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君の盾になりたい  作者: もも


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9/12

9 鍛錬

 クリスは朝早く起きて身体を鍛える事にした。今更だがレイチェルを守りたいと強く思ったのだ。

小さな頃には屋敷で、学院に入ってからは授業で剣は習っていたが仕方なくだった。剣を振るより本を読んでいる方が性格にあっていた。


今まで人見知りを口実に社交から逃げていたし、争うなんて考えたことも無かった。没落したとしても文官になれたのだから平穏に暮らせるだろうと考えていた。

しかしダミアンを口撃して撃退したのはレイチェルだった。

仮の関係とはいえ情けなかった。

これからは少しでも彼女の盾になりたいと思ったのだった。


騎士になりたいわけではないので朝食までの短い時間だが走り込んだり、剣を振ったりと一人でも出来ることをした。毎朝一時間ほど鍛えていると体力が付いてきたのが分かった。

以前お金がなくて何処に行くのにも歩いていたのが幸いしたのだろう。最初の頃に比べれば身体が動かし易くなった気がした。それに筋肉が付いてきたような気がする。

食べるのがやっとだった頃に比べてしっかり三度食べているので、肉が付いてきたのも大きいと思う。

もう少しまともに筋肉がつけば、騎士から剣を習うのもありかなと思い始めていた。


文官の仕事と父の補助、屋敷の改築工事の見回りと目が回りそうに忙しかったが、レイチェルとのデートを欠かすわけにはいかなかった。仲の良さを見せておくのは貴族社会で重要だった。









 久々のデートの為にレイチェルを迎えに行った時に、ぱっとクリスを見た彼女が言った。



「クリス最近体格が良くなった?少し洋服が窮屈そうになってるわ。それならサイズに合った物をプレゼントさせて。大きなサイズの物も作っておいて良かったわ」


「きちんと食べているし、君の側にいるなら盾くらいになりたいと思って、朝鍛錬をすることにしたんだ。筋肉が付いたような気がしていたんだけど君もそう思う?大きい物に替えさせて貰えるならありがたい。少し腕周りや胸周りがきついような気がしていたんだ。そのドレスよく似合っているよ、綺麗だ」


今日の彼女のドレスは淡い黄色で春の花のようだった。


「ありがとう。嬉しいわ。さあ着替えに行きましょう」


レイチェルは自分の為に努力をしてくれるクリスのことを思わず見つめてしまった。元婚約者とは大違いだわ、中身も外見も。

鍛錬しているせいか顔つきが精悍になって、背筋が伸びてすっとしてきた。顔のパーツは元々整っていたが俯きがちだったので目立たなかった。

クリスって美丈夫なのではないかしらとレイチェルは漸く気が付いた。

この優しい人と本当に結婚する人はどんなに幸せなのかしらと考えたら少しだけ胸がチクッとした。


「どうしたの?何を考えているの?」


貴方のことを考えていたのなんて恥ずかしくて言えないレイチェルはつい誤魔化すように違うことを言ってしまった。。


「どんな物が似合うかなって思っていたの。筋肉を付けるのは良いけどムキムキにはならないでね。細マッチョくらいにしてもらえると嬉しいわ。デザインが浮かびやすいもの。今日はどこへ行く?」


「人気のカフェがあると同僚に聞いたからそこへ行ってみようかと思っているけどどうかな?

朝走り込んだりしてるだけだから騎士のようにはなれないよ。それでも何にもしないよりましっていうか、体力が付いたよ。それに人と話すのも少しだけど慣れてきた。以前は社交をしなくても暮らせると思っていたから黙って過ごしていたけど、次期伯爵として侮られないようにしないといけないからね」



「頑張ってるのね、凄いわ。人気のカフェって楽しみ。洋服はサイズ違いで色々揃えてみたの。これが良いと思うの、着替えてみて」

レイチェルが客間のクローゼットを開けると、そこには洋装店の様にシャツやスーツが掛かっていた。


「これは凄いな。こんなに沢山は要らないよ、僕には贅沢だ。社交界の会話集みたいなのがあると良いんだけど。ほら話の広げ方がよく分からないんだ」


「そういう本がないか探してみるわ。でも今みたいに話せば良いと思うんだけど、駄目なの?それとこれは私の趣味だから気にしないでね。貴方をいい男にする作戦の一つだもの」


「いい男作戦って……頑張るよ…。レイチェルとはスムーズに話せるんだ。気負ったりするとどうにも難しい」


サイズの合った服に着換えたクリスは堂々として格好良くなった。


「とても良く似合ってる、貴方のために作った甲斐があるわ。会話は一緒にいればお手伝い出来ると思うわ。次期伯爵夫人として各貴族の名産とか家族構成とか、領地のことを勉強をしてるの。役に立ちたいと思って。それに貴族名鑑も覚え直しておくわ。高位貴族のマナーも家庭教師から学んでいるし」


「申し訳ない気がするけどありがとう。言葉だけでは感謝を伝え切れないけど。自分でも頑張ってみるよ。確かに各貴族の領地の特産を知っておけば話が広がるね」



「クリスならきっと大丈夫よ。石炭のことを聞かれるかもしれないし。今の貴族の関心事はそっちなのではないの?」


「まだそんなに話せることはないんだ。適当に誤魔化さないと。漸く一歩が踏み出せたってところだから」


「大丈夫よ、発掘は順調にいってるそうじゃない。父から聞いてるわ。会話が出来るようになるまでは、私がお相手するから隣で笑っていてくれたら良いわ」


「レイチェルにばかり負担をかけるわけにはいかないから頑張るよ」



 馬車の中でもずっと会話は途切れずいつの間にか目当てのカフェに着いていた。


人気のカフェで注文を目にした僕たちは色気のない話ばかりをしていたことに気がついた。

ここは仲良しアピールでケーキの食べさせ合いをするべきなんじゃないかと、レイチェルに僕の注文したチョコレートのケーキを掬って口に近づけた。


「ほら美味しそうだよ。あ~んして」


真っ赤になったレイチェルが大きな目をまん丸にして見てるけど、サリバンに教えて貰ったんだ。婚約者はこれくらいが当たり前だそうなので止めるつもりは無かった。


何か言いたそうだったレイチェルは思い切ったらしく口を開けてくれた。


「美味しかった。じゃあお返しね。あ~ん」

彼女の白くて小さな手がフォークを持ち白いクリームの載った苺のケーキを食べろと口まで差し出してきた。人前であ~んをされるのがこんなに恥ずかしいものだと思わなかった。覚えてろよ、サリバン。

クリスはケーキが甘すぎて慌てて珈琲を飲んだのだった。


「甘かったし恥ずかしいものだね」


「誰から教えて貰ったの?」

他の女性にやったことがあるのかと不安になったレイチェルが恐る恐る聞いた。


「婚約者のいる友人だ。二人はとても仲が良いんだ。今度紹介するよ。君と婚約したことも言ってある」

これも仲良しアピールの一つだと思って貰おう。それに大きな夜会で会うかもしれないのだから嘘ではないと自分を納得させた。



レイチェルはクリスが友人にはこの関係を打ち明けていると思い、会えると聞いて嬉しそうに笑った。



読んでくださってありがとうございます!恋愛偏差値の低いクリスが突然上級者?の行動に出ました!

二人共どぎまぎしてます。見守っているデニスもステラも無の境地です。

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