情報収集のプロ
「……で、メルカさんが聞きたい事って?」
考えても仕方が無い。今、どうこうなんて。しようが無いし、な。
「気を悪くしないで欲しいのですが、確認だけしておきたいのです。……どうやって、あんなすごい子ばかりを集められたのかを。――気にしているのはわたくしばかりではないはずです」
「すごい? 亜里須とか?」
ウチですごいと言えば、すごい裏表のある性格の亜里須くらいしか。
あ。……でもそれ知ってるの、俺だけだわ。
「あなたと、アリスさん。でいいのですよね? ……二人に関しては、もうその辺を考えることすら無駄。と言えるでしょう」
「非道くないすか、それ」
「おや? あぁ、はいはい。……ううん、逆ですよ? ただ歩いてくるだけで伝説を作る救世主様。もはやわたくし達に手を出せる様な相手ではない」
――うん、意味がね。全然わかんないよ。
「ここに来てからもわたくしと顔を合わるなり、いきなり色々と見抜いて臣下のお二人を押さえてくれたでしょう?」
「……えーと、なにを?」
「改めてお詫びをさせて貰います。わたくしは事実上、この支神殿を預かる総監代理でありますが、法国の諜報部門にも籍を置くものです。――暗殺者や情報屋から見れば天敵のような立場ですからね。それに気づいた彼女等が気を悪くしたのも無理からぬ。……と、言ったところですが」
モリガンは顔を見るなり、あの女は信用ならない。と言いきった。
それを受けたアテネーもそこは理解する。と返した上でモリガンを押さえた。
見抜いたのも押さえたのも、俺じゃない。
「出迎えに出たのが情報部長では、さぞや気分が悪かったでしょうね。そしてユーリ君は即座にたしなめてくれた。……感謝していますよ」
「いや、俺はホントになにも……」
なるほどな。プロ同士なら見ただけでもある程度、わかるもんなのか……。
もっとも二人共胸の大きさ的にはアレだから。
会話の流れ的にはモリガンの
「乳がデカいだけの女」
これにアテネーが同意したのだ。とも見えるが、何しろあのアテネーだ。
聞かれていることを前提にして、そこまで偽装。と言う可能性は十分ある。
それを受けるのが諜報を専門にしている、頭の回るモリガンであれば。
事前のネタ合わせなんか無しでも、この小芝居は成立する。
そしてメルカさんも。
それを聞いた上で話の中身も見抜いてなお、あえて黙っていた、と。
……怖いなぁ。
「だから、わたくしがリオから聞いた話。それは全て裏を取りに動いています」
「わかったけど、わかんないな」
「例えば。この世界に来るなりそうそう、リオにワイバーンを狩らせましたね?」
「狩らせた? ――あれは襲われたところをリオに助けて貰って……」
「あの時点のリオが百人居てもワイバーンには勝てません。一人は丸呑みされ、九九人分はそのままワイバーンの巣で保存食になるだけです。でも現実は違った。……ワイバーンはリオが狩り、上等な燻製になった」
確かに常識的には勝てない、とは俺も思った。
でもリオは勝ったし、ワイバーンのカルビも喰った。
「その後もそうです。帝国の三神将、疾風のザン・セツナ。これを名乗るだけで撃退、同じく三神将で初代黒騎士にして、事実上の近衛騎士頭領。スクワルタトゥレとは刃の無い儀式用ナイフ一本で渡り合い、これも一蹴」
――なるほど、噂話ってこうやって尾ひれが付いてデカくなるのね。
その二つに関しても俺は何もしてない。
「そして伝説だけはあったのだけれど、封印の術式どころか場所さえも。誰も見つけることのできなかった大精霊様の封印。それを約一,〇〇〇年ぶりに解放、逢えるだけでも大変なことなのに、パーティ全員への加護まで受けた」
「……あの」
「ふふ……。ユーリ君は何もしていない? アリスさんも含めて、リオもそうですが全員。結果的にキミの為に動いているでしょう? 事実上のリーダーはキミ」
「いや、それこそ詭弁って……」
「リオについてのみは本人からも確認が取れています。ワイバーンの時も獣人村の時も。キミと話しているウチにやれそうな気がしてきたのだ、と」
ワイバーンの時に、そんなことを言ってた気がするけど。
「彼女が着火する槍と呼ぶ技は、槍の握り方を覚えたばかりで、魔導もたき付けの『わら』に火をつけるので精一杯のはずの彼女。リオには絶対不可能なのです」
「でもやったのはリオだよ、助けて貰った俺が言うんだから間違い無い」
「その後の獣人村で使ったファイヤもそう。鉄を封印ごと完全に解かして吹き飛ばす程の威力でありながら、ニケさんは魔導的後遺症どころか火傷一つ負っていない」
もの凄い勢いで封印の鎖が壁に吹っ飛んだ。それは俺も見ている。
「……あのパワーの魔導を、超精密発動する。もはや魔道師、魔導団でも中堅、いえ完全に主力です。初級魔道士の仕業ではありません。気合いや心構えでどうにかなるようなレベルでは無いのです」
アレってやっぱり、おかしいぐらいに高度な技だったのか……。
「さらにその後。ニケさんを魔法で治療していますが、彼女のように魔導耐性の無いものを魔法で治療するのは、本来は高い技量が必要。そうで無ければかえって怪我をさせたり、非道くしてしまうものなのですよ」
こっちもパワーが小さければそれで良い、と言う問題でもなかったらしい。
本人さえもそう思っていたようだけど、現実は違う。と。
「どれも俺は関係ないよ。元から素質はあったって話だし、だったら自然に使える様になったんじゃ無いんすか? 精霊から加護も受けたし」
法王の封印が緩んだ話は、しない方が良いだろうな。
「加護はその後で授かったのでしょう? わざと話の時間軸をずらしていますか? ……もちろんそのせいでリオは、巫女としても魔道士としても。今やすごい事になっています。わたくしが一目見てわかるくらいに」
さっきレイジも同じ事言ってたが。
リオと身体をシェアする神様、その話はさすがにできないもんな。
「ユーリ君。自分は特別なのだと、そう言う自覚は持った方が良いですよ。要らない“怪我”をする前に、ね」
メルカさんは羽織も脱いで椅子の背もたれのケープの上に乗せ、テーブルを離れると窓の枠に手をやり、外を向く。
上に羽織ってた羽織まで脱いだから背中が見えるんだが、やたらに背中が開いてるうえにゆったりしてんだな、あの服。
だからさ。何で脱げたり“中身”が零れたりしないんだよ!
亜里須じゃないが。どう言う構造になってるんだか、話よりそっちが気になる!
その服に、殺されかねないので当然気にしておかないといけないんだよ。
もっとも、童貞で無くなれば。少なくとも服に殺されることは無くなるだろうけどさ……。ちくしょう!
「それに。……話はなにもリオに限ったことではありません」
――は? いったい何を……。





