武器の携帯は禁止です
「さて。全員の去就が決まったところで、わたくしから。お客様を護衛して下さる従者の皆さんに、贈り物をしたいと思います。――お話は終わりましたから、入ってきて良いですよ!?」
メルカさんは、パン、パン! と手を二つ叩いて声を張ると、扉の向こう側に声をかける。
「先程。神殿内にお入りになる際にお話し申し上げました。当然ながら、王都内では軍属と騎士団、騎士巫女、魔道巫女以外の武装は基本禁止です」
扉が開いてレイジともう一人。俺の風呂に付き合ってくれた二人がギィ、ギィと異音を立てるワゴンを押しながら部屋に入ってくる。
「とは言え、丸腰では色々と問題もありましょう。代替品として果たして、今まで持っていたものに見合うかどうかわかりませんが、わたくしの方で“身の回り品”。と言う体で用意をさせて頂きました」
ワゴンの上には、畳まれた扇子、紐のついた木製のオカリナ、そして杖。
「できればユーリ君からみんなに手渡して貰いたかったのですけれど。少なくともその扇子は無理ですね」
そう言われるとどうしても持たなくちゃいけない気になる。いや、なったんだけど。
「……何コレ、張り付いてんの?」
「それは鉄扇なのですが、重さが凝縮しすぎて一人では持てません。その見た目で六五キロあります」
――そんなもん、持てるかっ!
「重さは当然、見た目から言ってもこれはニケ用ですね?」
そう言ってチャイナ服のニケに手に取るように促すと、彼女は何事も無く持ち上げる。
「思ったより軽いね」
……感想、それだけ?
ニケは簡単に持ち上げ、少し歪んでいたワゴンが元の形に戻る。異音の原因はこれか……。
「服の懐にしまうところがついているはずです。そこだけは魔導の糸で頑丈に作ってありますから、普段はそこに入れておくと良いでしょう」
シャラン。鉄の擦れる音がして扇子が広がる。実に綺麗に色が塗ってあって、こうしてニケが持っている限りは鉄扇だ、という事さえわからない。
「うわ! 何コレ、カッコイイっ!」
「見た目は普通の扇ですが、全てが凝縮に凝縮を重ねた耐魔導鋼で出来ています。並みのクラスの魔導なら身につけているだけではじけます。魔導の波動、これを直接捕らえれば魔導団クラスであっても跳ね返し、切り裂くことが可能なはず。閉じた状態なら魔導鋼とは言え、これだけ凝縮してあれば当然に、熟練の騎士の剣。これを受けることさえ出来ます」
ほぼSSSクラス確定のアイテム、それをニケが持つことの意味。
あのバトルアックスなんかメじゃない。
破壊神を誕生させた可能性さえある。
「なにを考えているのか。だいたいわかるつもりですよ、ユーリ君。――それだけ法国はキミに。全幅の信頼を寄せているのだと、そう捉まえて貰えたら嬉しいですが……」
つまり、ニケの主人である俺がきちんと制御するのが前提、と言うことか。
「ほお、良い物を貰ったなニケちゃん。――純粋な耐魔導鋼をその質量まで凝縮する技術があるのか。流石は王都、技術は凄いものがある」
「ユーリ君、その笛をモリガンさんに」
「私? ……なんだ?」
きょとんとした顔をしたまま、モリガンが椅子を立ち、こちらに近づいてくる。
オカリナのような形をした、木製と思われる笛を手に取る。
「ほれ、かけてやるから頭出せ。――これって。前のとだいぶ見た目が違いますけど、蟲笛ですよね?」
「そうです」
「これは……。ここまでこしらえの良い蟲笛は見たことが無い! 首にかけているだけで蟲の制御が楽になるぞ、これ! かつて法国の歴史上でも、これほどのものを作ったことはないのでは無いか!?」
テイマーは希少で異端で人格破綻者。
わけても応用の利かない蟲使いは、数が際だって少ない。
まして、モリガンのように☆の蟲使いともなれば、大陸中探してもほぼ居ないだろう。
そしてモリガンを見て分かる通り。
自分でアイテムを作ったりするタイプの人間は、そもそも蟲使いにはならない。
更にゲーム上であっても蟲使いは、サブカテゴリとして転職用の踏み台として作って、とりあえず所持してるだけ。と言うものがほとんど。
