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甘い誘惑(ジェイク編)


《僕の名前はジェイク、ヴァル・キルマ王国北部にある資源遺跡発掘場シンブに隣接する工房都市ハーレーで技師をやっていた。なぜ過去形なのかは、この数日に僕に起きた出来事のお話しをしながら説明させてもらいます。そしてこの話しは僕にとって教訓になる出来事でした。それはあなたにとってもそうかもしれません……。》


 そう、あのひととの出会いは数ヶ月前に遡る。シンブ発掘品の鑑定場所での出会いが最初でした。


「すいません、あなたは鑑定人ではないのですか?」


 僕がいつものように目新しい発掘品を物色していると彼は話しかけてきました。


 今思えば、全てはこの出会いから始まったのでした。

 この後彼の行動に僕は心を奪われてしまったのです。


『おいー、Jどこだ?応答しろ。』


 突然どこかからか声が聞こえたかと思うと、なんと彼は腕に付けた小さな機器に向かって喋りかけていたのです。

 その小さな機器と何やらやりとりの会話をしている彼を見て、僕は思い当たるふしがありました。


「ちょっと!なんですそれ!!」


「あぁ、通信機ですよ。」


 そう、クライス聖教会からは禁忌の技として封印されているはずの【つうしんき】なるモノを使っていたのです!!

 彼は不味いと思ったのか、そそくさとその場を立ち去り、僕の前から消えてしまいました。

 彼が消えた後、僕の頭はその【つうしんき】でいっぱいになり、仕事も手につかなくなってしまいました。


「ジェイク、今日の分のモタードの作成は済んでいるのか?」


「……」


「おい、聞いているのか?」


「……」


「ジェイク!ジェイク!!」


「あっ!はい、なんですか?」


「今日分のモタードはどうなったかと聞いているんだ。」


「あ、出荷分は終わってます。」


「どうした、何かあったのか?」


「いや、なんでもないです。親方」


 僕は数ある魔道具工房のモタード工房が職場で、仕事のかたわら個人的にラボを持ち、モトの改良などを趣味で行なっていました。

 この世界では、魔鉱石と呼ばれるエネルギーの供給源となる鉱物が発掘され、そこからエネルギーの抽出、そして利用する為の道具がもろもろの魔道具なのですが、そのエネルギーがなんなのかは解明されていません。

 いや、もしかするとそれすらクライス聖教会に秘匿されているのかも……。


 少し話しがそれてしまいましたが、彼との出会いの翌日、僕は運良く再会を果たします。

 僕は、全ての工房の責任者をしているカルロスさんの工房によく出入りしていました。モトの改良などをカルロスさんと一緒に行っていたからでした。

 その日もいつもの様にカルロスさんの工房にいたのです。そこに彼らはやって来ました。

 そして僕は昨日の出来事について彼に尋ねました。しかし、彼の仲間が話しに割って入ってくると、そそくさと立ち去ってしまい、再び彼は僕の前からいなくなってしまうのでした。


「ジェイク君最近あまり集荷場に来てないみたいだね。どうかしたのかい?」


「ええ…、ちょっと色々と思う事がありまして。」


「もしかして、この間来たクバルの運送屋の事かな?」


 彼らが立ち去った数日後、落ち込んでいた僕にヨシムラさんが声をかけてくれました。ヨシムラさんはこの世界の歴史に造詣が深く、発掘で謎の探究をしている方で、よく僕に神々の奇跡の技について話しをしてくれたのです。僕は彼の持っていた【つうしんき】の事もヨシムラさんから教えてもらったのでした。


「あの、実は彼らが【つうしんき】を使っていたんです。それが気になってしまって……。」


「そうか、世界は広いからね。我々が知っている事なんてほんの少しだよ。他の国には知らない技術があるのだよ。フィルモアやヴィザンツには過去の技術や神々の技すらあるみたいだからね。」


「そうですよね、僕も技術者としていつかそういったモノに触れてみたいです。」


「そうだね。聖教会の教えには反してしまうが、私もその気持ちはよく分かるよ…。」

「おっと、もうこんな時間か。ヴィザンツから友人が来るんだったよ。すまないが私はもう行くとするよ。ジェイク君諦めなければ思わぬ時にチャンスは訪れるものだよ。その時が来たら、恐れず一歩を踏み出したまえ。私は応援するぞ。」


 ヨシムラさんの言葉を胸に僕はいつもの日常に戻り、数ヶ月経ち、僕は二度と彼と出会う事はなく、そしてまだ見ぬ未知の技術や神々の奇跡の技に触れる可能性が無くなってしまったのかと諦め出していました。

 しかし、彼は三度現れたのです。

 そして、僕にこう告げました。


「あなたさえよかったら、クバルで私の手伝いをして頂けませんか?もちろん通信機やそれ以外のあなたの知らない事も沢山お教えできますしね。」


 工房の責任者のカルロスさんには、既に話しは通っているようで、クバルの復興計画で街の近郊に工房を構え、そこの職人を探していると言いました。


「もちろんっ!喜んでお手伝いします!!」


 僕は喜びました。ヨシムラさんの言っていたチャンスが来たと、一歩を踏み出す時だと確信したのです。そして、まだ見ぬ技術に触れる事が出来る、僕の夢が叶うのだと歓喜に酔いしれたのでした。

