いきなり! パーティ分断!!
目の前には帝国旗を掲げた屈強な戦士や剣士、魔道士の姿が現れる。その数ざっと三〇〇。
その他空には無数のワイバーンが、地上にはモンスターテイマー率いるゴブリンやオークの群れも見える。……ベヒモスまで居る!?
法国中枢で、この状況は何だ!!
「さすがはマイスターだ」
「主殿の読み通り、奇襲。か」
「ユーリはわかってたんだから、奇襲は失敗だねっ!」
「……ひきょうっ!」
――いくらなんでも、ここまでは想定してねぇよっ!
いきなり視界の右半分が白と黒で染まる。
モリガンの糸と、アテネーの黒魔法。
「姉御、ワイバーン四〇以上にニーズヘグまで五匹混じっている! 私一人ではこの数はさばき切れんかも知れんっ!!」
結界に突っ込もうとして羽を封じられ、蟲に集られて目の前にボトボト落ちてくるワイバーンは既に三匹目。
落下してくる途中のものも含めて、空を埋め尽くさんばかりの数が頭の上を飛んでいる。
「いつもの大口はどうした!? 手を繋げ! 私の魔力を融通するから、魔力を体力に変換して蟲を呼んで糸を出し続けろ! ――モリガンに寄るなっ! ダーク・メルト・グランド!!」
モリガンを襲ってきた戦士達が、アテネーの魔法を正面から喰らって足元が真っ黒に色を変えた字面に、次々めり込んでいく。
そのアテネーにしても、(そう言う意味では臨戦態勢で待っていたのだが)“いきなり”現れた屈強な戦士達50とモンスター一〇〇体以上を相手にしている。
向こうもこちらのメンバーを把握し、戦闘では主力になるはずのアテネー。彼女を積極的にツブしに来た。と言うことだ。
彼女は基本、暗殺者。得意はもちろん、不意打ち闇討ち卑怯討ち。
暗器使いなのに仕込み武器は無し。エルフの得意武器である弓も無い。
さらには暗殺者の特性上、正面切っての戦闘は負担が大きいのは考えるまでも無い。
だからなるべく距離を保ったまま魔法で足を封じる、と言う戦術になったようだ。
しかももちろん、魔法戦だって本職では無い上、モリガンを庇いながら、である。
二人の目の下にはみるみる隈ができ、頬が痩けていくのがわかるようだ。
アテネーの加勢に廻ろうとした瞬間、今度は視界の左半分が轟音と共に光に包まれる。
「どうですか? 天の裁きの、お味は……! 一発、余っちゃいそうですね」
確かにアニメではそう言う台詞だったけど!
言う程の余裕は実際、亜里須にはない。
「アリス、アイツらおかしいよ!? 気をつけて!!」
黒焦げになった魔道士や暗殺者と思しき残骸に半円状に囲まれた亜里須とニケ。
それでもその残骸を踏み越えて、更に魔道士達が迫る。
「はっ、はいっ! ほっ! はいやぁ!」
魔導防御が無い事がバレているらしいニケに対して、遠距離から魔導の攻撃が次々打ち込まれるが、ニケはこれをかわしつつ更に鉄扇で、いなして切り裂き撃ち返す。
やっていることはとてつもなくレベルが高いが、一方。
これでは攻勢に移れない。
「う、……やば、ぃ」
亜里須の方にはいかにも身の軽そうな暗殺者のカテゴリらしき敵が、じわり。と包囲を狭める。
属性はわからないまでも、精霊争奪戦の動きから体術は適性無し。
と、踏んだんだろう。その品定めをしたのは多分スクワルタトゥレ、流石によく見ている。
そして、彼女の“天の裁き”を喰らってなお、立っている連中が何人かいる。
ゴム手ゴム長に木のヘルメットから放電用の、電線……? 避雷針的なものなのか? アレ。
この世界にゴムとか電線なんて、有ったのかよっ!
ともあれ。
亜里須が天の裁きと呼んだ魔法は、効果範囲は広いがあくまで電気。
どうやらあの装備でいなされてしまったらしい。
電気の知識は、少なくてもスクワルタトゥレが現代日本から来ているのだ、知っていて当然ではあろうけれど。
しかし、いきなりパーティを二つに割られた。
こちらの動きを読んだ上で、さらに先読みでこちらの動きを規制する。
力技で乱戦に持ち込みたかったが、統制の取れた動きでこちらが先制されてしまった。
しかも部隊の2/3はまだ動いてさえいない。
指揮官はかなり優秀だ。そしてこちらのパーティの能力も把握しているように見える。……まさか法国中枢まで。スクワルタトゥレが直接出てきた、のか!?
「その他の隊は即応体制で待機! ――学生服にスニーカー? ほう。お前が。……確かにだいぶ見た目が変わったが。本当にラビットビル本人か?」
良く通る男の低い声。
気が付くと、いきなり真正面にスクワルタトゥレや斬と同じ。真っ赤な皇帝三神将の制服。
襟元に輝く金の飾りは、前にニケが言ったとおり。確かにスクワルタトゥレが付けていたのと同じもの。
上背は一八〇を優に超え、ヒョロでもガチムチでも無い均整の取れた体つき。
オールバックに銀縁眼鏡の三〇後半と思しきおっさん。
右手に厚手の革手袋をはめ、ウチではニケ以外、持ち上げる事さえできないだろう巨大な剣を軽々と持ちつつ、素手の左手で眼鏡をくいっとあげる。
「なっ!? ……チートオヤジのイストリっ!?」
「気が付かんわけでもあるまいに、三時間以上待たせるとはな。……相変わらず、なかなか良い根性をしている」
そのおっさんは、AdMEでのチートプレイヤーの代名詞。
暗黒将軍の二つ名で恐れられたイストリパドオアである。
運営にしっぽを掴ませない巧妙な手口は俺の上をいく。
まるまる二年、どんなに通報があっても、運営はコイツのチートを見抜けなかった。
そしてキャラの見た目だけでなく、中の人もどうやら本当におっさん。
重課金ユーザーでも有名で、ガチャだけで一晩で10万使う。なんて言うのもざら。
一番重要なのは、課金もチート関係なしに単純に強い。と言うこと。
過去に何回か顔を合わせているので、お互い面識はある。
と言うか、何度か一騎打ちにまで“持ち込まれた”のだ。
実力は互角、とは絶対言えないし、チート無しでも向こうの圧勝。
AdMEでは確かに同じチーターではあるが、コイツは自分のためにチートを使う。
俺は運営をかき回す用途でしか使っていない。
……言いたいやつは、目糞鼻糞と笑うが良い。
立ち位置が真逆だというのは本当だから、なにを言われようと気にならない。
俺はコイツの存在が許せなくて、あえてチータ-になったんだ。
なのに、なんで運営側のスクワルタトゥレと同じ制服を着てるんだ?
どころか、同格……?
「ふざけんな、クソおやじっ! なんでお前がその格好でここに居るんだよ!!」





