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捏造恋愛イベント

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


エリクと打ち合わせを終え、上着を返した私はぼんやりと競技を観戦していた。

その競技も、中盤に差し掛かっている。

そろそろ借り物競走の実行委員として招集がかかる頃だろう。

少し早いが、待ち合わせは早いに越したことは無いと、

実行委員の方へ足を向けつつ、心の中で覚悟を決める。


……今回の捏造恋愛イベント。

絶対に成功させて、レイド・ノクターとエリクの、

アリスへの心の距離を近づけさせる。


お題箱は作成から携わり、既に細工を施してある。

そしてレイド・ノクターやエリクが走るレーンのお題箱を渡す係も手に入れた。

細工も、メロと試行錯誤して、

指で少し糸を外すだけで細工が展開するようにした。


正直体育祭で細工をして人を思い通りに動かす、

という行為は悪役そのものに近いが手段なんて構っていられない。

両親の命と、使用人の命、友人やお世話になってる人の名誉も関わっている。

委員会のテントに到着すると、丁度招集をかけるタイミングだったらしい、

「早いねえ! これお願いね!」と委員先輩に三年のお題箱を差し出され、

受け取る。


不正が無いように、お題箱はただ机に置くのではなく、体育祭委員が持ち、

どのレーンで誰がどの箱を持つのかを、

しっかり決める仕組みにしたのだと委員会の際に説明されたが、

その仕組みが不正を働くうえで功を奏している。


校庭の端に目をやると、借り物競走の選手が列を形成しながら入場していく。

レイド・ノクターや、エリクが居る。レイド・ノクターは男子生徒と会話をしており、

エリクは女子生徒数人と会話をしている。


しかし、どことなくエリクと女子生徒に距離を感じる。

どこか他人行儀というか、むしろエリクが女子生徒から引いているような、

距離をとっているように感じる。


何かがおかしい。致命的な何かを見落としている気がして、

「よし! 選手入場したね! 指定の位置にお願い!」と先輩から声がかかり、

箱を抱え指定の位置につく。

順番は三年生からだ。三年、二年、一年と言う順番。

エリクが先にアリスを連れて行き、その後解散してアリスがフリーになった頃合いに、

レイド・ノクターがアリスを連れて行く。それぞれ二年の最終、一年の最終走者の為、

時間に開きがある。丁度いい。神の采配を感じる。


校庭にスタートの笛の音が鳴り響き、三年の走者がこちらに走ってきて、

お題箱に手を突っ込み引き抜く。


「め、眼鏡? 探さなきゃ!」


お題は眼鏡らしい。走者は眼鏡を求め駆け出していく。

学校に、眼鏡の先生や生徒は一定数いる。アリーさんは今日いないけれど。

ただうちのクラスでは、ロベルト・ワイズただ一人だ。

おそらく眼鏡キャラ被りがされないようにと言うことだと思う。


三年の先輩たちが、走り、お題を引いて、走り、を繰り返し、

走り、お題を引いて、走り、気が付けば三年の最終走。

次は二年だ。

人数が少なめなのは、

やっぱり探す時間がかかるからだろうか。

委員会に素早く戻り、二年の細工済みお題箱を先輩から受け取り、

また指定の位置に戻る。


二年の借り物競走の始まりだ。

二年の走者がスタートの合図で一斉に走り出す。


エリクのお題は「高い位置で髪を一つに結んだ一年生の女子生徒」である。

ここでのポイントは「高い位置」だ。

髪を結んだ生徒は体育祭の為複数いるが、高い位置で一つに結んでいる生徒はアリスしかいない。

アリスとエリクは知り合いであるし、お題をエリクが目にすれば、

一発でアリスを思い浮かべ、アリスを探すはずだ。

さり気なく底に仕込んだ糸に触れる。

後はエリクの番が来たら引くだけだ。

引いてしまえば最後、箱の中で細工が展開され、そこに仕込んであった、

「高い位置で髪を一つに結んだ一年生の女子生徒」

誰にも引かれず底で眠っていた切り札が現れる。

そして展開されたら最後、そのまま細工は箱に馴染むようになっていて、

箱を解体されても絶対に分からないようになっている。ありがとうメロ。

何かもう、凄腕の諜報員みたいだよ。かっこいい。大好き。


心の中でメロに感謝を述べつつ、シミュレーションを繰り返していくと、

エリクがスタート位置についた。

底の糸を指で擦り、細工をいじると、

振動で箱が展開されたことを感知した。


開始の笛が鳴り、エリクがこちらに向けて駆けてくる。

思えば、エリクが走っているところをみるのは初めてかもしれない。

お人形遊びに限らずかくれんぼなど色んな遊びをしたけれど、

走る遊びはしなかった。


エリクは息を切らせながら私の前に辿りつく。

駆けて来たエリクは上着を着ている。上着派か。

やっぱり返してよかった。


「あ、ご主人が係だったっけ、嬉しいなあ」

「どうも、この箱から引いてください」

「はあい」


エリクは、笑みを浮かべながらお題箱に手を突っ込み、

箱からお題を引き、じっと紙を見つめる。


「高い位置で髪を一つに結んだ一年生の女子生徒」について思いを馳せているのだろう。

思い出すんだエリク。君のすぐ近くに、高い位置の一つ結び、

この世界の絶対的ヒロイン、アリスがいたことを。そして向かって、

主従ごっこ狂いを無くしてくれ。


「よし、行くよ、ご主人」

「はい、う、ええ!?」


ぐいっと腕を引かれ、お題箱が手から滑り落ちかけ、慌てて掴むと、

そのまま体が前に傾き、一歩踏み出す。そのまま繰り返す様に、

最早引きずられるようにその腕、エリクと駆ける。

え、なにこれ、は?


