伝説の真実 Side : Magical Empire
所属:偉大なる皇帝による大魔導帝国
皇帝三神将:スクワルタトゥレ
「まだ見つからないの?」
「お恐れながら、トゥレ様。……場所はきっとこの山でよろしいのでしょうか?」
私の父親。と言うにはちょっとだけ若い年代の騎士が、冷や汗をかきながらこちらに話しかけてくる。
冷や汗の理由は簡単、全く成果が出ていないから。
この人は、私に良いところを見せたいわけではない。
むしろ私に花を持たせたいんだよな。
だからこの状況は、彼にとっては非常にプレッシャーのかかる状況なのだ。
「標高もほぼ間違い無いけれど、でも具体的な座標までは知らないもの。……部隊を半分に分けて西にも回して? “情報”では、この山の何処かに石組みの舞台があるはず」
「……御意に。――おい、そこのお前! ちょっと来いっ!!」
私はスクワルタトゥレ。
25,6才に見えて身長は172センチ、とキャラメイクの時に設定した。
自分で言うのもなんだが、伝説の騎士である。
本名は、一度身バレしてるので控えたい。
年齢は見た目の設定より四つほど若い。
一応中の人はドクターコースの二年生、頭の出来はちょっと良い。
なにより、見た目も“中身"も。正真正銘、両方女である。
中の人は、デブとまでは行かないが。多少ぽっちゃり系であることは否定しないし、その割りに胸は小さい方だ。
美人だ。と言い切る程では無いにしろ。でもまぁ、見られる方じゃないかな、と自分では思っている。
少なくても。オタサーの姫的な特種なポジションに頼る必要が無いくらいには、男性にだって縁はある。うんあった。具体的には二人くらい。
見た目としては、ちょっと。
いや大概オタクっぽいかも知れないが。
その辺はまぁ。最近はゲームの製作にテストプレーヤーとして関わってたくらいだから、嘘じゃないし。
一度異世界へと旅だち、帝国の危機を察して二十年の歳月を経て再度この世界へと戻ってきた。……という設定になっている。
困ったもんだな、この設定。
見た目は変えなかったので、最強の騎士から伝説の騎士へと二つ名が変わった。
横に居る中年の騎士、副長も実は当時のNPCの部下。当時はこの世界で“設定した私"よりも若かった。
彼から女性の横顔が刻印されたコインを渡されて、泣きながら。――良くおかえりくださいました、これはあなたです。と言われたときは肝を潰したものだ。
いくら私でも。
自分の存在がコインの柄になるほどに伝説化していたと知っていれば、素直にスクワルタトゥレを名乗ったりはしない。
見た目を変え無かったのは大失敗。それでも最低、娘とか姪とか適当なことを言っておけば良かったな。
と、いまさらながらに思っているところだ。
ただ。ここへ来たときはそんなことは考えもしなかったし、必要も無かった。
なにしろ入り口が緊急事態だったので仕方が無い。
ログアウト不可の人達の様子を見に来て、そのまま自分も帰れなくなった。
と言う、典型的な二次遭難なんだけれども。
だから現実の私は沈着冷静でも泰然自若でも無い。むしろ逆だ。
ともあれ現状、魔導皇帝の最側近である皇帝三神将であり、さらには近衛騎士統括、その上帝国軍総裁。帝国の戦全般の責任者でもある。
建前上、軍の全ての作戦は、私の責任によって立案、実行される。
そして今までは。私の作戦に綻びが生じたことは全く無かった。
だって“設定”も“イベント”も外伝や漫画のシナリオだって全て把握している。
運営側のテストプレイヤーなのだから、過去の分は全て。未発生のイベントだって知っている。
私の作戦が失敗するわけが無いのである。
但し、ここ数週間。
同じく三神将である斬、彼に任せた強襲奴隷狩り作戦はほぼ失敗。
そして今日。すぐに済むと思って、自ら出てきた魔導遺物捜索作戦も今のところ成果ゼロである。
せっかく発生する“イベント"の先回りさえできるのに、このところはまるで上手くいっていない。
こちらには神の加護、と言う最強の後ろ盾がある以上。本来失敗などあり得ない。
起こりうる事件事故、それは神の手のひらの上。
そしてその全ては私は知っているし、皇帝は何故だか神のお告げ、と言う形で知る。
