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情報戦での敗北

「そこは信じてもらう他無いのだけれど、答えはいいえ。です。……ただ、ニケさんやアテネーさんが敵の手に墜ちることを考えれば、東南守備軍の全戦力を投入してもお釣りが来るでしょう。彼女たちにはそれだけの価値が有る」



 東南守備軍全軍、となれば総勢三、〇〇〇人以上は居るはず。

 単純に正規の兵隊だけで五〇〇人を超えると言うことだ。


 ニケとアテネーの美人異種族姉妹。

 能力が高いとは思って居たが、まさか。国から兵器扱いされるほどだったとは。



「モリガンさんも同じ事、わかってさえいれば。中央平原の国境線警備を全て捨ててでも。東方国境警備団全軍と、そして情報隊もなりふり構わず動かせる全部隊を。片道だけの緊急転移を使ってでも、間違い無く投入したはずです」



 そしてモリガンも。

 国境線の警備や情報収集を薄くし、保有魔力を大幅に減じてでも。

 そうまでしてでも、敵の手に落ちるのは阻止したいほどの逸材。



「両方とも、全く兆候さえ掴めなかったのですけれど……」

「スクワルタトゥレに関して言えば。アイツは単騎で問題なく行動出来るでしょうし、とにかく世界のカタチについては詳しい。段取りの段階では、情報は漏れないでしょうね」


「なるほど。彼女も諜報関係者、と言う訳ね?」

「世界を知るもの。と言う表現の方が近いかな、調べてるわけではないだろうし」

 めちゃくちゃ強い上にイベント先読み、そしてとんでもないスキル。

 設定や攻撃時の攻撃判定まで計算し、全て合理的な戦闘スタイル。

 普通にやってどうにかなるわけが無い。


 斬だって結果的に退却したが、正面からやり合って勝てるとは思えない。

 ますます何も出来ない自分の存在意義を考えちゃうなぁ。



「でも、メルカさん。帝国むこうも同じ事を考えたってこと? 皇帝三神将って皇帝の側近なんでしょ?」


「そうですね、三神将とすれば、立場は我が国の三大神官と同じ。黒騎士と並んで皇帝の最側近。個人的にも人間離れしていると言いたくなるほど強力な攻撃力がある上、作戦立案の天才、部隊指揮の能力も高い」


 指揮効果のスキルは、同じパーティの戦闘力を増大させる。

 皇帝三神将。などと仰々しいカテゴリを名乗るなら、全員もっているだろう。


「……大精霊の封印の件では上級近衛騎士と宮廷魔道師まで同行していた以上、ユーリ君の読みはおおむね合っていると言って良いでしょう」



 当然の事ながら。指揮効果のスキルが、数値化も可視化もされない以上。

 メルカさん達この世界の住人には指揮官の戦略や戦術と、指揮能力やカリスマ、と言う形での認識になるだろうな。

 なら、確かに大きく間違ってはいない。



 メルカさんは、窓際からこちらに戻ってくると、ふわり。椅子にかけていた羽織を纏う。


 うわ、上着をはおっただけなのに、なんかめっちゃ絵になる。綺麗だ……。

 あ、なんかわかっちゃった。俺に彼女が出来なかったわけが!

 お姉さん属性!! もしくはおっぱい星人!?


 亜里須の言う乳袋の攻撃力、羽織を着た事でかえってはっきり実感する。


 ……いずれこれまで。

 俺のご近所には一切居なかったタイプではあるな、メルカさん。



「……おぉ」

「ん? なんでしょうユーリ君。……お、とは?」



「お、……お、王宮。帝国は王宮の守りを薄くして、魔方陣で魔力を無駄遣いして、更に斬やスクワルタトゥレまで投入してでも。あの三人が欲しかった、……そういう事ですか」

