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通り悪魔の誘惑 

「いやー素晴らしい!!私の見込んだ通り、貴方なら上手くやって頂けると信じておりましたよ!」


 銀と赤紫で彩られた中世の仮面にモノトーンの衣装で身を包んだ長身の男がラノに賛辞の言葉を掛ける、大袈裟なその物言いは白々しく薄っぺらく感じたが、ラノは間に受けた様子で満足気な顔をしていた


 クバルの町から北東に迷いの森と呼ばれる森林がある、中には小さな沼や池などが点在し深部に行くと瘴気を放つ物もあり一般的には立ち入る事はない森なのだ

 野獣や毒虫も多くその最奥はシンブへと繋がってはいるが危険過ぎるのでここはシンブへのルートとしては使われていなかった

 その森の奥にひっそりと立つ小屋には、地下への入り口があり、そこはマゼンダと言われる組織のアジトの一つだった


 アジトの中は広く何部屋かに分かれており、出入り口もいくつか用意されていた

 その内の一部屋にラノと長身の男は居た


「これで貴方も晴れて我々マゼンダの一員です、さぁ人生を多いに楽しもうではありませんか!!」



     ーーーーーーーー



 アサヒ達が北へ向かう二週間程前、ラノは酒場に居た

 この世界に来て数ヶ月、ここでの生活にも慣れ一人で飲み歩く様になっていたのだ


「はぁ、こんなとこでも前と一緒かよ、アイツらいつもオレの事を馬鹿にしやがって」


 コロニーでチェン運送の一員として働いていたが、不器用さと要領の悪さで常に怒られてばかりいたが、この世界でもそれは変わらず、やはり叱責されていたのだ


「ちゃんとやってんのに、何でオレが悪いんだ、間違える事なんか誰でもあるだろ、そんな仕事をさせるヤツが悪いんだろーが!」


 失敗やミスが多いラノは、それを自分の所為とは認めず、他の者の所為にする事が多かった


「突然すみません、貴方は例の運送屋の方ですね、クバルでとても評判になっていますよ」


「あ、はぁ」


 場末の飲み屋に似つかわしくない綺麗な服にスラリと伸びた身体が印象的ないかにも紳士な長身の男が声を掛けてきた


「おっと失礼しました、私はレイモンドと申します、キルマーで商売をしておりまして、一応貴族の端くれです」


「あの、そんな方が何の用でしょうか?」


「まぁ、そんな身構える必要はございませんよ、市場で貴方とゴーレムを見かけましてね」


 レイモンドと名乗った男は、ラノを引き抜きたいと話を持ち掛けたのだった

 そして、ゴーレムも一緒に持ってこられないかと言うのだ


「そんな事できませんよ!」


「失礼ながら、先程のお話が聞こえてしまいまして、私どもなら貴方程の方をその様なぞんざいな扱いは致しませんのにと思いましてね」

「この様なお話は失礼かと思いましたが、貴方ほどの技術のある方なら、是非私どもとご一緒頂けたらと、ついお声を掛けてしまいました、ご気分を害されましたら申し訳ありません」


