信教の掃除屋
「つまるところ、キミの意思こそは神の御心。その連中こそが我らフェリシニア信教全体の敵、胸の紋を外すのはキミでは無い。……ヤツらだということさ」
いつの間にか上級神職の服を着た細身の女性が、謁見の間の中に居た。
「あえてここまで黙って見ていた。良い仕事ぶりだが今回、キミはここまでだ。――だいたい、キミがあのような汚物に手を突っ込んだとしれたら、あたしがあの恐ろしいメルカ様に、直々に叱責を頂くことになるからね……」
ヴェールから降りた黒い布が顔の半分を隠している。
虫人の神職?
“目伏せ”があっても隠し様が無い、とんでもない美人お姉さんだ、この人。
……おっぱいは無いけど。
「……良かった。あの人の服」
「服? 亜里須、なんかわかったのか?」
――何かに気が付いたのか? インセクタの上級神職なんて確かに珍しいが。
「……ゆうり君は。……あの服には、殺されない」
「うるせぇ! 何回も同じパターンで引っ張るんじゃねぇよ!」
緊張感の欠片もねぇ! たまに口で喋ったと思えばこれだ!
「……あのね、天丼って」
「やまかしいわ!」
まだテキスト亜里須さんの方がマシだ。ってのは、どうなんだよ。それ……。
「は……? え? ……る、ルル、様。ですか!? ――な、なんでルル様が中央大神殿に……っ!?
いつも沈着冷静なレイジが明らかに動揺する。
知り合い?
「何度も言っているじゃあないか。汚れ仕事は、これはあたしの専決事項だ。最悪、メルカ様が存じているなら、執行は状況によって事後承諾を認められている。メルカ様のご判断を待たずとも良い。……神敵排除執行部はともかく、あたし個人なら。そう言うお約束さえ頂いているんだからね」
全然そうは見えないが、この人は法国情報部の掃除屋……?
でも、その女性に反応したのはレイジだけでは無く。
「な、ななっ……、おい! ちょっと待てぇ! お前ぇ、抉れ胸ぇえっ!!」
「やぁ、モリガン。キミとまた、こうして直接言葉を交わせるとは嬉しい。――なかなか気の利いた配慮をしてくれる。こうして見ると、神も捨てたものでは無いな」
……なんでモリガンが、美人お姉さんと知り合いなんだ?
「抉れ胸のルル=リリ! なんで。……なんでおまえがここに居る」
知り合いなのは良いが、やたらに大変な二つ名だな。この人。
「ふふ……。あたしはともかく。万に一つでもキミに何かがあって、メルカ様に蟲がたかっては大変なのでね」
「そんな事は聞いていない!」
「聞かれたから答えたのだが。……だいたい、モリガンが殺されると複数の意味であたしも困る。――いっそキミを愛している。と言おうがそこにほぼ、齟齬は無いからね」
「ちゃんと答えろ! なんでここに居るんだって聞いてるっ!!」
「あたしは蜘蛛だからねぇ、荷物の隙間に潜り込むなどとはお手の物さ」
蜘蛛? と言うことはこの美人のお姉さんはアラクネー?
なんかモリガンとはやたらに仲が良さそうだが、種族繋がりか?
ニケもそうだが。こいつも結構、謎の人脈を持ってるな。
「わざとやってるのか抉れ胸! 何しにここに来たって聞いてるんだっ!!」
「あぁ。それはもちろん、仕事。……さ」
彼女がそうモリガンに答えると、急激にその女性の発する“雰囲気”が鋭くなった気がした。
なんだろう、この気配。
……言葉以上にただものじゃないぞ、この人。
「法王が出てくる前に、寿命間近の爺婆を一〇人ほど抹殺。……実に下らん。ここ最近では一番つまらない、最低最悪、最底辺の仕事だ。かえってストレスがたまる」
暗殺でストレス解消してるって、どう言う人なんだよ……。
モリガンにルル=リリと呼ばれた女性は、無造作にヴェールをかなぐり捨てる。
「しかもその後、現場の掃除をしろときた。……掃除屋なんて呼ばれちゃ居るが、こんな薄汚い連中をゴミ捨て場まで、この手に持って運ぶなど、背中に怖気が走る」
こんな強そうな人に、それを頭ごなしに押しつける……?
メルカさんなら、言いそうな気はするけどさ……。
女しか生まれないアラクネーなのだが、虫人では最強の戦闘力を誇り、だがその為に差別も一番非道いアラクネー。
ゲームの設定ではそうだ。
だから、そのアラクネーの血を引くインコンプリーツのモリガン。
その辺は自分ではなにも言わないが、彼女のへの差別がことさら非道かったのではないか。と言うのは容易に想像できる。
普通のアラクネーは金属質に輝く赤系統の髪に、黒か茶の瞳を三つ持つ。
モリガンの真っ赤な髪と黒い瞳はその性質が半端に発現したもの。
ただ彼女は。
短く纏めたメッキのように輝く真っ青な髪が、光を虹色に跳ね返し。青、金、赤の瞳が一つの眼窩に収まる。
それは運営が公式サイトで書いていた、種族紹介を兼ねた短編小説集。そこでしか見たことの無い“純血のアラクネー”の特徴だ。
つまり彼女もフレイヤと同じく、ゲームではあうことが出来ないはずの登場人物。
名前こそ出てこなかったが、その彼女は。
あまりにもアラクネーの血が濃く出すぎ、異常な戦闘力を誇る一方。
性格が破綻し、生まれながらに殺人癖を持つ快楽殺人鬼だった。
彼女の“狩り”は正義も復讐も仕事も無い。殺したいから、殺すために殺すのだ。
短編小説では、彼女が一二才になったとき。
生まれた村がついに庇いきれなくなり、遠く離れたところへ放逐されたところで話は終わっている。
何故“この世界”にそんな人が居るのか。と言うのは、フレイヤのこともあるので保留にするとして。
村から放り出されたところをメルカさんが拾った、と言うところか……。
設定上はランド最強の虫人なんだけど、それに言うことを聞かせてる。って言うのはメルカさんはそれより強いってこと!?。
いずれ、アテネーやニケでさえも勝負にならない可能性さえあるんだが。
……おい、モリガン。彼女、ルル=リリさんは本当に味方、なんだろうな?





