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はじまりの物語


 逃げようとしたグラハムは、一人でシモンズ達の前に姿を出してしまったジャクリーヌに遅れて灯りの下に現れる。


「バカやろう、何してんだよ!」


 片手に剣を携え、殺気立つシモンズ達に向かい合うグラハムはジャクリーヌの後ろに背中合わせに位置取るのだった。


「あれ?逃げたんじゃないのかい。」


 背中越しに話しかけるジャクリーヌ


「お前だけ置いて行けるかよ!」


「そうか僕達は仲間だったね。ありがとう。」


 先程の妖しげな笑顔とは違う、優しい顔をするジャクリーヌ


「お前グラハムじゃねぇか、綺麗なナリしやがって見つからねぇと思ったらレイモンド商会とつるんでたとはなぁ。」


 シモンズの横にいたダニーがグラハムを見るとにやにやと下卑た笑いを浮かべながら、その手の剣を向ける。


「ちょうどいいや、探す手間が省けたぜ。ボスやっちまいやしょうや。」


 二人に対して、部下を含め十数人いるシモンズ達は数的優位もあり、口元を歪め二人を嘲り笑う。そして仮面の男はジャクリーヌに問うのだった。


「ジャクリーヌ殿、話しをしたいのはやまやまだが、そうもいきそうにない状況だね。いかがされるのかな?」


 仮面の男は、両手を広げ首をかしげながらジャクリーヌに応えを促すのだった。


「そうですね。」

「………ふぅ。」


 ジャクリーヌは一呼吸した後、腰に下げた剣の柄に手をかけると、その刀身をヌラリと抜く。

 その刀身は細く長く装飾もないシンプルな形状で、西洋刀にしては貧弱に見えたがその刃は見事に研ぎ澄まされていた。

 そして、その刃を真っ直ぐにシモンズに向けるのだった。


「僕の邪魔をする者には退場していただきます。」


「面白ぇこと言うじゃねぇか小僧!」


 刃を突き付けられたシモンズの顔は余裕の含み笑いが消え怒気を発し紅潮する。そして手下の数人がジャクリーヌとグラハムを取り囲むのだった。


「首領っ!悪りぃが、コイツはこっちで片付けさせてもらう!」


「……好きにするがいい。」


「ありがてえ。さっきの件も含めて、手前の不手際のケツは拭かせてもらわねぇとなぁ。」


「お前ら生きてこっから出られると思うな。グラハムとレイモンド会長さんよ。」


 ダニーが二人に凄むと、手下達が二人に刃を向け、ジリジリと近寄っていく。

 ジャクリーヌとグラハムも剣を構える。


 手下の一人が大声をあげ、ジャクリーヌ達に斬りかかると戦いの火蓋は切って落とされた。


「くたばれやーっ!」


「おらぁっ!」


 手下の一人がグラハムに向かい剣を振り上げる。もう一人がジャクリーヌに向かう。


「クソッ!」


 ギンッと鉄と鉄のぶつかる音と火花が舞う。ジーンは振り下ろされた剣を受けると、そのまま押し込まれてしまう。


「そんなもんかっグラハム!?」


「ちくしょうっ!」


 片やジャクリーヌは迫ってきた一人の剣を弾くとそのまま弾いた剣を持つ腕を横から斬りつけた。


「ぐあっ、いってぇ!」


「おや?踏み込みが浅いか。やはり動くモノを斬るのは違うんですねぇ。」


 初めて人を斬ったジャクリーヌの感想はただそれだけのものだったのだ。

 そこからジャクリーヌとグラハムの舞台が始まる。


「さぁ、始めましょうかっ!」


 腕を斬られた手下の一人が憤怒の形相で襲いかかるも、ジャクリーヌはそれをなんなく躱し、今度は首めがけその研ぎ澄まされた刃を振るう。目で追えぬほどの素早い斬撃は見事に首を捉える。


「あ、かはっ…」


 首を斬られた事に気付かず振り向いた男は、何か喋ろとして叶わず代わりに痛みと血飛沫の飛び散る首を押さえたまま膝から崩れ倒れるのだった。


「さあ、次は誰だい?」


 手下の一人をやられたシモンズが叫ぶ。


「テメェら何ちんたらやってんだ!さっさと片付けちまえっ!!」


「やるじゃねぇかっ!ジャクリーヌ!」


 叩きつけられる斬撃を受けていたグラハムが一人目を倒したジャクリーヌを見て勢い付き、襲いくる手下の腹部に剣を叩きつけるとグラハムも一人目を血祭りにあげるのだった。


 二人は襲い来るシモンズの手下達を次々と討ち倒していく。手下達の数が半数を割り、シモンズとダニーを合わせ残り六人となってしまったシモンズ達に焦りの色が出始める。


「ガキと貴族相手になんてザマだテメェらっ!!」

「ダニーっテメェも見てねぇでとっとと片付けちまえっ!!」


 返り血と、自身の切創傷で血塗れになるジャクリーヌとグラハム、ジャクリーヌは五人、グラハムは三人を仕留めていた。それぞれの剣は刃こぼれし闘いの激しさを表していた。


「舐めんなよっ!ガキがー!!」


 グラハムめがけ剣を振り下ろす手下、そこへもう一人が背後から斬りかかる。


「くだばれクソガキっ!!」


 グラハムは正面から迫る刃を受け止めたが、背後を取られたと覚悟を決めた。しかし、ガキンッと背後で剣と剣のぶつかる音がするとジャクリーヌがグラハムを狙った剣を受け止めていた。


