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望み通りの箱庭

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 しかし、その言葉を聞いて、頭が真っ白になる。遊びについて、私は詳しくない。


 以前、レイド・ノクターとチェスをしたことがあるが、思い返せばそれ以降こうして同世代と遊んだ記憶が無いから、楽しい遊びが分からない。無難なのはかくれんぼだけど、この部屋でかくれんぼをするには無理がある。ベッドとクローゼットの二択しかない。


「何も思いつかない、どうしよう。ごめん」


「え」


 もう正直に答える。何も浮かばないときは何も思い浮かばない。仕方ない。すると特におかしいことは言っていないはずなのだが、一瞬エリーが驚いたような声を発した。顔は相変わらず布で覆われており表情はさっぱり分からないけれど、声は確かにエリーのものだった。


「……じゃあ、着せ替え人形で遊ぶ?」


 エリーは気遣うような声色でベッドの下から箱を取り出して、私の前で開く。そこにあったのは紙人形だ。女の子や男の子の紙人形に、これまた紙でできた服。


 これは知ってる、妹が小さいころよく遊んでいたやつだ。この人形に服を宛てがって着せ替える遊び。


「うん、遊ぶ」


 これならやり方は分かるし、勝ち負けは無いし、安心だ。安心安全な遊びだ。エリーは頷くように頭を揺らし、人形と服を並べ始める。王子様っぽい男の子、お姫さまっぽい女の子、初期アバターみたいな男女、おばあさん、おじいさん、おじいさん、おじいさん、おじいさんと、バリエーション豊かなのか偏っているのか分からないラインナップだ。どれも流石に全裸で出すのは時代的にまずいのかシンプルな下着姿である。


「おじいさん好きなの?」


「え、違うよ。これはドワーフだから他より多いんだよ」


 なるほど、七人の小人、みたいな感じか。あれ、ドワーフがたくさん居て、お姫様と王子様てがいるってことは、白雪姫モチーフとかの着せ替えなのか。妹が持ってたのは渋谷! 原宿! って感じのシリーズだった。世界が違うとこうも違うのか。


「出来たら、見せ合いっこしよう」


「うん」


 エリーは「じゃあ始め」と言って、お姫さまっぽい女の子を手に取った。私もそれに続くべく並べられた人形に目を向ける。ふむ、何を着せ替えようか、とりあえず視界に入ったオオカミを手に取り、ドワーフが持つ設定であろう量産型の剣、ドワーフの帽子を装備させ、屋台などで横柄に振る舞うタイプの獣人兵士を完成させた。するとエリーは私の手元を覗き込むように近づいてくる。


「それなあに? 強いオオカミ?」


 なんて答えるか迷う、


 これはRPGの物語中盤に出てくる獣人の兵士で、国を守ってるからって調子に乗って街の人に横柄な態度をとり、後に主人公に成敗されかけるところを、横から来た謎の人物に腕とかとられちゃう兵士なんだよ! と答えられるはずが無いし。苦し紛れに「街を守る兵士……」と答えるとエリーは納得したのか興味を一気に失ったのかわからない声色で「ふーん」と返事をした。圧迫面接のように、「どうして作ったのですか?」「その意味は」「作ることで何に貢献できるとお考えでしょうか?」「利益は」とか言われなくてよかった。


 胸をなでおろしていると、「ん」とエリーが差し出す。


「じゃあこれはその仲間」


 差し出されたのはドワーフの帽子と、量産型の剣を持った男の子人形。どうやら無関心ではなかったようだ。


 合わせてくれた優しさがしみる。調子に乗ってしまう。


 私は初期アバター感のある女の子を手に取り、ワンピースの上からエプロンをかぶせた。兵士に絡まれる屋台の看板娘でもいい。お父さんに男で一つで育てられ一緒に店を切り盛りしているタイプの、勇者とかに街の説明をする係だ。


「じゃあこの子は兵士がよくいく屋台の子」


「なにそれ」


 ふふふ、とエリーが笑う。声でしか判断できないが笑っている。初めて笑った声を聞いた。鈴のような愛らしい声だ。


「じゃあエリーは何を作ろうかな」


「謎の人物とかどう?」


「えー、怪しそう」


「そうだよ、怪しいんだよ、すっごい怪しいんだけど強いんだよ」


 話をしながら人形に着せ替え始める。徐々にRPG風のキャラが揃い始め、だんだん合いそうな服がなくなると、エリーが画用紙と絵具セットを取り出してきた。服を描き、色を塗る。乾いている間にまたキャラを作り、絵が乾いたら切り出す。


 そうして人形を作り出していると、ふと外から漏れるような光がオレンジ色の光を纏っていることに気付いた。おそらく、この部屋に訪れて数時間は経過しているだろう。エリーは絵筆を紙の上に置き、ぐっと伸びをした。


「ふあ、疲れた」


 器用なのか布が大きいからなのか、すっぽり隠れて見えない。天めがけ赤の塔が突如伸びてきた感じがある。


「これだけ人がいるなら、街つくっちゃうのもいいかもしれないね」


 一番初めに作った兵士の服を眺めながら呟く。いつのまにか短剣が手から落ちそうになっているので整えた。キャラだけじゃなく屋台とか、城とかも欲しくなってしまうのはゲーマーの性だろうか。


「じゃあさ、明日もお屋敷に来てくれる?」


「え」


「作ろうよ、街」


 エリーは「お願い」と昨日とは異なり、伺うような声色で私の手に触れた。その触り方は腕をぎりぎり締め付けるものではなく、優しく、手繰り寄せるような触れ方だ。


「いいよ。完成まで頑張ろう」


 私はエリーの言葉にうなずく。黒い布に隠れて表情は見えないけれど、きっとその表情は笑っているような気がした。

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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