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海を越えて

新年明けましておめでとうございます。


今年もよろしくお願いします。


『わぁ〜海〜、おっきな水溜りだぁ〜。』


 ネェルは初めて近くで見る海に興奮している。


「飛行船おっきいね〜。」


 アコは飛行船に興味を持った様で港の広場に到着してからずっと眺めている。

 ネェルはもちろん、アコもヴァル・キルマから出た事はなく興奮していたのだ。


 アサヒとサマンサがレイモンドを訪ね、その後国王との謁見をしてから二週間ほどのち、彼らは再び王都キルマーを訪れていた。

 今回彼らが王都を訪問したのは、海を越えフィルモアに渡航するのが目的であった。

 アサヒ、アコ、ネェル、そしてアルマの四人でフィルモアを目指すのだ。

 


 時を遡る事、アサヒ達が謁見を終えクバルに戻って来た翌日の事だった。

 サマンサの下にレイモンドからの書状が送られてきたのだ。その内容は国王ハルバートにアサヒとDガールズをチョコレートの宣伝大使として同行させる許可を得たとの内容であった。

 そしてその日の夜ゴメスの店には、アサヒ、サマンサ、ガンツォ、そしてミゲルが集まっていた。


「チョコレートの件、思っておりましたより早く済みましたわね。レイモンド卿はもとよりハルバート陛下にも受けがよくて本当によかったですわ。」


「本当ですよ、サマンサさんのおかげですね。」


「それにしてもレイモンド卿は仕事が早いよな。二週間後にはフィルモアに出発とはなぁ。」


 ゴメスはレイモンドの手際に感心するのだった。


「俺達からしても本当にありがたい話しだよ。いつまでもこうしてる訳にもいかないから、少しでも可能性がある事をやらないとさ。」


「もしダメなら、このままクバルで暮らせばいいんだぜ。なぁ皆んな」


 ミゲルが笑顔でアサヒに言うのだった。そしてその発言にその場の皆んなが頷いていた。


「ありがとうミゲル、皆んな。そうなったらよろしく頼みます。」


「でアサヒ、フィルモアには三人で行くのか?」


 ガンツォが訊ねる。


「まぁ向こうには、技術を探しに行くだけだし、とりあえずは俺とネェル、アコで充分だと思うんだよね。」


「そうだな、とくに危険はないとは思うけど大丈夫なのか?三人で、」


「とは言え、アルやJはこっちでフェイロンを直してもらいたいから連れては行けないし、ニコルやピーターだって仕事があるからね。」


「んじゃ俺連れてってくれよ。荷物持ちくらいだったら喜んでやるぜ!」


「いや、せっかくならアルマを連れてってくんねぇか。外の世界を知るのはいい事だ、アイツにもそうゆう経験をさしてやりてぇからよ。それにいざとなりゃあ、おっさんより役に立つぜ。」


「なんだよ、おっさんって!」


 ミゲルは興味本位から自分も連れて行けと頼む。しかしその申し出を遮りガンツォはアルマを連れて行ってくれとアサヒに頼むのだった。


「そうですわね。フィルモアでしたら魔族の心配もないはずですが、万が一を考えると腕の立つ方の方が安心ではありますわね。」


「サマンサ首長まで……、」


「なにしょげてんだミゲル、お前には街を守るって大事な仕事があるだろ?自警団としてな。」


「そおだけどよ。まぁここは若いもんに経験を積ましてやるって事で譲ってやるよ。」


「さすがミゲル、出来るおっさんは余裕がありますな。」


「まぁな。」


 ミゲルは場の空気を汲み取るとアルマにその座をゆずる。そしてフィルモア行きのメンバーはアサヒ、アコ、ネェルそしてアルマに決まった。サマンサはフィルモア行きのメンバーの書状をレイモンドに送るのだった。


「あちらはアサヒとDガールズ、それとアルマか、彼はガンツォの手下だね。大丈夫かい?」


「はい、クバルの件では私も正体を隠しておりましたので問題はありません。アサヒの仲間のアルだったとしてもよほど大丈夫かと、」


 次の日からアサヒはフィルモアでのチョコレートの宣伝の為の用意をはじめるのだった。そしてアコとネェル、さらにアルマにもその事を告げ、フィルモアに同行してもらう承諾を得て出発の当日を迎える。



「いやぁ、僕も飛行船は初めてなんで楽しみですよ。」


「ねえねえアサヒ達はフェイロンに乗ってるでしょ。空飛ぶのってどんな感じ?」


「いや、ここではフェイロンで飛んでないからね。初めてここに来た時は宇宙から落ちてきたからそんな余裕なかったし、しかも俺達が仕事してた宇宙ってのとは全然違うもんだよ。だから俺も楽しみなんだよね。」


