市場で買い物
修正版です。
アサヒ達の時代、通貨はほぼ電子マネーに統一されていた。しかし足のついては不味い取引やごく田舎では現金や貴金属などによる現物が使用されてはいた。アサヒは職業柄、現金も念の為に用意してはいたのだが、やはり使えなかったのだ。
「なんだそりゃ?よくわからんが…、まぁ多少は余裕があるからとりあえず必要な物は買ってやるぜ。そうだな、まずは服じゃねぇか?お前らすげぇ変わった格好だから目立ってるぜ。」
「そうですよね。たしかに服は気になってたで…、なんで、お言葉に甘えさせてもらっていいですか?お金は必ずお返しするんでお願いします。」
「よし、んじゃまず服屋からだな。」
しばらくここで生活する事を考えたアサヒはこの世界に馴染むためにと、まず服を買うことにするのだった。
「こっちの通りに服屋と雑貨屋が並んでるから、まずは女性から行くか。」
レディーファーストは紳士の嗜みは、どんな世界でも共通らしく見た目とは裏腹にジェントルマンなゴメスなのだった。
「流行りの服ならこの店だな。」
ゴメスは立ち並ぶ店の中から一軒の前で止まるとアサヒ達に告げた。ニコルとネェルは早速中に入ると服を広げて物色を始めるのだった。
「やぁ可愛い〜!!」
『これはどおかなぁ?』
「ちょっと子どもっぽいけど、ネェルちゃんなら元気な感じでいいんじゃねぇか。」
「この襟飾りとか合うだろ?」
ニコルとネェルは嬉しそうに服を身体に当てては次々と見て回る。ゴメスは二人に付き添いあれやこれやと話すのだった。
『どおどお?』
「あぁ、いいんじゃないかな…。」
アサヒ達に向けてアピールするネェルだった。しかし男達は服選びにはあまり興味はない様子であった。そんなアサヒ達を尻目に女子とゴメスはキャッキャと服選びをするのだ。
「私はこっちのワンピースがいいかも〜。」
「綺麗だが普段着にするにゃあ、ちと大人過ぎかもな。こっちのワンピースのほうが可愛らしいニコルちゃんには合う気がするなぁ。」
黒字に細かな花柄のあしらった布地でタイトでボディラインが出るデザインに首元が開いた足首までのワンピースを身体に当てるニコルに、ゴメスは淡いピンクに大きめの襟飾りをあしらったふんわりとしたワンピースを見せる。
「それも可愛い〜、ゴメスさんいいセンスしてますね。膝丈で動きやすいし、いいかも〜。」
『ニコルちゃんにはどっちも似合いそうだね〜。』
どこへ行っても女子は女子、ネェルは少女型なだけだが、こういう時はきっちり女子をやっている。乙女オヤジのゴメスは二人と仲良く服選びを楽しんでいた。
その勢いは一軒で収まるはずもなくアサヒ達はただ付いて回るだけであった。そんな中、すでに暇を持て余していたアルが少し離れた場所にあるワークショップを見つけるのだった。
「アサヒさん、あっちの店見て下さいよ。」
その店の軒先には、ロープやピッケルの様な道具などがあり無骨な道具類が並べられていた。
「ゴメスさん、俺達あっちの店を見てきますね。」
アサヒたちは離れた場所にあるその店へと足を運ぶのだった。
「へぇ色々あるな。おっ!地図発見。」
「見てみましょう。」
その店は発掘業が盛んなヴァル・キルマらしく、発掘用の品物が色々と並んでいたのだ。
アサヒとアル、そしてJは宿にあった地図より広範囲の地図を見つけると広げて見る。そこにはヴァル・キルマの国土とその周辺の地形等が記されていた。
「南の大陸の詳細は記載されてないが形は北アメリカとほぼ同じだな。」
「東北にこの様な湾がありましたかね?」
アサヒ達が地図を眺めながら話しているとピーターが声をかけてくるのだった。
「アサヒさん、こっちに上着あるっスよ。」
「生地も丈夫そうだし、デザインもシンプルだな。色々とポケットも付いてていいな。」
「んじゃ、オレは色違いのこれでいいっスわ。」
それはここまでの道中や、市場で働く男性達が着用している上着と同じ様なデザインで、生成り、紺、黒に染められ発掘作業等の使用にも耐えられる様に丈夫に作られた物であった。
