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君の盾になりたい  作者: もも


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8 元婚約者の襲来

 レイチェルとクリスがデートで街歩きをしている時だった。薄汚れた若い男が近づいて来た。元婚約者だった。さっとクリスが庇うように前に出た。それなのにどこを見ているのか


「レイチェル、もう一度婚約をしてやる。この俺が結婚してやると言ってるんだ。泣いて喜べ、俺のことが好きなんだろう?」

と訳の分からないことを言い始めた。レイチェルはやっぱり頭におが屑でも詰まっていたのねと溜息をついた。


すっとクリスの隣に並んだレイチェルがきっと男を見据えて言った。

「どなたかと思いましたらダミアン様ではありませんか。新しい婚約者の方はどうされたのですか?もう心変わりされたのですか?今更そんなことを言われても迷惑ですわ。大勢の前で宣言しておいて再婚約などありえません。

それにダミアン様のことを好きだったことなんて一度もありません。

自分は嫌っておられたのに私に好かれているとでもお考えに?笑ってしまいますわね。

私はもう婚約をいたしましたの。前に出て庇ってくださる優しくて誠実な方ですの。伯爵家のご令息ですわ。名前を呼ぶのはおやめください。二度と会うこともないでしょうが」




「ぺらぺらと好きなことを言いやがって思い上がるのもいい加減に……」


いい加減むかついていたクリスは男の言葉を遮った。

「私が婚約者のクリス・ロイド伯爵令息だ。元婚約者殿。二度と彼女の前に顔を見せないで貰いたい。これ以上レイチェル嬢に迷惑をかければ騎士団に引き渡す」

とレイチェルが聞いたことのないような低い声で言った。


「な、婚約者?お前は俺を愛しているはずだ。偽りの婚約者だろう?そうに違いない」


「頭が沸いているのか。これ以上侮辱すると罪が重くなるが良いのか」

クリスが更に低い声で言った。


いつの間にかデニスが剣の鞘に手を掛けながら近づいて来ていた。怒りで今にも剣を抜きそうだ。


「うちの護衛は腕が立ちますの。切れ味のいい剣を買ったばかりですわ。身をもって試してみますか?」


凍りつくような辺りの空気と、人が集まって来たのに恐れをなしたのかダミアンが後ずさりしながら逃げて行った。

その間にステラは騎士団に行き事情を話してダミアンを確保して貰うように頼んでいた。御嬢様が元婚約者に絡まれておいでですと。

騎士団は馬鹿な婚約破棄で有名な令息だった男の捕縛を快く了承した。

今は平民になった男が貴族に言いがかりを付けて絡んだというのは充分な理由だった。




ダミアンが逃げた後、辺りを見て冷静になったクリスは


「これからもデニスは離れないようにして欲しい。もし離れるような時は別の者を側に置いてくれ。君一人の時に来たら危険だ。ああいう輩は諦めが悪いからね。確か子爵家は慰謝料と侯爵家への賠償金で傾きかけているんじゃなかったかな。

馬車に戻ろう。震えているじゃないか。気丈に言い返えしていたから大丈夫かと思っていたけど怖かったんだね。ごめんね、側に付いていたのに役に立たなくて。もう少し剣を鍛えておけば良かった」


「そんなことはないわ。クリスが側にいてくれたから言い返せたの。一人では無理だったわ」


野次馬は事態が収まって興味を無くしたのかいつの間にかいなくなっていた。


馬車に乗るとクリスは震えるレイチェルの肩を右手で抱きしめ左手で手を握った。青かった顔色が徐々に良くなった。



「エレメント伯爵令嬢との婚約はどうなったのかしら。破棄の時に次の婚約者だと言っていたけど」

とレイチェルが呟いた。


「エレメント伯爵家もそんなに裕福ではなかった気がする。噂では婚約はしなかったようだよ。気になるなら調べてくるけど」


「ううん、いいわ、ごめんなさい。もう関係ない人だもの気にしないことにするわ」


「でも君を貶めた片割れだよ」


「忙しいのにそんなことまでしてもらわなくても大丈夫よ。何とも思ってないわ。それにあんな私を見て幻滅しなかった?」


「幻滅なんてとんでもない。君はとても格好良かったよ」


無理をして笑っているレイチェルと、いつになく怒っている自分の為にクリスは調べることにした。



 エレメント伯爵家は旨味のないダミアンとの結婚は認めていなかった。リンドバーグ商会を敵に回すつもりなど鼻からなかったのだ。

見た目だけで金持ちだと誤解をしていたライラが勝手に近づいていたようだ。

一連の騒動で瑕疵が付いた令嬢に嫁ぎ先があるわけもなく、それこそ国の最果ての地の年寄りの貴族の後妻になったそうだ。そこは賑やかな都会ではなく草や木の広がる土地だった。行くまでに王都から三カ月はかかるそうで訪れる者はほとんどいない。修道院の方がましと言われる場所だった。


逃げ出そうにも食料や注文された品を運ぶ荷馬車が二週間に一度訪れるだけの寂しい場所だそうだ。もしも逃げたとしても途中の山越えで山賊が出るので、当然御者は厳つい体格の腕の立つ大男だった。仕事に誇りを持っているその男が裏切り者の手助けをするはずがなかった。




それを一週間で掴んだクリスは騎士団がダミアンを逮捕した報せと一緒にレイチェルに伝えた。


「あの男は今は平民だ。貴族相手に暴言を吐いたんだ。牢に入れられているがその後は鉱山で労働の刑が待っているそうだ。女は後妻になった」


「もうあの二人の顔を見なくて良いのね。ありがとうクリス」

ほっとしたレイチェルの笑顔が何より嬉しかった。

契約でも婚約者が平和に過ごせるのは良いことだとクリスは自分に言い聞かせたのだった。



牢のなかでもダミアンは「あの女さえ言うことを聞かせれば」とぶつぶつ呟いていた。それを見た牢番は「救いようがない馬鹿だ」と憐れみを向けた。


お読みくださりありがとうございます! ダミアンの相手もざまぁされました。

 

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