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グラハム


 王都キルマー、貴族達が暮らす王宮付近から比較的離れた場所、そこにレイモンドの屋敷はある。


「はぁ…、祭も終わってしまったねぇ。」


 誰にともなく呟いたのはレイモンドだった。


「そうですね。ジャクリーヌ様の舞台を拝見できなかったのが残念です。」


「えぇっと、Dガールズだったかな?あれは良かったね。」


「それは珍しい、お気に召す者がおりましたか?」


「うん、今まで見た事も聞いた事もない音楽だったよ。女の子も可愛らしかったしね。」


「私も拝見したいのですが、クバルへは行けませんので…。」


「そうか、顔見知りがいるんだったね。」


 レイモンドに応えた男は、グラハムという。彼はレイモンドの従者なのだ。


「顔見知りと言えば、ガンツォが元気にしてたけどなんでだろうね?」


「……。」


「まぁいいけど。」


「申し訳ありません。」


「アッハッハッハッ、意地悪だったね。」


 グラハムは無言を答えにし、深々と頭をさげた。そして彼には全てお見通しだと感じていたのだった。

 レイモンドとグラハムは主人と従者というだけの関係ではなかった。レイモンドは四十歳、実年齢より若く見え三十代前半ぐらい、肌の白さと柔らかい表情の所為もあって下手をすると二十代後半にも見える。

 片や、グラハムは三十八歳でレイモンドより若いが、その風貌は長年の蹇蹇匪躬と、鋭い眼光と佇まいの為に実年齢より老けてみえた。そんか二人の付き合いは、今から二十年以上前になる。




「おい、黙って有り金全部出しな。」


 手に刃物を持つ三人の少年が、綺麗な身なりの中年男性を通りから一本入った路地で囲んでいた。

 グラハムが十四歳の頃、故郷クバルをはなれ王都キルマーに出て来た。そして一年、頼るアテのない彼は仲間と共に盗賊に身をやつしていた。


「うむ、まだ少年だと言うのに強盗か?金はやる。だが悪い事は言わん、こんな事は辞めなさい。」


「あん?笑わせんなよ。辞めてどおしろってんだ?明日から畑でも耕せってか、それとも騎士団にでもなるか?」


「キャッハッハッ、ウケるなそれっ!」


「どおでもいいぜ。面倒だからとりあえずぶん殴ってやれよ。」


「だな。」


「りょ〜か〜い。」


 三人のリーダー格だったグラハムが仲間に告げる。その時三人の背後から声がした。


「父上どうされました?」


 通りの方から綺麗な顔をしたグラハム達と同じくらいの少年がこちらを見ていたのだった。

 その少年は見た目こそグラハムと同じくらいの風体だったものの佇まいは年齢とは不相応に落ち着いて見え、瞳は全てを見透かしている様に綺麗なグリーンの妖しい光を宿し三人を見つめていた。グラハムはそのグリーンの瞳に吸い込まれる錯覚を覚え強く脳裏に残るのだった。


