないのに、ご飯を食べてしまう。もういなくなりたい。その繰り返しだった。


 部屋に居ることが楽しい訳じゃない。ただ、そこにしか居られない。でも一人で籠っているのは辛くて、僕は布を被り外に出ることにした。


 始め、布を被ったのは見つからないように、もし見つかっても僕だと分からない為だったけど、布を一枚隔てていれば世界から守られている気がした。それからは部屋に居ても布を被っていた。


 そして僕は、人がいる時は部屋に籠り、人がいない晴れた日は窓からそっと部屋を抜け出しては、緑蘭の庭園で過ごしていた。


 お父さんとお母さんが好きな緑蘭。お父さんはプロポーズの時に緑蘭を持っていったらしい。お父さんは隣の国へ貿易の交渉に行っている。帰ってくるのは来年だ。


 そのころまでに、僕はちゃんと「なおる」ことが出来るだろうか。お父さんに話をすることが出来るだろうか。


 噴水の傍で、静かにしゃがむ。誰にも見つからないように、このまま消えてしまえれば楽なのに。いっそこの水の中に飛び込んでしまえればいいのに、僕はそれすらできない。だめなやつ。消えてしまいたいのに、消えるのが怖くて、話なんてしたくないのに一人が寂しい。


 こんな僕を誰が助けてくれるのだろう。でもそれでも、助けてと願うことがやめられない。


 誰でもいい。助けてほしい。そう願っていた、その時だった。あの子が現れたのは。


「あの、体調がよくないのですか? 人呼びましょうか?」


 頭の上から声が降ってきて、僕は突然のことに驚きつい返事をしてしまった。振り返ると同い年くらいの女の子が立っていて、彼女は自分をミスティア・アーレンと名乗った。その名前は聞き覚えがあって、商人のおじさんが宝石をあんまり買ってくれなくなったと話をしていた家だと思い出していると、彼女は僕の体調を心配していて、どうしてここにいるのかを問いかけてきた。僕は「かくれんぼをしていた」と、咄嗟に嘘をついた。そして嘘をついて、自分からぱっと言葉が出てきたことに驚いた。一方彼女はそのまま立ち去ろうとしていて、僕はこのまま彼女を逃してはいけないと腕をつかんで、屋敷の案内を申し出た。


 そして、庭園の案内の申し出を受け入れた彼女に、僕はエリーと名乗った。エリーという名前は「エリク」の「ク」が言えなかった僕が、四歳くらいまでお父さんやお母さんに呼ばれていた名前だ。違う名前を教えたのは、布を被ることに近かったからなのかもしれない。


 エリクに、「エリー」という布を被せれば、少しは僕はなおることが出来るかもしれないと、僕は多分その時そう思った。


 庭園に案内するとしても、何を話したらいいか分からない。会ったばかりの彼女に、父と母と緑蘭の庭園の話をすると彼女はうんうんと聞いていた。


 その話の聞き方が、馬鹿にする訳でも、笑う訳でも、興味を示している訳でも無い。ただ自然に当然のように話を聞いてくれていることに安心した。


 彼女の瞳は、何かを求めてこない瞳。何かを押し付けるものでも、求めるわけでもなくて、僕は心地よさを感じた。


 彼女とならば、あの部屋にいても寂しくないかもしれない。そう考えた僕は、彼女を屋敷に案内した。部屋で、彼女は僕に質問をしてくれた。彼女に、興味を持ってもらう。嬉しい。


 そして、広間に行こうと誘った時だった。


 お母さんが、廊下の先に居た。彼女を放って、反射的に部屋に逃げ込み急いで施錠して、僕は置いてあったクッションに伏せた。さっきまであんなに楽しかったはずなのに。もう駄目だと思って、苦しくて痛かった。お母さんがきっと僕が部屋から出てこないことをあの子に説明して、僕が変なことを知られてしまうと思った。


