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孤児院に住む子供たち

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/




「熊さん、おやすみなさーい!」


そう言って布を横たわった熊のぬいぐるみの顔に乗せる子供。

その熊を取り囲むように座り、にこにこ笑う子供たち、約八名。

どう見てもご臨終にしか見えず、永遠に眠ってしまった様相だが、

「熊さんが眩しくないように」という可愛い子供の優しさである。


エプロンに着替え、院長に通された先は、

いわゆるプレイルームだ。

大体幼稚園くらいの年齢の子供が、わんぱくに遊んだり元気に知育活動をする部屋である。

他に、小学校から中学校くらいまでの年齢の子供が勉強したりする部屋もあるが、

それは今日じゃないか、全く関わらないかのどちらかなのだろう。


そうしてプレイルームに通され、一人ひとり子供達の前で自己紹介をして、

じゃあ各自子供達と関わってみてと半ば放り投げられた形で今に至る。




「レイド先生っ絵本呼んでー!」

「わたしもー!」

「うん、順番にね。守れるかな?」


後方から響く女の子の黄色い歓声に目を向けると、

女の子がとある人物を取り囲むように集まっている。

そしてその中心にいるのは、レイド・ノクターだ。


現在彼は、いわゆる学園ものストーリーで、

女子生徒からの熱狂的な人気を誇るキャラクターかのような、

分かりやすい囲まれ方をしている。

相手は女児だけれど……。

レイド・ノクターの外見は絵本から飛び出てきた王子様のようだ。

そんな絵本を今まさに楽しんでいる世代から見たら、

レイド・ノクターは王子様のよう、ではなく王子様なのだろう。


そんなレイド・ノクターとはある種似ているが対照的なのはルキット様だ。

ルキット様は現在私の斜め前方で男の子に囲まれている。


「ヘレン先生、結婚してください」

「うん! おーきくなったらいーよっ!」


男の子の突然の求婚に対して、

模範解答を繰り出し可愛く微笑む姿は、

街のモニターに表示される化粧品広告として表示されても違和感がない。


その隣では、ロベルト・ワイズが子供達の質問攻めにあっていた。

空が青いのは何故、草が緑なのは何故との子供たちの質問に、

専門家顔負けの解答をしている。

そして本来であれば子供たちはきょとんとしてそうだが、

子供達は熱心にメモを取っていて、

まるでロベルト・ワイズの周囲だけ、講義が開かれている状態だ。


前方にはアリスだ。

アリスの周りは、なんだかとても「校外学習」の感じがある。

にこやかに読み聞かせをするアリス。男女問わず集まる子供達。

若干ミュージカル映画のワンシーンのような、普通じゃない感じも出ているけれど、

彼女はこの世界の絶対的ヒロイン。キラキラオーラを発している。


そして私はというと現在、子供達と一緒にパペットを用いて遊んでいる。

男女問わずの子供達だが、他の四人と異なるのは全員顔見知りの相手と言うことだ。

というか、現在プレイルームにいる子供たちは全員顔見知りである。

よって自己紹介は、やや軽度の拷問であった。

子供達は顔見知り、いわば知人である。けれど他四人の手前、

「私のことは知ってるよね、アハハ割愛でーす」なんて言えるわけが無い。

普通に自己紹介をした。


これが大人相手なら、どんなに旧知の流れであっても空気を読むだろう。

何千と聞いた名前でも、黙って頷き、ほほ笑む。

けれど相手は子供である。純粋無垢の結晶。

疑問があればどんなことでも鋭く切り込むように尋ね、

悲しければ大粒の涙を零し、社会の理不尽……大人の絶対的に実行されない、

「いつか」「また今度」に怒る素直な戦士たちである。

そんな子供たちが、知り合いで、

さらにいえばかごめかごめに近しい遊びをして、

延々と籠の中に突っ込もうとしたり、

花いちもんめでたらい回しにする人間が、

あたかも初めましての体で自己紹介をしてきたら、

疑問を投げかけ、知ってることには知ってると答えるのは当然である。

だって子供なのだから、

何かを言われ知ってたら知ってると言いたくなるのが人間の本能で、

本能に忠実なのが子供だ。


だから私の自己紹介は、

「こんにちはミスティア・アーレンと申します」「知ってるー!」

基本この繰り返しだった。


何を言っても存じ上げられる状況は、

新手の圧迫面接に近い。さらに、子供たちは、

「好きな食べ物は口の中ががさがさになるパンー」とか、

「外で遊ぶのは好きじゃないー!」など、

私の自己紹介につけ足し、謎の暴露大会と化した。

そのせいで私の自己紹介だけ大幅に延長したのである。地獄。