 おっぱいに見とれて、つい声が出た。とは口が裂けても言えない。

 がんばって、おの付く単語をひねり出す。


「単純にはそう言う理解で良いでしょう」

 良かった、バレなかった。

 いやしかし。そうすると。


「大精霊も?」

「もしも大精霊様自体を何らかの手法で奪取されたなら、法国にとってかなり手痛い事態になったのは確定ですね」


 そう、思い出すと変な器具を持っていた。

 つまり大精霊が三人居る事と、その姿形。

 それはアイツ等は知っていた、と言うこと。本気で大精霊を自軍の“兵器”にしようとしていたのだ。


「戦士の数を揃えられない農繁期(このじき)、その事実が広まるだけで、中央と南の国境線が30リーグ以上後退したかも知れ無い、と。まぁこれは、軍師の机上の計算なのですが」



 魔導帝国は魔導の道具や鉄鋼製品などを中心に、商業で国が成り立っている。

 農繁期はあまり関係がないが、この時期は魔導力の回復、貯蔵に当てるのが常。

 帝国側だって、魔力を貯める時間は必要だし、貿易用の商品を作るのに戦は障害になる。


 だからこそ,あえてスクワルタトゥレはこの時期を狙って行動を起こした。

 帝国もこの時期は、セオリーとして大規模な行動は起こさない。


 設定を知り尽くした彼女なら、その設定を逆手にとってもおかしくはない。

 彼女なら。何処までならば国の運営の障害にならないか。

 そこまで計算した上で行動するだろう。



「そんなにですか……。」

 メルカさんは再度椅子に座ると両手を口の前で組む。

 たったそれだけのことで、表情がまるで読めなくなるんもんなんだな。



「士気というものは一度崩壊すると連鎖し、伝播するものです」 


 結局。

 大精霊の捕獲は、一〇人単位で精鋭魔道師と近衛騎士を消し飛ばされてあっさりと失敗してたが。

 アレだって何らかの勝算はあったはず。


 もしも捕獲を考えずに俺と同じに加護だけを受けようとした場合。

 相手は気まぐれな精霊。

 スクワルタトゥレ個人とその側近だけなら、成功してしまった可能性だってある。



「そしてここまでお話しした全て。それは、あなたが一人でその手に収めてしまったから。もう、わたくしの仕事ではなくなってしまったのですけれど。――だからあくまで個人的に。興味本意で聞いてみたかったのです。どうやって、あんなすごい子ばかりを配下に置けるのか。……そこは気になっても、しかたが無いでしょう?」


 こちらを見るメルカさんから優しげな目の光が消え、突然凄みのようなものを感じる。……専門家プロの目、か。

「そして、その異常なまでの統率力と戦術眼、そして戦闘力までをもを会わせ持つキミが本当に。我が神聖聖道王国の味方であるのかどうか、を。……ね?」



「俺は何も出来ないし、リオの敵にもならない。……けどさ、自分が何の為に呼ばれて、なにをするのが良いのか。それがわからない限り、無責任に法国にくみするなんて。……言えないよ」


「ならばもし仮に……。そのリオが敵に廻ったならば。その時は、どうしますか?」


「リオが敵になったら……。うーん、そうなったら。誰も着いてこないだろうしなぁ」

 前に同じことで、アテネーが悩んでたが。

 多分、亜里須含めて俺には誰も着いてこないだろうな。とは思う。



「うふふ……。その時はわたくしが、キミの侍従となってお助けしましょうか?」

「はい?」



「失礼を致します、総監代理にご報告です。リオンデュールとお客様方の湯浴み、お召し替え。まもなくでございます」

 メルカさんは立ち上がるとローブを纏いながら、ドアの向こうへ声をかける。


「ご苦労様でした。では既にユーリ様がお待ちだとお伝えした上で、方々にはお召し物の整い次第、控えの間からこちらの部屋に来て頂くようお話を。リオにも同じく伝えおきなさい。よいですか?」


「かしこまりました。リオンデュール含め、こちらへご案内致します」



「キミは、いろんな意味で“ホンモノ”ね、ユーリ君。――リオと同じく。わたくしとも是非に仲良くして欲しいものだと思いますよ。……ようこそ、フェリシニア法国へ!」

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