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早起きは三文(※)の得 ※約五十円、諸説あり

「あれ? おはよー。早いね。早起き、苦手じゃなかったの?」

 目の前には、目の下に濃い隈を作ったリオ。

「おはよう。さすがに寝過ぎたよ、お前も早いな」


「私は、寝てないだけ。なんだけどね……」

「幹部をハウス栽培しようとしてるんだもんな」

「……? はうす、って何?」




 早朝。スマホの時計はまだ五:三〇。朝のすがすがしい空気の中、建物の外に出て小高い丘のようになった見晴らしの良い場所に立つ。

 爽やかな風が顔をなぶる。――とか、思ってみたり。

「……偶には早起きもするもんだな」


 まぁ、中央から迎えが来るまで何もしなくて良い。と言われたわけで。

 それならゆっくり寝よう。……と思ったのだが。

 ……そんなに寝れるかっ!



 立派な部屋を割り振って貰ったものの。

 当たり前だが、テレビもマンガも小説もゲームも、もちろんインターネットも無い。

 亜里須からのSNSがやたらに着信するだけの、広くて静かな部屋。

 環境は悪くないが、なにせやることが無い。


 なぜか巫女さんではなくアテネーが、三度の食事を運んできてくれる。

 その上、リオは修行で姿を見かけなくなったが、レイジが身の回りのことは全てやってくれている。

 だからトイレと風呂以外。一切外に出る必要が、そもそも無いのだけれど。


 そんな生活は当然、二日で飽きた。

 二日間、なにもする気が起きないほど疲れていた、と言えるかも知れないが。

 いずれにしろ寝るのにも、亜里須に返信するのにも飽きたし。


 ……何より。もう眠れないよ、いくら何でも。




「あ。貫徹のとこ悪ぃんだけどさ、充電してくれるか? これ」

 とは言え、亜里須とのSNSのやりとりしかしないから電池の持ちが良いんだ。

 約四日充電してないのに、まだ四〇%ものこってる。


「あぁ、スマホね……。むぅ。――――――はい、お終い」

「お、サンキュ。やたら早くなったなぁ。偉くなると違うんだな」

「うん、関係ないよね?」



 と言う訳で東支神殿、三日目の朝である。

 趣向を変えて早朝の散歩に出てきたところ、目の下に隈を作った、明らかに寝不足な顔のリオに出合った。と言うわけだ。


「うっは……。も、もう完全に明るぃ……。ね、ユーリ。おひさまの色って黄色いんだっけ?」

「ホントに大丈夫か? お前」


 今までだって、かなりやつれた感じだったのではあるが。

 多分、見たなかでは一番寝不足な顔してるな……



「あー! リオちゃんだ! 見つけたぁ!!」

「リオ姉様だ! 居ましたよ、メルカ様!!」


「げ……。見つかった」

「だいぶ遠くのお手洗いまで来たのですね、ここがお気に入りなのですか? 妙齢の女性が丘の上で用を足すなど、そのような悪癖があるなら感心しませんよ?」


「……メル姉が悪魔に見えるよ!」

 メルカさんが近づく前にはリオは駆け出すが。


「二人共、逃がしてはなりません! リオを今度こそ間違い無く、この場にて捕らえなさい!」

 ばっ。とローブを翻して右手を突き出すメルカさん。

 視界の片隅、足元をふらつかせて逃げるリオは、ごく普通に巫女さん二人に掴まった。


「あら? おはようございます、ユーリ君。――早いのですね?」

「まぁ、今日は偶々……」



 リオは、巫女さん達に両脇を固められ、メルカさんの前に引きずられてくる。

「立派な巫女になる前にわたしが 神様になっちゃう(死んじゃう) ってばぁ……!」


「なるほど、信心が足りないのかも知れませんね。朝食前の休憩はキャンセル。これよりリオは水垢離みずごりを取り、朝のお祈りをし、朝食はその後とします」


「待って待って! 徹夜明けでこの時間から水浴びしたら、もうお祈りなんてできないよっ! ちょっとメル姉! 冗談でしょおおおお!?」

「わたくしは、そう言う意味では面白いことを言うのも聞くのも大好きですが、こと神事については冗談など言いません」



「だいたい、自分は寝てたくせにぃ!」

「教える立場の者が疲れていてどうしますか。夜にあなたについていたものだって今は寝ていることでしょう、当たり前です。……さぁ、贖罪しょくざいの泉に」


「ハイ! ではリオ姉様? まいりましょう!」

「ほらぁ、リオちゃん。自分で立って、歩くっ! ――大巫女様なんだからぁ」

 ふらり、と立ち上がったリオは二人の隙を突いて走り出そうとするが。


 逃げようとしたリオを、メルカさんがガッチリ捕らえる。

 って言うか、アレは関節技が完全に決まってる感じに見えるけど……。


「逃がしませんよ? 既に二〇分も予定が遅延しているのです」

「う……! もう、要らないっ! 中央大神殿付き大巫女も、祭事執行官も要らないぃいい! 全部返すぅうう!」


「その言葉。言えるものなら教皇様に面と向かってもう一度、言ってご覧なさい?」

 メルカさんはそう言って優しくにっこり微笑んだ。

 うん、普通に怖いな。美人の笑顔って怖いんだ……。

「うぇえ……。ユーリぃ、助けてよぉ……」


 済まない、リオ。何もできない俺を許してくれ。

 ――メルカさん、なんか怖いし。



 再度巫女さん二人が、リオの両脇に手を入れ今度は完全に固定する。

「これ以降は、簡単に逃げられるとは思わないことです。……連れて行きなさいっ」

「ハイっ! ――ではユーリ様、わたしたちはこれで」

「今度、お時間のあるときに、ユーリ様の世界のお話。聞かせて下さいね?」


「ではユーリ君、ごきげんよう」

「あ、はい。……リオも、達者でな?」

「お願い! ユーリ、助けてぇ! ――寝ぇかぁせぇてぇええええ!」

 砂煙を上げながらリオは引きずられていった。


 なんか。大変そうだが……。

 まぁがんばれ。

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