 緑蘭の庭園の案内をちゃんとして、あのまま別れていればこんなことにはならなかったのに。


 僕はずっと、ベッドで蹲っていた。




 次の日。庭園に行く気も起きず部屋の隅で座っていると、彼女が屋敷に来た。廊下から彼女の声が聞こえてきた。もしかしたら部屋の前に来てくれるかもしれない。でも、周りに人がいるかもしれない。


 彼女がもし来てくれたならば、急いでこの部屋に引っ張り込もうと床にクッションを敷き詰めていると、やっぱり彼女は来てくれたから、すかさず部屋に引きずり込んだ。クッションを敷き詰めていたところにしっかり着地した。彼女がいる。嬉しい。来てくれたお礼を言わなきゃ。お母さんに言われてきたのだろうか、まずは挨拶をしなきゃ、それとも昨日のことを謝るのが先か。そもそも彼女は、僕のことをどれくらい知っているんだろう? 気になって「お母さんに言われてきたの?」と聞けば、彼女はお母さんには言われたけれど、僕に会いに来たと話す。そして、僕を外に出す気はないと言った。


 どうしよう、彼女を怒らせてしまったかもしれないと俯くと、彼女からかけられた言葉はまた、全く違うものだった。


 彼女は、一生懸命伝えようとして、僕を気遣い、考えながら話をしていて、僕と似てると思った。そして一緒に遊ぶ話になって、僕は彼女に合わせて遊びたいと思ったけれど、彼女はしばし考え込むと、不安そうな目つきで言ったのだ。「何も思いつかない、どうしよう」と。


 その表情は、僕だった。


 僕が何かを話すときに、思うこととまるで一緒だった。謝る彼女に何かできないかと考えて、人形遊びを思いついて、一緒に遊んだ。


 誰かの為に何かをしたいと思ったことは久しぶりだった。


 それから彼女と人形遊びをした。彼女の着せ替える人形はどれも珍しい組み合わせで、「これはこういう設定で」と僕に話をしてくれる。


 僕は彼女の設定に合わせたものを考えて、それを彼女に伝えた。不思議と自分の気持ちやしたいことを伝えることに怖さがない。彼女は、僕の話を聞くだけじゃない。聞いて、考えて、聞いてきてくれる。


 僕が話すのを、手伝ってくれるみたいだと思った。


 一通り遊び終わって、ふと彼女は人形を眺めながら笑った。


 僕はそんな時間が終わるのが嫌で、ずっと遊んでいようと、街づくりを提案した。いや、あれは提案じゃない。お願いだ。僕と一緒にいてほしいと、彼女へのお願いだった。


 彼女の了承を得ると、自然と笑みがこぼれた。笑ったのは、あの時以来だった。彼女といると今までできなかったことが嘘みたいに出来てしまう。彼女といれば、あの頃の自分を取り戻せる気がする。そんな気がした。




 それから一か月が経った。夏真っ只中、彼女はほぼ毎日来てくれた。僕がいつも去り際に明日も来てほしいとお願いしているからだ。


 でも嬉しいのに、僕には大きな不安があった。街はすでに完成していたからだ。


 街づくりを理由にして屋敷に誘っているのに、完成してしまえば、屋敷に誘う理由が無くなる。


 だから僕は街が完成しているのを悟られないように、何が足りない、あれがほしいと作るものを増やしていて、でも、もう限界だった。


 増えすぎた住人、溢れ始めた家々。


 街づくりがなければ、人形遊びがなければ、ミスティアと何を話せばいいのだろう。どうやって遊んだらいいのだろう。どうやって傍に居ればいいだろう。


 僕には何もない、話すことも得意じゃない。


 そして僕は、ミスティアに酷いことをした。


 その日は、朝からミスティアと遊んでいた。昼の時間になり、ミスティアがお昼ご飯を取りに行くことになった。僕は外に出ることが出来ない。だからお母さんが僕の部屋の前に食事を置いてくれるけど、ミスティアは「私の分まで運んでもらうのは申し訳ないですし」と自分から運ぶことを申し出て、お昼ご飯は彼女が取りに行くことが決まりみたいになっていた。