「ん、問題はない。この少年達と話しをしていただけだ。」


 そして中年男性は懐から財布を出すと数枚の金貨をグラハムに手渡す。


「これはさっきの約束分だ。早くちゃんとした仕事を見つけるんだぞ。」


「あ?」


 中年男性はグラハムの肩をポンッと叩くと三人の横をすり抜け、綺麗な顔の少年と一緒に立ち去っていく。これがレイモンドとの初めての出会いであった。


 それからしばらくして、グラハム達は相変わらず盗賊を生業にキルマーで暮らしていたのだが、やはり他の同業者とのトラブルがたびたび起こる様になっていくのだった。

 そんな中、ある貴族の扱う積荷を強奪する計画をキルマー最大の犯罪組織から打診されたのだった。


「なぁグラハムよ、いつまでもガキだけでやってないでうちの組織に入れよ。今度のヤマでうまい事やりゃあ、ボスに口聞いてやるからよ。」


「ダニーさん、その件は考えさせて下さい。」


「まぁいいよ。俺達はお前らの事かってんだからよ。」


 そして当日、計画に参加する事にしたグラハム達は約束の場所に集まりダニーと呼ばれた男達と行動をともにしていた。


「で、俺達はどおすればいいんですか?」


「お前ら三人は裏手から回ってくれ。俺達は正面から荷車を押さえる。護衛もこっちで叩くからよ。タイミングみて荷車をかっさらって合流地点で待っててくれや。」


 計画はクバルから来る物品の強奪をするというもので、

 ダニー達とグラハム達は計画通りに強奪を成功させ、グラハム達三人は合流地点でダニー達を待つのだった。


「なぁグラハム、ダニーんとこに入れてもらうのか?」


「あぁ、いつまでも俺達ガキ三人でってわけにもいかねぇだろ?ダニーんとこはでけぇ組織だ、そこでのし上がりゃあ、贅沢な生活ができる様になるぜ。」


「そうだよ、せっかく誘ってもらってんだから入れてもらおうよ。」


 そんな会話をしながら、贅沢な暮らしを夢見る三人だった。しかし、そんな幻想は打ち砕かれる。

 程なくして集合場所の街外れに姿を現したのは、ダニー達ではなく、騎士団だったのだ。


「なんだよ、遅かったじゃないかダニーさん。うん?」


「おい、レイモンド商会の荷車があったぞ!」


「なんで騎士団が!?」


「誰だっ!そこにいるのは!?」


「不味いっ!逃げるぞ!!」


 三人は散り散りにその場を逃げるのだった。グラハムは一人街中にあるダニー達のアジトに向かう。

 その頃、ダニー達はレイモンド商会とは別の商会の強奪を成功しアジトに戻っていた。


「ダニー上手い事やったな。囮のガキどものおかげでウィンストン商会は楽勝だったぞ。」


「そうですよねボス。あのガキども仲間にしてやるって言ったら、素直に信じやがって見事に囮になりましたよ。」


 ダニー達は、初めからグラハム達を囮にして他の商会を狙っていたのだった。グラハム達はダニー達に騙されていたのだ。


「なんで中に入れねぇんだよっ!?」


 そして数日後、グラハムはアジトにたどり着いたのだが見張りは彼を中には入れず、入り口では口論になっていた。


「ダニーを出せよっ!仲間が騎士団に捕まったかもしれねぇんだぞっ!!」


 入り口での騒ぎを聞きつけたダニーが、その場に現れるのだった。


「おう、グラハムご苦労だったな。無事で何よりだ。後の二人はどおした?」


「どうしたもクソもねぇよっ!騎士団が来やがって俺だけしかここに来てねぇんだ!!」


「そりゃあ気の毒だな。まぁ俺達の商売は危険が付き物だ、諦めるんだな。お前だけでも逃げられてよかったじゃねぇか。」


「なんだと…?」


「とっとと失せな。お前みたいなガキをうちの組織に入れる訳ねぇんだ。それともここで始末されてぇか?」


「クッ…ソ……!」


「あん?なんだって!」


 そしてグラハムは仲間を探す為王都キルマーを一人彷徨う。


「こないだの襲撃でガキが捕まったみたいだな。」


「あぁ二人だけな。他の盗賊はまだ捕まってないみたいだ。」


 街中にある掲示板には、襲撃事件に関する記事が張り出されており、住人がその話題で話しをしていた。そしてグラハムはそこで自分達が囮に使われたと気付くのだった。

 

 それから彼は、路地裏で残飯を漁り時に盗みをし、一人ドブネズミの様に生きながらえて行く。

 季節は秋、小雨が降る寒い路地裏でグラハムは一人ボロ布に包まり震えていた。


「クソッ、ダニーの奴俺達をハメやがって、いつかぶっ殺してやる。いやアイツら全員やってやる。」


 震える身体をキツく抱きしめながら、しかしその目は諦める事なく生存を欲していた。自分達を騙したダニーとその仲間に復讐を誓って。


「君はなぜこんな所に居るんだい?」


 不意に、うずくまるグラハムに声を掛ける人物がいた。さっきまで人の気配などなかったはずなのに、と驚くグラハムを見つめていたのはあのグリーンの瞳の少年だった。


「経緯は知っているよ。アイツらに復讐するんだろ?だったら僕の仲間になりな。


 少年の口から出た言葉に、ギョッとしたグラハム。しかし次の瞬間彼はレイモンドの言葉を受け入れるのだった。

 何故かは分からなかったが、この少年と一緒に居れば上手くゆくと思えたのだ。

 そしてグラハムはこの時からレイモンドと行動を共にする様になっていく。


「自己紹介がまだだったね。僕はジャクリーヌ・ド・レイモンド、レイモンド家の長男。君達が襲った荷車の持ち主だよ。」


「俺は、グラハム。ジーン・グラハムだ。」

閲覧ありがとうございます。


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