はじめての謁見
アサヒ達の時代、君主制は絶滅したに等しく共産主義や社会主義も形骸化し、経済の歯車の中で雇う側と雇われる側という区別がほとんどであった。それは経済至上主義の社会構造の中において富を持つ者と持たざる者の区別に等しく、そこには個人として畏怖や尊敬の念を抱く対象などは存在しなかった。
しかし目の前に現れた男性が国の統治者で君主といわれても、その様な人物はアサヒの人生において出会う事もなく、物語や昔話に出てくる国王という存在があまりにも現実離れしており想像する事しか出来なかったのだ。そして人生で初めて会う国王と、今まで経験した事のない状況になりアサヒは動揺を隠しきれないでいた。
「あぁ、よいよい。そう畏まらんでよいぞ。」
「ご機嫌うるわしゅうございます。ハルバート陛下」
「ご無沙汰しております陛下。謁見のご許可誠にありがとうございます。」
「初めてお目にかかります国王様。クバルから来ましたアサヒと言います。この度はご拝謁いただき誠に感謝いたしますっ!」
アサヒは緊張と不慣れな尊敬語や謙譲語を駆使した話し方で、滑稽になってしまうのだった。
アサヒの態度にサマンサとレイモンドは含み笑いをする。
「レイモンドとサマンサご苦労じゃな。してアサヒとやら、そう堅くならんでよい、慣れぬ喋り方で口調がおかしくなっておるぞ。」
国王ハルバートは玉座に腰を掛けながら笑って話すのだった。
「まぁ皆の者、楽にするがよいぞ。」
ハルバートに促され、アサヒ達は腰を下ろす。
「それでは本日の用件でございますが、まずはこちらでございます。」
レイモンドはテーブルに置かれたトレーにチョコレートの包みを置く。
「うむ、開けて見せておくれ。」
「かしこまりました。」
包み紙を開け、中のチョコレートが見える様にすると側近がトレーごとチョコレートを持っていく。
「ふむ、初めて見るのう。してこれは何と申すのかな?」
「アサヒ殿、ご説明して差し上げてなさい。」
レイモンドがアサヒに促す。
「はいっ!そちらはチョコレートと申し上げますっ!」
「材料はコクアを使用しています!チョコレートの中にはフルーツの砂糖煮やナッツのペーストを入れてあります!」
「アサヒさん、そう堅くならずに落ち着いて下さいね。」
アサヒの狼狽ぶりにサマンサが苦笑いをしながら助言をするのだが、そう簡単には緊張はほぐれないでいた。
「面白いヤツじゃのう。まぁよい食べてみるかの。」
「今朝こちらのアサヒ殿とサマンサ首長が私のところに持って参りまして、毒見は済ませてありますので、どうぞそのままお召し上がり下さいませ。」
「あいわかった。」
国王ハルバートとその側近がチョコレートを口に運ぶ。
国王は目を閉じチョコレートを味わう。
「うむ!美味いっ!!」
「確かに美味でございますな。」
「コクアの苦味と芳醇な香り、そして甘さのバランスがよいのう。それと口に入れた途端にじわりと溶けて広がる口当たりが見事じゃ!!」
国王ハルバートは破顔し、二つ三つとチョコレートを食べるのだった。
「まっこと美味いのお。アサヒとやら、お主が作ったのか?よくも思い付いたものじゃな。」
ハルバートは大の甘党で、チョコレートは見事にハマったのだ。
「お気に召されたご様子何よりです陛下。つきましてこちらのチョコレートをアリア大陸フィルモアなどに輸出してはどうかと考えております。もちろん生産の段取りもサマンサ首長とアサヒ殿の方で都合をつけられるという事ですので問題は無いかと存じております。」
「よいではないか。クバル、いや我が国の新たなる銘菓として世に知れわたる事間違いなしじゃろうて!」
「それでは陛下お墨付きという事で、よろしいでしょうか?」
「もちろんじゃ!多いに商いするがよいぞ!!」
「ありがとうございます!!」
「陛下のお言葉、恐悦至極にございます。それではこちらとは別件についてお話しをしたいのですが、よろしいですか?」
「うむ、よかろう。ちなみにチョコレートはもっとないのか?」
「サマンサ首長まだお持ちではないです?」
「ございますよ。さあアサヒさん陛下にお渡ししてください。」
「はい。」
アサヒは手持ちのチョコレート十箱を全て側近に渡す。
「それでは私共はこれで退室致します。本日は突然の訪問失礼致しました。並びに謁見承っていただき誠に感謝します。失礼いたします。」
無事国王ハルバートからお墨付きを受けたアサヒとサマンサはレイモンドを残し先に謁見の間を出るのだった。
「ぷはぁ、いや〜無事終わりましたね〜。」
「陛下もお喜びになっておりましたし、一安心ですわね。」
「本当ですよ、レイモンド卿に誘われた時はどうなるかと気が気じゃなかったですけどね。」
「陛下が甘党なのは有名でしたから、すんなりすみましたわね。」
「それにしてもレイモンド卿はかなりのやり手ですね。行動が早くてびっくりですよ。彼が一代で商会を大きくしたのも頷けます。」
「そうですね。やはり優秀な方ですわね。」
「それじゃあ、塔に行きますか?」
「はい、その為にこちらに伺いましたしね。」
謁見の間を出て通路を歩く二人は、国王との謁見を振り返りながら再び塔に向かうのだった。
「こちらからですわね。」
戻って来た通路から塔に繋がる連絡路に入る二人、通路には窓が設てあり外の様子が見える様になっていた。
「ここって結構高さがあるんですね。」
「はい、もともと展望塔は物見櫓としてありましたのよ。城と街の防衛の為に作られたのですが街の発展とともに一般に開放されて観光名所になったのです。」
「下からだとあまり気づかなかったですけど、このお城も高台にあるから街がよく見えますよね。」
連絡路は塔に向かうにつれ昇りなっており、塔のおよそ三分の一の高さに連結されていた。下部にある建物の上に作られた展望塔は建物の三階部分からエレベーターに乗って最上階の展望室に行く様になっており、二人は塔の内部に入ると下から来た観光客に紛れエレベーターに乗り込み最上階にある展望室に上がっていくのだった。
「さあ、着きますわよ。」
エレベーターの上昇速度が緩慢になり最上階へと辿りつくと扉が開く、そこにはエレベーターを中心に円状に部屋が作られていた。
部屋には二つ扉があり、外部にあるベランダ部に繋がっている。そしてアサヒとサマンサは扉を開けベランダに出ていく。
「おぉこれが海かぁ……、大きいなぁ。」
「素敵な景色ですよね。世界の広さを実感するこの場所を私はとても気に入っておりますよ。でもアサヒさん達は、宇宙というもっと広大な場所に住んでおられるのでしょう。それと比べるとちっぽけなモノかもしれませんわね。」
「いや、そんな事はありません。なんだろう初めてなのにすごく久しぶりというか……。」
アサヒの心と身体に染み入るその情景は彼の目頭を熱くする。
空と海の境目をしっかりと際立たせた水平線が視界いっぱいに広がり、海は陽光を浴びて碧く煌めく水面をどこまでも続かせている。そして初めて見る海は漆黒の空間が果て無く続く宇宙とは違い、アサヒの胸に何故か懐かしさと安心感をよぎらせるのだった。
「うぅ〜〜んっと、」
大きく背伸びをするアサヒ、そして両頬をパンッとパンッと叩くと、その両目に新たな力をみなぎらせ海のその先を見据えるのだった。
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それでは少し早いですが、皆さまよいお年を!