 僕は、それが辛い。外に出られないけど、外に出られない僕のためにミスティアが頑張っているのを見ることが辛かった。いつものようにお昼ご飯を取りに行く彼女に謝罪すると、彼女は気にしないでいいよと言った。


 でも、その日のごめんは、それだけじゃなかった。


 ミスティアに離れてほしくない。そのために、街は完成してはいけない。ミスティアが去ったのを確認し、僕はびりびりと、さっきまで井戸を描いていた紙を引き裂いた。彼女との繋がりがこうならないように、ぐちゃぐちゃに、もう二度と戻れないように。


 紙を破きながら、僕はミスティアとの思い出を思い出していた。「僕は駄目だから」と言うと、そっと否定して僕を褒めてくれようとするミスティア。


 彼女は僕が部屋から出ない理由を尋ねることはしない。気にならない訳ないのに。聞かないでいてくれた。


 僕が失敗をして、家の大きさをおかしくしてしまった時。「ここは小人の住む部屋にしよう、実は地下室があって……」と彼女は設定を考え、そして楽しそうに笑った。その笑顔を見て僕も自然とつられてしまった。


 こんなに屋敷に来て、辛くないか尋ねたこともあった。彼女は、僕に謝った。僕が遠回しに屋敷に来すぎと言っていると思ったらしい。即座に否定した。


 考えすぎだよと僕が言うと、彼女は人の気持ちは分からないからと言っていた。彼女は、人の気持ちは分からないと諦める人じゃない。分からないから知ろうとする人だ。そんな優しいところが、好きだし尊敬もする。


 始めは、誰でも良かったんだと思う。誰でもいいから、僕を助けて。誰でもいいから、傍にいて。僕を肯定してほしい。そんな存在を求めていた。


 でも、僕はミスティアを失いたくなかった。




「え」


 声の方を向くと、ミスティアがいた。見られてしまった。彼女が、僕を見ている。卑怯者の、僕を。嫌われてしまう。そう考えてぼろぼろと涙が出た。謝罪をしたいのに、言い訳をしたいのに。涙が止まらない。


「井戸嫌だった?」


「ちがう……」


「何が、何か失敗して」


「違う!」


 変わらず、彼女は、責めない。僕に理由を聞いてくれる。僕に事情があるんだと思ってくれている。違う。僕はただ弱くて、卑怯なだけ。君を、利用しているだけ。君の優しさに、つけこんでいるだけなのに。違うんだ。違う。ただか弱いエリーじゃない。僕は変なやつ。だめなやつなんだ。叫ぶと、またさらにぼろぼろと涙がこぼれた。


「だ、だってミスティアがいなくなっちゃう、まちが、完成した、ら、やだ、もっとお話ししたいのに。でも何を話していいか分からない、うまく話せないから、じゃないと……、友達でいてもらえない!」


 傍にいてほしい。傍にいたい。誰かじゃ駄目だ。ミスティアといるのが楽しくて、幸せで。なのに上手く話せない。面白い話ができない。何を話せばいいかわからない。苦しい。一緒にいたい。僕はミスティアと一緒にいたいよ。


 はじめは誰でも良かった。でも、もう無理だ。この先、同じような存在に出会ったとしても、もう絶対に満たされることはない。誰でもない、ミスティアと一緒にいたい。


「別に無理に話さなくていいよ」


 彼女が、僕を見る。そこには軽蔑も、嫌悪も、怒りも無かった。ただ、僕を気遣う、優しい目をしている。卑怯者の、僕を。


「黙ってても、何もしなくても、大丈夫だから。話したくなったら話せばいい。話したくないならそのままでいい。ずっと友達。いなくなったりしない。約束する」


 彼女がぎゅっと、思いを込めるように手を握ってくる。そんなに幸せなことが、あっていいのだろうか。卑怯者の僕が、そんな幸福を得ていいのだろうか。そんな幸せを、僕に。


「ほんとに?」


「本当」


「ぜったい?」


「絶対だよ」


 涙が止まらない僕のそばに、ずっとミスティアはいてくれた。ありがとうと伝えたいのに、涙が止まらなくて、そのままいつの間にか気を失うように眠っていた。




 それから、僕は夜に目が覚めた。目を開けると、いつもよりずっと温かくて、隣を見るとミスティアが僕の手を握って眠っていた。僕が泣いていたから、握っていてくれたんだとわかると、心の中もあったかくて、ぎゅっとした。


