起床責任
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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「あ……」
ぼんやりと目を開くと、見知らぬ天井がそこにはあった。
ここはどこだと考え、昨日について思い返す。そうだ昨日は確か、眠るエリーを抱きかかえながらどうしようか考え込んでいると、ずっと部屋から出てこない私に危機を察知したハイム夫人が部屋に来て、お泊りを提案してくれたのだ。遣いを出して家に連絡してもらい、エリーをベッドに運んでもらった。そして私もその横で眠った。そうだ思い出した。
ということは。私は今、エリーと眠っているということだ。そう思って隣を見るとエリーの姿が見えない。
「嘘でしょ」
寝相で蹴り落とした? 完全にやってしまった。慌ててベッドの下を確認する。いない。
いない? 何で? もしかして隠れてる?
疑問を抱き辺りを見渡すと、カーテンの隙間からしっかり分かるほど、朝日がさんさんと上っていることに気づく。隙間ほどしか開かれていなかったカーテンは全開になって、どう見ても太陽の昇り方は朝ではなく昼間だ。
まずい。寝過ごしたのかもしれない。いや完璧に寝過ごしたな、これは。
おそらく、エリーはもう起きている。優しさゆえに寝かしておこうかと思ったのか、何度も警告したけど私が起きなかったのか、はたまた蹴り落として怒っているのかは分からない。しかし現状私が寝坊していることは確かだ。
人の家に泊まっておいて寝坊とは何事だ。何たる狼藉最悪だと飛び起きると、隣に新しい服が用意されていた。ミスティアさんへ、とカードまで添えられている。
多分夫人辺りが気を利かせてくれたのだろう、鍵は開いていただろうし、ありがたい。しかし、厚遇を寝坊で返すこの愚行。尚更最悪じゃないかと急いで着替え部屋から飛び出した。
そうして広間に向かって早歩きをしていくと、廊下の曲がり角にきらきらした美少年が立っていた。
エリーに似ている。というかそっくりだ。肌も髪も目の色も全て同じ。ただ、髪の長さだけが違う。昨日初めて見たエリーは膝まで伸びたふわふわロングヘアだった。しかし彼は爽やかショートヘア。
エリーに兄弟がいたのだろうか。従兄弟とか? しかし誰もそんな話はしていなかったし、エリー本人も話さなかった。
もしや、このハイム家に棲んでいる先代当主の幽霊の可能性は……、足はあるし影もある。大丈夫か。いやこんな事考えてる場合じゃない。挨拶しなければ。
「おはようございます、初めまして、ミスティア・アーレンと申します、この度は……」
自己紹介の途中で、相手はくすくす笑い出す。寝癖がついているのかもしれない。人の家で寝坊して、さらに寝癖を披露してしまう。なんだこの愚行ダブルコンボは。慌てて髪を押さえると、さらに笑う。
「初めましてじゃないよ。エリーだよ、いや、正しくはエリクなんだけどね」
「エリク……」
エリクと聞いて、頭の中が真っ白になった。そして、酷い耳鳴りがして、走馬灯のように記憶が蘇っていく。呆然としていると「一人にさせてごめん」と、少年が私の手を握る。その手は間違いなく昨日握っていたエリーの手、そのものだ。
「もうずっと、一緒だよ。だから今日から僕の事はエリクって呼んでね。僕もミスティアのこと、ご主人様って呼ぶから」
そう言って優しく笑う、エリー。しかし、彼は、エリクだ。その事実に目が眩むような錯覚を覚える。完全に思い出した。彼は、「きゅんきゅんらぶすくーる」に出てくる攻略対象、開放的な女性関係を持つ先輩、エリク・ハイムだ。
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