「いや、とんでもないです、アイツらは酷いヤツらなんですよ」


 ラノはここぞとばかりにアサヒ達の悪口をレイモンドにぶつけるのだった

 そして、不満を肴に酒を飲み交わしていく

 レイモンドは頷き、ときに同じように悪口を並べ、彼の意見に賛同した

 正によき理解者がごとくラノに付き合うのだった


「今日はこのくらいにして、私は退散致します、楽しいお話しをして頂いたお礼にこちらのお代は私が払いますので」


「いや〜、今日会ったばかりのあなたに奢ってはもらえませんよ〜」


「一向に構いませんよ、お金は山程持っておりますから、ふふふ」

「しばらくクバルにおりますので、またご一緒させてくださいね」


「もちろんですよ〜、明日もここに居るんで来てくださいね〜」


 レイモンドが一緒ならば奢ってもらえると考え、いつでもどうぞとばかりに返事をした



 翌日、いつもの様に仕事をしていたラノは積荷を載せ忘れ、配達先で品物がない事に気づいた

 すぐに市場に戻り、品物を探したが見つからず、その日はそのまま別の配達をすませて店に戻って行った


「帰りました、伝票置いときます」


「ラノさん、昼に市場の人がこれ持って来ましたよー」


「あ、それ今日の配達分です」


「なんでここに届いてるんです?」


「ただいまー」


 ラノとニコルが荷物について会話している時にアルとアサヒが仕事を終え帰って来た


「どーしたん?」


「ラノさんの今日配達分の荷物が、店に届けられたんです、忘れ物だって言ってましたよー」


「お前こないだもそーだったじゃねーか!なんで積荷の確認をしねーんだ!?クソジジィ」


「すいません」


「すいませんじゃねーんだよ!!同じ事ばっかしやがって!!どアホが!!」


 アルは、いつも同じようなミスを繰り返すラノにウンザリしており、キツイ言葉を浴びせるのだった


「あのさぁ、いつも言ってるけど荷役作業が終わったら、品物の確認をしろって言ってるじゃん、なんでやらないの?」


「すいません、次からきちんと確認します」


「てめぇ、次からって、いつが次だよ?同じミスばっかしやがって!」


「とにかく、決められた事は毎回やってね、ラノはミスが多過ぎだな、荷主も順調に増えてるのに、そんなんじゃあ仕事なくなっちゃうからね」

「それでアル、悪いんだけど今からこいつを届けてくれよ」


「分かりました、クソラノ覚えとけよ、テメェの尻拭いをしてやるからな!」


 ほとほと呆れているアサヒだが、人数も限られており、現状ラノに仕事をまかせるしかなかった、しかし、サマンサからの依頼もあり人員補充をしなければと思うアサヒだった


 そして、その日の夜ラノは昨日と同じ飲み屋に来ていた


「くっそー、アイツら俺より年下のくせに偉そうにしやがって」


「こんばんは、今日もいらっしゃると仰っておりましたので参りましたよ」


「いや〜、レイモンドさん待ってたんですよー!」


 すでに何杯か飲み終えていたラノは、レイモンドが来るのを待っていたのだ


「聞いてくださいよ、アルのヤツこのオレにクソジジィって言いやがって!」


「ほう、礼儀知らずも甚だしいですねぇ」


 その日も、アルや仕事の不満をレイモンドにぶつけるのだった

 昨晩と同様、仕事の不満を肴に酒を飲み交わす二人、一時間ほど過ぎラノはすっかり出来上がっていた


「もしよろしければ、他で飲み直しませんか?」


 レイモンドが女性のいるおすすめの酒場があると言い、そこにラノを誘うのだった


「私の行きつけの場所です、会員制ですのでゆったりできますよ、ふふ」


 二人はズーの鳥車に乗り、レイモンド行きつけの酒場に向かうのだった

 地下にある店の入り口には怪しげな男が二人立っており、レイモンドを見ると深々と頭を下げた


「今日はお客様を連れている、分かっているな」


「はっ!」


 薄暗い階段を降りると、そこには豪華な扉があり開くと甘い香りと得体の知れない煙が漂い出た

 煙を吸い込んだラノはその香りに一瞬めまいを起こしそうになったが、酔いも手伝い気分がさらに高揚していった

 そして煌びやかな衣装を纏った綺麗な女性が、レイモンドとラノを迎え入れる


「さぁ、サバトへようこそ、嫌な事は忘れひとときの悦楽に身を委ねるのです!!」


 酒と怪しげな煙と、妖艶な女たちとの現世とは思えぬ時間を過ごすラノ

 それを楽しげに見つめるレイモンド

 怪しげな夜は目眩く幻想と快楽をラノに味わわせてゆく



 一夜明け、朝、扉を叩く音で目を覚ましたラノ、自分の部屋にいる事は理解できたが、どうやって帰って来たのか覚えてはいなかった


「ラノさーん、起きてますー?」


 扉の向こうからピーターの声がした


「ごめんなさい、ちょっと具合が悪くて」


 扉を開け、ピーターに今日は休ませてもらいたいと告げるのだった



「アサヒさん、ラノさん調子悪いみたいで、今日は休ませて欲しいみたいっス」

「てゆーか、メッチャお酒くさかったんで、二日酔いっぽいっスけどー」


「はぁ、心配して損した」


「チッ、あのジジィふざけやがって」



 二日酔いの所為か、酷い頭痛に苛まれながら、昨夜の記憶をたどるラノ


 レイモンドに誘われ、違う店に行ったとこまでは覚えている、だがその後の事は異常な程楽しかった、気分がよかった等の感覚はあるのだが、何をしたのかを思い出す事は一向に無く、完全に記憶から抜けていた

 もともと酒の席を意識的に忘れる様にしていたラノは昨晩の異様さやレイモンドの不自然さもただの気のせいと受け流すのだった


 薄暗い部屋のテーブルには、手紙と小袋が置かれていた


『昨日も楽しい時をありがとうございました、ほんの気持ちです、要らぬお世話とは存じておりますが、御礼も兼ねて友人の証にお受け取りください  貴方の友レイモンド』


「これ、全部金貨か!?」


 小袋を開け、中身をテーブルに出し驚くラノ、が次の瞬間その顔には笑みが溢れ出していた、ラノはよい知り合いが出来たと喜んでいる

 ラノはレイモンドが自分を高く評価しており、仕事も今より高待遇で受け入れるであろうと思うのだった、そして、彼は自分を大変気に入り、勝手に友人になったつもりでいると考えた、それを利用しない手はないと稚拙な幻想を思い描くのだった

 しかし、ラノは自分が長身の男に操られ踊らされる事に気付かぬまま、破滅の道を歩かされて行くのだ


 


閲覧ありがとうございます

本格的にシリアスストーリーが続きます

お楽しみいただけると幸いです


よければ、ブクマ、感想等頂けるとモチベーションに繋がりますのでお願いします

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