リアル(?)では、モリガンのように蟲使いを前面に押し出した人は、ほぼ居ない。
プレイヤーから見ると、ある程度の人気カテゴリでもあるテイマー系なのだが、蟲使いはあまりに使いづらいので、極端に数が少ないのだ。
攻略掲示板でも五行しか説明が無いくらいだ。
蟲笛は、だからアイテムのクラスではBを超えるようなものはほぼ無い。
サブカテゴリであろうが使うのに装備が必要。装備アイテム欄が無駄に一つ埋まってしまう。
単純に使う人が居ないからだ。
旧バージョンの時にAの蟲笛が一個だけ、出た。と言う書き込みを覚えてる。
公式サイトのアイテムリストにも、Sの笛が一個だけ出ているのは知ってるが。
モリガンの反応からみれば、Aを超えてS以上は確定だな。これ。
「何しろ。作ったことのあるものがそもそも居なかったので、本当に最高のものを作れたのかどうか自信が無い、と言っていましたが」
「見ただけでわかる。これは絶対に最高だ! マイスター。今、吹いてみて良いか?」
「莫迦なのかお前は! ダメに決まってるだろっ!! 基本的に吹くな! 見せて威嚇するだけだ、いいな!?」
そこまで高位のアイテムをコイツが使った場合、ちょっとしたバイオハザードが発生する可能性が否定出来ない。
東支神殿が蟲で埋まる、なんて言うのが冗談ごとで済まなくなる。
王都の大結界や神殿の封印なんか無視して、際限なく効果範囲内の蟲を呼び寄せる。なんて事が起こりうる、と言うことだ。
そうなれば女の子の多い神殿中、大パニックを引き起こしてしまう。
いや多分、男の俺でも間違い無く。キャーっ! って、叫んで逃げる。
見た目はともかく、頭は良いのに考え無し。
だから、そう言う心配をしなくちゃいけないほどの希代の蟲使い。
モリガン・メリエと言うヤツは、そう言う面倒臭い女の子なのだ。
蟲を見て涎が出る女の子はアテネーくらいだし、そして。それを見て、こんな可愛いヤツらを見てなにを思った! と怒るのもモリガンだけ。
当人に、わけのわからない気持ち悪いものを呼んでいる。と言う自覚がゼロ。
なので、そう言う台詞が出る。と言うのは、もうわかってる。
そしてその破天荒な少女を俺に制御しろ、と言っているわけだ。
「とにかく、その笛があれば。蟲を呼ばなくても蟲使いだってわかるだろ?」
「蟲使いだとわかるだけで珍しい。面白がって人が寄ってくるのじゃないか?」
「むしろ怖がると思うが」
さっきも思ったが、客観的に見てモリガンはどう言うヤツか。
蟲使い。しかも目つきも言葉使いも態度も悪い上に、意味も無く上から目線で、普段から喧嘩腰、かつ好戦的なのを隠しもしない。
この時点で普通の人は、既に近寄り難いだろう。用事が無ければ近づきたくない。
テイマーは、基本的に変わり者でケンカっ早く、かつむやみに頭が良いくせに全く話が通じない程の人格破綻者。
そんなあからさまにお近づきになりたくない、危険な連中の集中するカテゴリ。
それは、この世界の人間だったら一般常識。
基本的には、近所に居るだけで怖い、“ヤバい人達”だ。
更に。当たり前だが蟲使いである以上は、わけのわからない蟲を呼ぶのである。
これはこれで普通に怖い。
かてて加えて。モリガンの場合さらに。
そこは彼女のせいでは無いにしろ、有り体に言って見た目はどうか。
おっぱいは無いし目つきは悪い、喋れば変態。けれど可愛いのだ。
これはもう、コイツに対してそう言わざるを得ないのが悔しい!
と思うくらいに事実だ。
雰囲気があって美少女の蟲使い。
だからこそ、かえって怖さ倍増なのである。
うん、俺だってそれがモリガンでない。と言うなら近所には寄りたくない。
「蟲使いへの誤解や偏見を解くのも私の使命か……。私はこの蟲笛に誓い、今ここに宣言する! マイスターの下で名をあげ、いつの日にか蟲使いを、少女達の憧れの職業にしてみせるっ!」
「前向きだな。……ま、せいぜいがんばってくれ」
……怖い職業から、変態の職業になるだけなんじゃねぇの?
さて、ワゴンにはまだ杖が乗っているけど。





