お話の順番
「で、話が途中だったな。アテネー。――ニケのことはこの際おいて、お前自身の考えを聞きたい。……この先、お前はどうしたい?」
「あぁ。…………うん。自分の成り立ちに自信が無い。とはさっき言ったな?」
メルカさんは少し離れたところで椅子に座り、静かに話を聞きながら。動かない。
「問題ない、と言う結論だったんでは?」
「だが、暗殺者である前に。夢魔とエルフのインコンプリーツなのだ、私は。そもそもが人の要素さえ無い」
言われるまで気が付かなかったが、確かに言われてみるとそうだな。
「主殿のお側、以前の話だ。人の中に居て良いものかどうか。今となってはそれさえ自信が無い」
「お前の自覚の問題だけだろ? 既にその部分は普通にクリア出来てるだろうよ」
インコンプリーツとしても異色の存在、それがアテネー。
でも見た目とすれば、背の高い、少々高飛車な女の子でしかないわけだが。
「でもな。どうしても差別の対象なのがいやだ。というなら、メルカさんの居るここに残るしか無いと思うんだ」
異世界から来た救世主一行。
インコンプリーツであるかどうかは別にしても、もうそのネーミングの時点で悪目立ちは確定だからな。
それに。生まれ故郷が壊滅してしまった以上、“インコンプリーツに理解のある副司祭様”の居る支神殿。
それ以上に居心地の良い場所は、ランド中探そうが他にはない。
「主殿はどのように……」
「お前の考えを聞いてるんだ。……俺の答えなんか、聞くまでも無いだろ?」
「……数年前のことだ」
いきなりなんの話を始めた?
アテネーのことだから、話すことにも順番があるんだろうけれど。
「白エルフのインコンプリーツにあったことがある」
「……?」
「そいつは鼻持ちならないイヤな奴だった。差別されて当然だと私も思った」
エルファスはエルフの中でも特にプライドが高い。
言動が高飛車なのは、設定とも矛盾しない話だ。
「……しかし翻って今、私は自分を客観視できない。我が身が可愛く思える」
そう言うと、俯いたアテネーは左腕を抱きしめるようにする。
「ここまでの道中を思い出して、このままみんなと一緒に居たいと。ユーリを主殿と呼びたいと。恥も外聞もなく、自分のこれまでを顧みず。そう思ってしまうのだ」
そして顔を上げてこちらを見る。
瞳を潤ませ、頬を赤く染めながらそれを言うのが、俺のためにメイド服を身に纏ったクールビューティ、アテネーなのである。
いったい何の冗談なんだよ……。
女性関係の運を無駄使いしてる気がする。
これから先の運命、なんてものに思いを馳せても無駄だろうな。
だって、今までそもそもモテた試しがないし、多分この先もそうだ。
アテネーが微妙に追い詰められてしまった現状、これがおかしいんだろう。
「……それこそ、お前の好きにすれば良いじゃんか」
「その女と同じような。不快な、唾棄すべきものでは無いのだと、自分で自信を持って言えない。私がそばに居ることで、私が主と呼ぶことで、ユーリの客観的評価がおちてしまうのではないかと……」
「言いたいヤツには言わしておけ、俺は異世界の人間だ。この世界での評価なんぞ知らんし、要らん。……それとも俺に、スクワルタトゥレみたいな汚い人間になれ。って言うつもりか!?」
自分で言っててカチンときた。あんな奴と一緒にされるなんてまっぴらだ!
「あの、……ユーリ」
「主殿。俺をそう呼ぶ設定は自分で作ったんだろ、忘れたのか? ――決められないってんなら俺が決めてやる! 一緒に来いっ!」
「だが、その……」
「ニケに読み書きを教えるのも、モリガンの変態行為を諫めるのも、リオを手伝って飯の準備をするのも。全部これまで通りにお前の仕事だ! 俺と亜里須、二人が両方要らんと言うまで。それまで勝手に抜けるのは、無しだ!」
「……私は、その」
「良いな?」
「な、あ……。その。――はい、我が主殿のよろしいように」
呟くようにそう言うと、やや下を向いて目をつぶったアテネーはスカートをつまんで膝を折り、こちらに礼をして見せた。
事ある毎に自分で言ってたな。――知識だけはある。メイド仕事も礼節も。
勢いで引き留めたのは良いけれど。救世主のお仕事は、果たして女の子三人を養えるほど儲かるものなんだろうか……。
順番としては絶対、法王に会ってから決めるべきだったのはわかってるんだけど。
「……あの、ゆうりくん。私。……は?」
「順番待ちしてんじゃねぇよ! 従者じゃないだろ、お前は!!」