そんな地獄を乗り越え、やって来た子供達とおままごと開始したはずだが、

子供達がしたいといった「おねんね会」は、どう考えても葬式としか思えない。

けれど、優しさだ。ぬいぐるみの頭に布をかぶせるのは、

真昼に眠らせられる熊さんが眩しくないようにという配慮である。

私の心が汚れているから葬式にしか見えないだけで、

これはおねんね会である。


「ねえミスティア様、他の人は皆ミスティア様のお友達なの?」


眠れる熊の蘇生方法、もとい次の展開を考えていると、

ふと熊に布を被せていた子が首を傾げて質問してくる。


流石無邪気。純粋な質問。

じゃない。駄目だ。何この質問。スクープ記者か。


友達じゃないと答えてしまえば、やや気まずい空気が流れる。

友達と答えてしまえるほど、気安い関係ではない。

微妙な距離感である。特にルキット様やロベルト・ワイズならば、

こちらから好意的に接することが可能だが、

レイド・ノクターに関しては罰当たりレベルの、無礼千万、

彼が王家の筋の者だった場合確実に首をはねられているような、

失礼極まりない態度を取り続けているし、

アリスとは本当に、ヒロインとそのライバルキャラクターという関係性を除くと、

「会話はするし挨拶もするし、

 互いに色々補助的なこともするけど仲良くはない」

みたいな、めちゃくちゃ微妙な関係だ。

誕生日プレゼントとか、贈らないわけにもいかないけど、

相手のこと知らなさ過ぎて何を送っていいか分からない、みたいな、

本当に微妙としか言えない関係である。


そして二人とそんな関係性に陥っているのは、

全面的に私に非がある。

レイド・ノクターは正義の人。そして善良である。

アリスは、優しくいい子だ。本来ならば仲良くしたいと思う。

けれど二人に近付くことは現状死と同義と捉え、撤退に重点を置くべきである。

少なくとも、本編終了の学年が変わるまでは。


となると、「友達だよ」とも言えないし、「友達じゃない」とも言えない。

どうしたものかと考えていると、ふいに私の隣に居た子供が、

私にとんでもない質問を繰り出した子供に話しかける。


「ミスティア様は前に苦手なのなあにって聞いたら、

 友達作りって答えてたから違うと思うよ」


確かにそれは言った。

「一番苦手なことは?」と質問され、

「対人に難があり人と接することが困難」なんて答えられないから、

「友達作り」と答えた。


……違う答えにすればよかった。

けれど後悔してももう遅い。

子供達は楽しそうに私の友人関係の予想を立て始める。


「ミスティア様は私たちに嘘吐かないよ。

 同い年の人と話すのは特に大変って言ってたもん」

「なら、いても一人くらい? 皆じゃないよね、多分」

「誰だろー」


何か改めて言葉にして言われるとめちゃくちゃ悲しいな。

それになんか、犯人探しみたいな雰囲気になりそうだし


「ぼく、眼鏡の人が怪しいと思う!」


いや、なってるな。


「私はねえ、あの髪の毛ふわふわの二つに結んでる人だと思うの」


口々に、「友達あてっこゲーム」を開始する子供達。

実際は誰もおらず、「誰」と考えている時点で不正解が確定しているが、

この状況は中々に辛い。


「ほら、おままごと再開しましょう。

 私の友達については、おいおいということで……」

「えっ、ミスティア様、貴族の人が通う学校にお友達、いないの?」


純粋無垢な瞳で見つめながら繰り出す言葉はさながらジャックナイフのような鋭利だ。

無邪気という刃である。

フィーナ先輩とエリクと言うれっきとした友人が居なければ、

めった刺しにされているところだった。


「いますよ、大切な友達が二人」

「本当? 良かったね!」


きゃっきゃと自分のことのように喜ぶ子供達。

他人に友達が出来たことを喜べるなんて偉い。本当に優しい子供達だ。

一瞬、自分より平均十歳年下の子に友達が出来たことを喜ばれる私とは、

という気持ちにならなくもないけれど、

子供達が人を思いやる気持ちや、

優しさをきちんと持って成長していることに喜ぶべきだろう。


「じゃあ、学校に好きな人はいるのー? 結婚したい人は?」


しみじみと子供達の成長に胸を熱くしていると、

私の裾を女の子が掴む。

好きな人。その次に結婚というワードが出て来たのは、

幼稚園児特有の将来なんとかくんと結婚するのー。みたいな思考だろう。

ということは、恋愛か。

その意味で好きな人は、普通にいない。

恋愛結婚が出来る立場でも無いし、

ギャンブルと暴力とか犯罪方面に振り切ってる人間じゃなくて、

気性が穏やかだったら誰でもいい。


「いないよ」

「じゃあ、あそこのレイド先生とロベルト先生どっちが好き?」


無邪気のジャックナイフ再び。


どこをどう考えればその二択が生まれる?