「え、何でですか? 何で? 何で?」


「僕のお題、体育祭委員だから。

 ご主人連れて行っちゃった方がすぐに行けるからっねっ」


そんなお題なんて、入れてない。

箱を取り違えた? いや、確かに糸は引き抜いたし、この箱だ。

いやこの箱しかない。意味が分からない。


エリクは私を連れ駆け抜け、ゴール付近の体育祭委員に紙を提示すると、

「合格です!」と前へ促される。そのままゴールテープを切り、

一位到着の笛が鳴る。え、何だこれ。


何だよこれは。


「やったね! ご主人! ゴールだよ! ありがとう!」


満面の笑みのエリクがぶんぶんと私の腕を振り回す。

エリクが嬉しそうで私も嬉しい。じゃない。いや嬉しいけども。

いやいやいやいや、腕取れるって。いや違う何だこれ、

絶対違う。こんなイベントじゃないんだって。 何だこれ。

何で? 体育祭委員なんてお題自体存在してたか? 意味が分からない。

お題、そうだよ、お題だよ、係の仕事だ。何で私ゴールしてるんだ。


「ごめんエリク離して一年のお題箱係だから私!」

「はあーい」


エリクは素直な返事で私の腕を離しくれた。

実行委員会の元へ駆けだし、指定の位置に戻る。

それと同時に最下位の走者がゴールした笛が鳴った。


……危ないところだった。

係員不在のまま一年の競技が始まるところだった。危ない……。

いや危ないとかじゃない。何ださっきの。何ださっきのは。

意味が分からない。何で? 紙が一枚余っていた?

予備で? 何が起きた?

確かに糸は引いたし、細工した箱だった。

理由を思い返しているが思い当たる点が無い。

考えている間にスタートの笛が鳴り、一年生が駆けだしてくる。次は一年女子だ。

走者がこちらに駆け寄り、お題箱から引いたのを見届けて、周囲を確認する。

すると体育祭実行委員のテントの脇に、見覚えのある笑みを浮かべる人物と目が合った。

クラウス。


……こいつか。


クラウスはゆっくりと私を指さした後、指で四角……、箱を示し、

何かを入れる素振りを見せると自分を指して、大きくばつを作った。


俺じゃない、と言いたい?

じゃあ誰が?


私が目を見開くと、指を差して馬鹿にするジェスチャーをする。

誰にも見られていないことをしっかり確認しているらしく、

クラウスの行いに周囲が気付く気配が無い。

昼休憩に入ったら、クラウスに聞くか……?

しかし捕まる気がしない。彼の教室へ向かうなど、少しでも捜索の動きを察知されれば、

「面白そう」と鬼ごっこやかくれんぼを開始するはずだ。

それは楽しい鬼ごっこやかくれんぼではなく、

いつまで経っても捕まえられない鬼を、

高みの見物をしつつ適当に苦しめるごっことして。


そんなことされたらクラウスの能力上絶対捕まえられないし、

悪戯に無駄な労力を費やすことになる。


奇跡的にこちらを尋ねて来たタイミングを狙うしかないだろう。


ゴールの笛が鳴り、我に返る。

……クラウス捕獲は後回しだと前を向くと、スタート位置にアリスが立っていた。

レーンこそ違うものの、何故彼女がここに?

誰かと交代して? けが人が出て?

あれこれ可能性を考えている間に、スタートが切られ、

アリスがこちらに向かってくる。


彼女はお題箱から札を取りしばし眺めた後、完全に停止する。

まあ、アリスがお題を引きに来なかっただけましか。何かあったら怖いし。

アリスから目を離し、前を向くと私のレーンの走者がやってきてお題箱を引いた。

そのまま走者を見送ると、入れ替わる様にアリスが目の前に立つ。

え、何で。


「ミスティア様、すみません、一緒に来てくださいっ!」


アリスがお題をこちらに差し出す。

そこには、「尊敬する人」と書かれている。


……は? 今、一緒にって言ったよ……な?

何で? 私に?


「駄目ですか?」

「いえ、そういうわけでは……」


アリスの問いかけに反射的に答えると、

アリスは「ありがとうございます!」と満面の笑み、

世界を凌駕するヒロインの微笑みを浮かべ私の手を取り凄い勢いで駆けだす。


速い。アリス、ただただ足が速い。


そのままアリスは、私の手を取ったまま、

魔法が解ける十二時を知らせる鐘が鳴ったシンデレラの如く駆けていく。


待ってシンデレラ、足速いよ。

っていうか何で私なの。

何でレイド・ノクターとか、ジェシー先生じゃないの。

何でアリス、悪役連れて走っちゃってるの。

何が起きてるの。意味が分からない。

何これ、何?


混乱したままアリスと共に駆け抜け、ゴールテープを切ると、

到着の笛が鳴り響く。

意味が分からない。何でまたゴールしているんだ私は。

呼吸を整えながらアリスの方を見ると、

彼女は「ミスティア様! 一位です! ありがとうございます!」と跳ねている。

嬉しそうで何よりだが、意味が分からない。

何だこれは、一体。

……と、とりあえず係の位置に戻らないと。

また次のレースが始まってしまう。



私は思考が停止したまま、

係を全うすべくお題箱を持ちなおし、指定の位置へ急いだ。

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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