 

 僕は彼と共に、クバルに行く事を決めました。ただこの時の僕は、そこで想像を超える驚きの光景を目の当たりにするなんて、これっぽっちも思ってはいなかったのでした。


「おう、おかえりJ。そいつが例のヤツか?」


「初めまして、ジェイクです。これからクバルでお世話になります。」


「おうっ、Jのサポートたのむぜ。」


「ところで、アルさん達はいかがですか?」


「昨日から街道作りは始まってるぜ。アンジュって村の奥にある森の入り口にとりあえず拠点はかまえた。それとスゲェ仲間が出来たんだぜ、ビビるぞ。」


「それは楽しみですね。近いうちにジェイク君を案内しましょう。」


 その日、クバル首長サマンサさんに会い正式に依頼を受け、僕は晴れて新しい工房の一員となったのです。そして引っ越しも無事終わった二日後ジョセフさんから大事な話しがあると呼び出されたのでした。


「えっと、実際に見てもらった方が早いと思うから、フェイロンのとこに行こうか。」


 リーダーを務めているアサヒさんとジョセフさんに連れられ、僕は西の森に行く事になりました。鳥車に乗り、まずはアンジュの村に行き、さらに奥の森の入り口では男達が街道作りをしていました。そこで僕は恐ろしいモノに出会ったのです。


「おーいアルマ君、今からフェイロンまで行くんだけど、いいかな?」


「おはようございますアサヒさん、大丈夫ですよ。船の近くで焔が動いてるみたいなんで気をつけてくださいね。」


「はいよ。」


「君がジェイク君だね、色々とびっくりすると思うけど、まぁ慣れてよ。俺も初めて見た時は驚いたんだけどさ。」


「はい、これからお世話になりますジェイクです。よろしくーーーーッ!!!!」


 たわいない会話をしているその時、アルマと呼ばれた彼の後ろから、黒く大きな獣が現れたのでした。そしてその傍にはサイズの小さな獣も居たのです。僕はあまりの出来事に腰を抜かし、尻もちをつき恐怖で動けなってしまいました。


「おっとネロとママか、ごめんよ。驚かせちゃって、この子達は大丈夫、仲間だ。」


 ジャガヌートとの遭遇で僕は命の危機を感じ恐怖しました。しかしその後の森の奥ではそれを上回る光景を目にしたのです。


「ごめんねジェイク君、先に言っておけばよかったね。」


「いやぁ聞いてはいましたが、驚きましたね。とはいえ子供は可愛いですね。」


 鳥車の中、森を奥に進む僕たち。アサヒさんとジョセフさんの会話を聞きながら、まだ、恐怖を拭えないでいた僕に、さらに追い討ちをかける様に森の奥から得体の知れない轟音が響いてきたのです。


「おっ、やってるね。」


「降りましょう。」


 この時、僕は本当の未知との遭遇がこれほどに恐ろしいという事を知りました。そして激しい後悔に見舞われながらも、僕の中にある好奇心を感じていました。

 鳥車を降りた僕の目に飛び込んできたのは、なんと巨木を薙ぎ倒す、鮮やかな白と朱の鎧を纏った巨人の姿でした。


「あ、あ、あ、アンギャーーーーーッ!!!!?」


 なんと僕はそこで気を失ってしまったのです。


「おーい。ジェイク君」


「水を持ってきましたよ。」


 気がつくと、アサヒさん、ジョセフさん、そしてアルさんに囲まれ、僕は地面に寝かされていました。


「気絶するほど驚かれるとは思いませんでした。本当に申し訳ないことをしました。」


「ごめんよ、ジェイク君。色々話しをするつもりだったんだけど、見た方が早いかと思ったんだよね。本当ごめんね。」


 そして彼らは、自分達の事を僕に話してくれました。


「という事で、お手伝いお願いしたいんだけど、どおかな?」


 彼らの話しは正に神話の中に登場する神や悪魔の技だったのです。大空を翔る鋼鉄の竜、岩をも砕く巨人、それらが目の前にあり直に触れる事が出来る!!

 僕は歓喜に打ち震え、その事以外はなにも考えることが出来なくなりました。


「もちろんです!やります!いや、是非やらせて下さいっ!!」


「やはり私の見立て通りの方ですね。あなたの知らない色々な事をお教えするので、よろしく頼みますよ。それと、サマンサさんからの依頼の件もお願いします。私は忙しいので、そちらは全てジェイク君に任せますから。」


「えっ?」


「お前さあ、分かってると思うけど、この事を知ってるのはごく僅かな人だけだ、口をすべらしたらジャガヌートの腹ん中だからな。」


「脅すなよ、アル」


「冗談っスよ、冗談」


 僕は、自分の知的好奇心と知識欲に負け、とんでもない人達と関わってしまった事に気付き、この後ジョセフさんに騙され膨大な量の仕事を任される事になりました。アルさんからは冗談とは思えない脅しを受ける羽目になり、得る物が大きければ同じくらいの苦労も伴い、ハイリスクハイリターンだという事を理解し、世間知らずと無知さを身を持って思い知ったのです。

 皆さんも甘い誘惑にはくれぐれもご注意する事をおすすめします。

 

 

閲覧ありがとうございます。


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