議題:無名の騎士団長 Side : Magical Empire
「まぁ、黒騎士もまずは座りなさい。……話が進まない」
――作法など埒外の無骨者にて、議事の進行に支障をきたしましたこと、陳謝致します。
多少動揺した顔のまま黒騎士が椅子に座り直す。
実は弟のことは、口にこそ出さないがずっと心配していた彼女であるのは知っている。
それでも見た目が多少の動揺で済む辺り、ただ者じゃないんだよ。
「まぁ良い、話を続けましょう。……白騎士就任によって空位になった法国王都中央騎士団長だが。これについては、こちらはまるで情報を持っていない。これまで全く騎士団、どころか戦自体にまるで関わりの無かったもの。これがその任に付くことになったらしいのだが、なにか知っているものは?」
私の問いに手をあげるのは情報局ではなく、帝国軍情報部の部長。
「閣下。そは、東支神殿騎士巫女でも筆頭の地位にあった、エリザベートと申す大巫女で間違い無いかと。剣も槍も腕が立ち、なぜ騎士巫女などしているのかと言われていたところ。神職だけでなく、軍や騎士団、魔導団からの信頼も絶大で、さらには指揮にも長け、頭も回る。……ここまで、幾度も王都での煽動工作を初手の段階で潰されております」
なにしろ、中央騎士団は激戦となった戦場にはほぼ投入される、法国の切り札たるエリート部隊。
実戦経験という意味では、法国での最強騎士団。それは白騎士団では無く、中央騎士団である。
そのトップが剣の腕が立ち機転が利いてかつ、軍だけでなく神職からも支持を集めるとなると面倒だ。
結局、人数をまとめるためにはアタマのカリスマだって大事な要素。
単に、実戦経験よりも人柄で選んだお飾り団長だと思っていたのだが。
「ふむ。……聞く限り、ぽっと出の騎士巫女ではないのでしょうけれど。それは何者?」
「剣士としても指揮官として優秀な元騎士巫女であり、没落した騎士家の出であるらしい。……と、調べが付いておりますのは今のところ、そこまでです」
「私個人はジュリアン・ハイアットを欠き、中央騎士団が弱体化したのだと思っていたが、むしろ専任の団長を置いたことで強化された。と言う方が正しい、と?」
「おおよそ、閣下のその理解で間違いは無いものと……」
元巫女でもある以上、大衆人気もあるに違いない。
超の付く実戦部隊の長が、非戦闘員からも好かれている人物を現地指揮者にする。
これほど脅威になるモノも無い。
たとえ戦況不利となっても、撤退や潜伏に付近の住民全員が協力するからだ。
法国との現状は事実上の休戦状態。
それは皇帝も認めたうえで、何も無い限り基本的には維持するように通達も出ている。
脅そうがスカそうが反応がない場合はそこでおしまい。
今は周辺住民を拷問にかけて皆殺し。みたいな手段はさすがに取れないからだ。
戦いが起こるとして、大規模戦闘は現状起こりえない。超局地戦、小競り合いがせいぜい。
現状では、先日の王都東ゲート攻防戦。
たかが三〇〇人前後の動員だったこれ(とはいえ。イストリのおっさんとしては、予算的にも人員的にもかなり痛かったはずだが)すら、大規模戦闘にカウントするくらいのものなのである。
とにかく領土や資源を争う状況で無い以上、表面上撃退できても、情報と“経験値”。
これを苦もなく持ち帰られてしまっては、とてもマズいのだ。
「わかった。工作員の増員に関する予算増額の件は後で話をしましょう。――予算を気にする必要は無いし、今この場でどうこう出来るモノでも無い。まずはできる範囲で大至急。その者の情報を可及的、かつ速やかに集めなさい」
「は。では、ただちに」
彼の席の後ろに立っていた副官に耳打ちすると、副官は即座に議場をあとにする。
むしろ自分達も調べたいが予算が無い、そう言う状況だったらしい。
……言ってくれれば良いのに。
これがいわゆる忖度ってやつなのか。
半端にエラくなると、まわりが無駄に気を使って上手く行かないことも多くなるなぁ。