「空の旅は、船とはまた違う良さがありますよ。もちろん船より早く着きますし、何より空を飛ぶのはとても気持ちよいですよ。」


 出発の前日、王都キルマーにはサマンサ、アサヒ、アコ、ネェルそしてアルマの姿があった。その日の宿にて五人は明日の話しをしていたのだ。

 翌朝、サマンサはレイモンドを迎え行き、残りの四人は港に併設されている飛行場広場にある建物に向かった。そして四人は広場の建物の中でレイモンド達を待つ事にしたのだ。

 そして、アコやネェルが物珍しいそうにしていると甲冑を装備した毛長牛に引かれた豪華な荷車二台が飛行場に姿を現すのだった。

 荷車からは、無駄に装飾の施された小柄な男と騎士四人が降りてくる。小柄な男がこちらに気付き、怪訝そうな顔を向けるとフンッと一言放ち建物に入ってくる。


「なんだ貴様らは?ここは薄汚い庶民が来る様なところではないはずだが。」


 この世界では飛行船は珍しく、王族や貴族、そしてそれらと関係の強い豪商の一部が使うのみで、一般的には国を渡る際には船で渡るのが普通であったのだ。その事からもアサヒ達が飛行船に乗れるのはレイモンドの影響力のおかげであったのだ。


「はい俺達はレイモンド卿に同行する者です。クバルから新しい名産品をフィルモアに届けに行くんです。」


「はんっ、よくもまぁそんな貧相なナリでレイモンド卿と知り合いとはな。」


「なんだコイツ?」


「シッ、アコちゃん相手しちゃダメだよ。」


 出会って早々に嫌味を言われたアコは、あからさまに嫌な顔で、小さな男を睨み付けたのだか、アルマは笑顔でアコの前に立ち諌めるのだった。


「はい、分不相応なのは分かってます。レイモンド卿から是非にと、同行を求められましたので粗相のない様に気をつけますのでよろしくお願いします。」


「ふん、何故私がよろしくせねばならんのだ。くれぐれも邪魔するなよ。庶民ども、」


 そこへ王族専用の豪華な荷車と、レイモンド商会の荷車が到着した。

 レイモンドと秘書そしてサマンサが荷車から降り、王族専用の荷車の前に並ぶと、荷車からはハルバートが姿を現すのだった。

 アサヒもサマンサの横に並び、ハルバートを迎える。そこへ遅れて小柄な男がやってくるのだった。


「これはこれは、ハルバート陛下ご機嫌うるわしゅうございます。本日は何用でいらっしゃったのでございますか?」


 小柄な男が満面の笑顔で国王ハルバートに訊ねる。


「なんじゃダスティおったのか?」


「はい。本日本国に帰る予定でございました。」


「まぁよい。今日はレイモンドとそこのアサヒに仕事を頼んだのじゃ。くれぐれも邪魔せんようにな。なんせ儂のお気に入りじゃ。下手な事をしたら素っ首跳ね落とすぞ!ワッハッハッ。」


「畏まりましたっ!」


 ダスティは深々と国王ハルバートに頭を垂れるのだった。

 ハルバートはダスティには興味がないとばかりに建物の中にいたアコ、ネェル、アルマに手招きをした。三人はハルバートの前に並ぶと挨拶をする。


「初めてお目にかかります。クバルから参りましたアコと申します。」


『初めましてネェルです。』


「ハルバート陛下、お初にお目に掛かりますアルマと申します。」


「おぬしらがDガールズとやらか?今日は衣装は着ておらぬのじゃな。チョコレートの宣伝よろしく頼むぞよ。それと帰ってきたら儂にも歌と踊りを見せてもらえるかの。」


「「はい、よろこんでっ!」」


 国王との挨拶を終えるアサヒと三人、その傍らでは頭を垂れたままアサヒ達を睨みつけるダスティがいた。


「おぬし、いつまで頭を下げとるのじゃ?さっきのは冗談に決まっておろうが、真に受けるとはのう。」


 国王ハルバートは呆れた顔でダスティに呟く。ダスティは庶民と馬鹿にした者達の前で恥をかいたと額に青スジを立てながら、国王に向けて白々しい愛想笑いを浮かべるので精一杯であった。

 そして国王ハルバートに挨拶をしたアサヒは、レイモンドにも挨拶をする。


「しばらくお世話になります。よろしくお願いします。」


「はい、こちらこそ。まぁフィルモアでの予定は船内で話すとしましょう。あちらには少なくとも三日ほどはかかるので空の旅を楽しみましょう。」


 アサヒ達は、飛行船に積み荷を運び入れそれぞれ飛行船に乗り込む。

 乗組員が搭乗者達の確認を行い、離陸の準備が整うと操舵手に合図を送る。


「さあ、準備はいいかー!?」


「はい、ロープ離しますっ!!」


「出航するぞーっ!!」


 船長が大きな声で外の作業員達に告げと、飛行船を繋いでいたいくつものロープが解かれる。それと同時に巨大な船体はゆっくりと高度を上げていく。

 建物の二階からは、国王ハルバートとサマンサが見送りをしながらこちらに手を振っていた。

 アコとネェルは笑顔で大きく手を振りかえし、レイモンドとアサヒ、そしてアルマは頭を下げるのだった。


 飛行船は高度を上げ、ゆっくりと海の向こうアリア大陸に進路をとるのだった。


閲覧ありがとうございます。


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