「え〜、なんか地味なのしかないっスね〜。」
「贅沢いうなよ。」
アサヒ達はすぐに上着を決めて修理に使えそうなものがあるかを探したのだが、めぼしい物は見当たらずゴメス達のいる店に戻っていった。
するとちょうど服選びを終えたニコルとネェルが嬉しそうに買い物袋をさげて、店から出てくるのだった。
「おまたせ〜、いっぱい買って貰っちゃった〜。」
『アクセサリーも買ったよぉ。』
「すいません。遠慮がなくて…。」
「気にすんな。お前らの分が無くなっただけだ。」
申し訳なさげに頭を下げるアサヒにゴメスが冷たく言い返す。
「マジかよ〜。」
アルが残念そうな顔をしながら愚痴ると、悪戯っぽく笑いながらゴメスがそれに答える。
「ハハハッ、嘘だぜ。サマンサから金は貰ってるから遠慮すんな。んで男達も決まったのか?」
「はい決まってます。あと他にも欲しいものがあるんでお願いします。」
そして一行は先程の店に戻ると上着を人数分と先程見ていた地図を持って会計に行った。
「あれ?金が足りねえわ。」
しかし先程の女子の買い物で、服にアクセサリー、そして靴や小物まで揃えてしまったゴメスは持ち合わせてがなくなっていたのだった。
「買い過ぎちまったな。仕込み分の金に手を出したらアンナにどやされちまうからなぁ。すまねぇな俺のお古やるから一人我慢してくれよ。」
「全然気にしないで下さい。お古でも変に目立たなければ構いませんよ。」
そして一行は、衣料品や雑貨の並ぶ通りを抜け、ゴメスの目的の食料品の並ぶ通りへと向かい目的の品物を選ぶのだった。
「ここ二、三日買い出しに来れなくてよ。だから色々揃えたかったんだ。とりあえず酒樽を六樽と小麦粉大袋六袋、あとキャベシー(キャベツ的な)二箱と毛長牛のバラ肉30kgを一人で運ぶのはしんどくてな、手伝ってもらいたくて連れきたんだぜ。」
「しばらくお世話になるんでこれぐらいは任せて下さい。」
実は、アサヒ達の世話を頼まれたゴメスは食材の買い出しに来れずにいたのだった。しかしアサヒから街の案内を依頼されたので、ついでにと市場へ来たのだった。
目当ての品を台車に乗せた彼らはズーと荷車の待つ広場へと戻り、大量の食材を荷車に積み込むと一旦宿に戻ることにした。
宿に着いたアサヒ達は大量の食材を手際よく降ろす。運送屋の彼らからすればいつもの業務となんら変わらず、宿一階にある食堂の厨房へと慣れた手つきで次々と荷物を運んで行くのだった。
アサヒ達男組が荷物を運んでいるその間、ニコルとネェルは買った服にさっそく着替えていた。
「いやぁ助かったぜ。さすが運送屋ってだけあって仕事が早えな。ありがとよ。」
「とんでもないです。また何かお手伝いできる事があれば言って下さいね。」
「おう、頼むぜ。運送屋ってのはなかなか便利な仕事なんだな。」
「クバルには運送業ってないんですか?」
「ああ、専門でやってるのはいねえな。街と街の報せなんかは行商やってる商人に頼んで済ますのがほとんどだな。貴族や豪商なんかは自分とこの小間使いがやってるしな。」
アサヒ達が食堂でゴメスと話していると、そこにニコル達が割り込んできた。
「じゃじゃ〜ん、どおです〜?」
『ネェルもじゃじゃ〜ん!』
ニコルとネェルは満面の笑みで買ったばかりの色違いで揃いのワンピースを着てアサヒ達の前に現れたのだった。
「やっぱりいいねぇ、よく似合ってるぜ二人とも。おうピーターよ、今からお古持ってくるから男達も着替えたらどうだ。」
そしてアサヒたちも着替えを終え食堂に集まる。
ピーターが貰ったゴメスのシャツとベストは綺麗に仕立てられており、お古とはいえお洒落好きらしく状態は非常によかったのだ。オーバーサイズのシャツとベストは若いピーターによく似合っていた。
しかし、アサヒが黒、アルは紺、そしてJは生成りと三人は地味なおっさん感を醸し出していた。
「なんかオレらより洒落てますね。ピーターの……。」
若干のひがみが出たところで皆の着替えが終わり、アサヒたちは紛い者なりにこの世界に馴染み始めたのだった。