私はただ、フラグの条件を確認してイベントの先回りをするだけで良かった。……ここまでは。
「時にトゥレ様」
「なぁに?」
「ザン閣下のお話ですが……」
「ラビットビルが出てきた、と聞いたわ」
「トゥレ様は異界よりおかえりの際、見目麗しいお姿そのままでありましたが。彼のものは大幅に見た目を違え、しかも少年になっていたとのご報告なのだそうで。……本物でありましょうか?」
ラビットビル。
この世界での約二〇年前、法国の田舎ギルドに所属した、凄腕の剣士でかつ、無課金を旨とするクランの統領。
その腕前と姿勢は各方面から高く評価され、この世界にあっても彼の存在は今も語り草になっている。
無課金だったため運営としては面白くなかったはずだが、客寄せパンダとしてむしろ事につれフューチャーしていたほど。
新運営になってからは、お互い完全に反目するようになったが……。
彼の主宰するクランに所属する全員、課金アイテムや課金スキルには一切頼らず。
まさに腕一本で法国最強傭兵団の名を欲しいままにし、法国内の並み居る盗賊団や反抗勢力は言うに及ばず。
実際の戦でも帝国正規軍はおろか、精鋭揃いの近衛騎士までをも大いに苦しめた。
本人も積極的に依頼を受け、イベントに参加し完全無課金を貫きながら。信じられないことに、全カテゴリ総合ランキング五〇位位内に常に居たのである。
武装が剣しか装備出来ないなど規制の多い剣士。そして更にクラン構成員の個人順位も参照されるので、仲間のレベルや怪我の具合、戦闘のフォローまで問われる頭領。
という規制のかかるカテゴリに拘り続けながら。である。
SSランクの武装を一つ装備出来たなら、それだけでもシングルランカーになるのは容易に想像ができたが、A以上は基本課金アイテム。
彼はB以上の武器を装備している姿を確認されたことが無い。
イベントで得たAやSの武器防具も、簡単に自分より弱い仲間へと譲渡する。
最強の貧乏ギルドの当主として名を馳せたのは、自分が低ランクの武器で何とかなる様な腕、それがあってのことである。
「人の事は言えないけれど。異世界を行き来しようというのだから、見た目くらいは多少変わってもおかしく無いでしょ」
「……そういったもの、なのでしょうか?」
運営が変わってからはその腕前はそのままに、プログラムの穴を付くチーターとして悪名を轟かせているのだが。
最近は偽名でログインしていることも多く、大陸内に暮らす多くのものには、ほぼ存在が認識されていない。
だが、運営側に籍を置き、モニターの向こう側からこの世界を俯瞰していた私は知っている。
ここ暫くもこの世界に居なかったわけでは無い。
ゲーム内の大半の住人達には、データとプログラムの狭間に現れた彼。
それを認識出来なかっただけで、彼は。依然としてここに出入りしていたのだ。
「だいたい。大地でその名を名乗るというなら、本物ね。偽物なら何処であろうと、名乗った瞬間に名をあげたい連中に殺されるもの」
そのラビットビルが突如、彼を勝手にライバル視している斬の前に姿を現した。
但し、その見た目は大幅に変わり、学生服を着た高校生。
更にご丁寧なことには、セーラー服を着た女子高生を伴っていたと言う。
しかも戦闘自体は従者達に任せ、自身は武器を取ることさえせず。
女子高生と法国の巫女を脇に置き、高みの見物を決め込んでいたのだ。
彼についてはその辺、ある程度わかっては居るつもりではあるがそれでも。
相手をバカにするにも程がある。と言う話ではある。
だいぶん知られた見た目とは違うのだが、その人を喰った態度や、戦術や用兵。
情報の全てが、本物と見て間違いない。と告げている。
その彼は、最新情報に寄ればここへと向かっている。
単に法国中枢へ向かっているのか、それともこちらの動きを看破しているのか。
一日の移動が三リーグ以下の日もあるのは、私達の動きを掌握し移動距離を調整しているのかも知れない。
とにかく情報通りなら、もうこの山に着いても良い頃合だ。
貧乏クランで名をあげた彼である。当然立ち回り一つで戦況をひっくり返したことも一度や二度では無い。
「一体何のつもりなのやら……。ソロでは無かった、と聞いたけど」