 卑怯者の、こんなどうしようもない僕を、受け入れようとしてくれている。このまま、僕だけが幸せになるのなら簡単だ。ずっと誰かに、助けてほしいと思っていた。はじめは、助けてくれるならだれでもよかった。でも、今はミスティアじゃなきゃいけない。


 僕も変わらなければいけない。ミスティアの優しさに、甘え続けるわけにはいかない。卑怯者の僕を、受け入れてくれた。優しくしてくれた子。眠る彼女を起さないようにそっとベッドから抜け出し、僕は部屋から出た。もうあの布は必要なかった。


 今まで、どうして生まれてきてしまったんだろうと思っていた。自分はどうしようもない、生きていたくないと思っていた。ずっと一人、でも死ねない、孤独を感じて寂しくて仕方ない自分に嫌気がさしていた。


 でも今は、生きていきたいと思う。生きて、ミスティアと一緒にいたい。


 僕が、ミスティアを、幸せにしてあげたい。


 そのあと、僕はこっそり母の元へ向かった。母は僕を見ると驚いて泣いていた。それからたくさん話をした。全てではないけれど、人の目が駄目になっていたこと、ミスティアなら大丈夫だったこと。そして、これからのこと。


 話が終わる頃には徐々に外は明るくなっていた。そのまま我儘を言い、朝一番に髪を切った。


 エリーを脱いで、エリク・ハイムとして、彼女と出会う為に。




「えーと、おはようございます、初めまして、ミスティア・アーレンと申します、この度は……」


 あんまりにもミスティアが起きないから、不安になって部屋に行こうとすると、ちょうど曲がり角で彼女に会った。起きてきた彼女は僕を見つめると、目を見開きじっと見つめてくる。僕をまじまじと見ているのに、認識していない。それどころか自己紹介を始めている。そんな姿が愛おしくて、笑ったら可哀想なのに、なんだか笑ってしまう。


「初めましてじゃないよ。エリーだよ、いや、正しくはエリクなんだけど」


「エリク……」


 彼女は目を見開いて、僕の名を呼んだ。君が僕を認識する。不思議と怖い気持ちもない。


「そうだよ、エリクだよ」


 きちんとミスティアに覚えてもらえるように、念を押すように名前を伝える。だって、これから僕は、ミスティアの一番になりたいから。


 彼女の会話にはよく「メロ」という名前が出てくる。屋敷で働く侍女の名前らしい、彼女は家族と同じような存在なのだと、いつもその「メロ」を大切そうに語る。


 その名前を聞くたび、彼女にそんな風に語ってもらえる侍女が羨ましいと思っていた。


 きっと友達よりも、上の存在。初めまして、知り合い、友達、主従、家族。


 少しずつ、それこそ街を作る様に、一つずつ、ミスティアとの関係を重ねて、積み上げていったら、いつか彼女の隣にいけるはず。


 ……ミスティアに、宝物のように思ってもらえる。


 だから僕は彼女を「ご主人様」と呼ぶことに決めた。本当は彼女のお家に仕えるのが一番いいけど、僕にはまだ無理だし。今できることと言えばこれだ。ご主人様って僕が言って、ミスティアが思い出すのが使用人じゃなくて、僕になれば僕の勝ち。だから次に僕が彼女を声に出してミスティアと呼ぶときは、彼女を僕のお嫁さんにする時にしよう。おまじないのようなものだ。百本の緑蘭の花束と、その薬指にはめる指輪を君に贈る時に。


「今日から僕の事はエリクって呼んでね。僕もミスティアのこと、ご主人様って呼ぶから、よろしくね」



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ご主人様呼び…、そういう理由だったんですね。
設定が細かくて好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