「すまねぇ、ジャクリーヌ!」


「これしきで終了ですか?ジーン。」


 受け止めた剣を払いのけ、続けざまに剣を振るうジャクリーヌ、その刃は手下の腹を切り裂くのだった。


「うぎゃーっ!」


 はらわたを無様にはみ出した手下は、断末魔の叫びをあげ床を転げ回る。

 グラハムも受け止めた剣を払いのけ目の前の手下を袈裟斬りに仕留める。


「なんだテメェらっ情けねぇ!!おいっ!ダニーお前がなんとかしやがれっ!!」


「えっ!?」


 シモンズはダニーを掴み、自分の前に押し出す。


「くっそガキィィー!!」


 ダニーは半月刀を構えると素早い連撃をグラハムにたたみ込む。

 残りの手下二人はジャクリーヌに向かって剣を振り上げる。


「はっはー!雑魚と一緒にすんじゃねぇぞ!!伊達にアイツらを纏めてたわけじゃねぇんだよ!!」


「クソッ強ぇっ!」


 ジャクリーヌは手下二人を素早く仕留めると押されるグラハムの傍からダニーに突きを放つが、ダニーはもう片方の刀でそれを弾き返すのだった。そしてジャクリーヌとグラハムは一旦下がりダニーと距離をとる。


「会長さんもやるようだが、まだまだ甘いなぁ。」


「この人はなかなかやりますねぇ。」


 余裕の笑みを浮かべるダニー、両手の半月刀を振り回しながらジリジリと間合いを詰めていく。


「そりゃあっ!」


 掛け声とともに踏み込んで来たダニーはグラハムに斬りつける。そこへジャクリーヌが腹部をめがけ剣を振るうと、刃はダニーを掠めた。怯んだダニーの一撃を受け止めたグラハムは半月刀を弾くとそのまま足払いをし倒れたダニーの上に馬乗りになり手に持った剣を首に当て全体重をかける。


「グゲッ」


 蛙を踏み潰した様な音のあと、真っ赤な鮮血を撒き散らしながら、ダニーの身体はピクピクと痙攣し絶命する。その時だった。


「バンッ!」


 破裂音と共にダニーに馬乗りになったグラハムの横に、何かの着弾跡と煙が立ちのぼる。


「!?」


「クソ共が舐めてんじゃねぇぞ。あぁん!?」


 シモンズの手には短筒と呼ばれるこの世界では禁忌の武器が握られていた。


「まったく、ダニーまでやられちまうとはな。コイツは見せたくなかったが仕方ねぇ。会長さんよ、お前が出て来なけりゃこんな事にはならなかったんだ。死ねっ!!」


 シモンズは短筒をジャクリーヌに向けるとその引き鉄を引く。


「バンッ!」


 銃弾はジャクリーヌではなくグラハムの左肩付近を貫く。

 その瞬間ジャクリーヌはシモンズの懐に飛び込むと短筒を持つ右腕を切り落とした。


「うぎゃーっ!」


 腕を切り落とされたシモンズは絶叫し、その場にのたうち回るのだった。そして振り向きグラハムを抱き抱えるジャクリーヌ


「馬鹿な事をしましたねぇ。」


「うるせぇ、さっきのお返しだ。」


「命に別状はなさそうですね。あとはシモンズだけですよ。グラハム、君がケリをつけたらどうだい?」


 グラハムは、斬られた右腕を押さえ逃げようとするシモンズに後ろから近づくと語りかける。


「お前らの所為で仲間を亡くしたぜ。落とし前はつけさせてもらう。」


 グラハムは血塗れの剣をシモンズの首に当てると両手で振りかぶる。そしてその刃を力一杯首に叩きつけた。


「ドサッ」


 シモンズの首は床に落ち、身体は力無く倒れていった。


「お見事でした、お二人とも。どうでしょう私共の仲間になりませんか?」


 一部始終を黙って見ていた仮面の男がジャクリーヌとグラハムに優しく話しかけてくるのだった。



閲覧ありがとうございます。


年末になり忙しい日々を過ごされてる方が多いと思いますが、お身体を大事にお過ごしください。

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