いや、この場に私と同い年の異性はレイド・ノクターとロベルト・ワイズのみ。

当然の二択か……。

でもまあ、逆にこの孤児院で誰が一番好き? みたいな、

ショタコン極めたような質問をされたら、

もれなく弟狂いのレイド・ノクターに殺されているだろう。


けれどこの二択も修羅の道だ。

誰が聞いてるか分からない手前「レイド様です」なんて答え、

アリスに「ミスティアはレイド様が好き」みたいな感じで認識されるわけにもいかないし、

「ロベルト・ワイズさんです」と答えたとしても、

婚約者であり正義清潔誠実のレイド・ノクターにさらなる嫌悪を抱かれ、

存在が不適切だと消される。

ただでさえ本日のレイド・ノクターの奇行は恐ろしい。

馬車での強制寝かしつけなんて意味が分からな過ぎて怖い。

刺激したくない。

事務所からプライベートなことは本人に任せてると伝えてほしい。

いや駄目だ。事務所なんて無いし今まさに本人である私が囲まれてる。


となると、思ったことを伝えるか?

レイド・ノクターと、ロベルト・ワイズ。

どちらが好きか。


……駄目だ。どちらも尊敬しているけれど、

恋愛の好きは微塵も無い。というか、

恋愛の好きで好きな人自体いない。


そもそも前世時代から遡って、存在したことがない……。


「うーん、私……恋愛、出来るんでしょうかね……」


呆然としてそう呟くと、子供達は私をじっと見た後、

なんだかとても気まずそうな、哀れむような温い目でこちらを見る。


「ミスティア様、きっといいことあるよ」

「そうそう、恋はするんじゃなくて落ちるって言うし」

「ミスティア様を好きな人は、きっといっぱいいるから」

「焦らないでゆっくりでいいんだよ」


ぽんぽんと私の背中をさする子供達。

今までさする側だったけれど、さすられる側になる日が来るとは……。

全員の頭を撫でようと、やや腕をあげようとすると、

肩をとん、と、子供の手にはやや大きすぎる手に叩かれた。


「ミスティア、お手洗いって何処か分かる?」


振り返れば、レイド・ノクター。

本当に近年というか最近の振り返ればレイド・ノクターが居る確率は、

中々の高さを誇っていると思う。後はエリクが隅から現れる確率も結構高い。

レイド・ノクターの様子を窺うと、子供達を連れている。

え、集団トイレ?


「……? とりあえず私が行きま……」

「うん、ミスティアと一緒に遊んでいる皆と一緒に、

 孤児院の中探検しつつ、お手洗いの場所教えてもらいたいんだけれど」


爽やかな笑みを浮かべるレイド・ノクター。

けれど言っている意味が全然分からない。

皆と一緒に探検しつつ、トイレの場所を教えろとは一体。


「でも、こちらはおままごとを現在しておりま……」


「わーい、行きたーい」

「レイド先生と一緒に探検しよ! ミスティア様!」

「皆でなんとかしてあげるから! 大丈夫だよ!」


いや何も大丈夫じゃない。

しかしレイド大先生が連れている子供達は当然ながら、

私とおままごとをしている子供達も一緒になって探検に乗り気だ。

お、おままごとがしたい。探検に行きたくないのが本音だけど、

おままごとがしたい。今私は世界で一番おままごとがしたいと思う。


「……じゃあ、探検、行きましょう……」


けれど、ここフォルテ孤児院においては子供が第一。

というか基本的にすべての物事に置いて幼子というものは保護の対象であり、

優先すべき対象である。私に選択の権利など無い。

そしてレイド・ノクターが連れている子供のトイレ事情も不安だ。

私は速やかに立ち上がり、子供達を連れ、

レイド投獄死罪一家使用人離散爆弾大先生と部屋を出た。



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

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