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君の盾になりたい  作者: もも


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2/12

2 偶然の出会い

暇つぶしに読んでいただければ嬉しいです。

 クリスは給仕のアルバイトの帰りに、通り抜けようとした庭園のベンチで泣いている女の子を偶然見かけた。夕暮れが迫る時間に見たその姿があまりに危なくて思わず声をかけた。


「あのこんな所で泣いているのは危険ですよ」と。


クリスの実家の伯爵家は時代の波に乗れず貧乏になり学院に通うのがやっとだった。学院に許可を得たアルバイトを今日もしていた。貴族家の夜会はいい稼ぎになった。学生なので準備や給仕を手伝えば早めに帰る事ができるのだ。


いつもなら声をかけたりは絶対にしない。人付き合いは得意ではないからだ。

夕暮れの周りに誰もいない庭園は泣くのに丁度いいかもしれないが、危険だ。

クリスはそろそろと近づいてハンカチを差し出した。汚れていなくて良かった。


「あの、良かったら使ってください。こんな所にいつまでもいると危ないです。早く帰った方がいいです」


びっくりしてクリスを見た女の子は驚くほど可愛かった。紫色の大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ僕を見た。艶のある綺麗な金色の髪が顔に三本ほど張り付いていて取ってあげたくなったが我慢した。


触れるのは良くない、うん良くない。


年は同じくらいか?どうしてこんなに可愛い子がこんな所で泣いているんだ。

よく見れば着ているドレスも上等だ。お嬢様なんだろう。


「あ、ありがとうございます。ハンカチは持っていたのだけどぐちゃぐちゃでもう使えなくなってしまいました。でもどうしてなのか涙が止まらなくて」


「でも泣くのはやめて早く帰った方がいい。君みたいなお嬢様だと狙われるよ」


こんな言葉普段なら言わないし言えない。周りに誰もいなかったから出来た。

それだけ言うとクリスは踵を返して帰ろうとした。


「待って、デートしてくれたら金貨一枚を払うけどどうかしら?」


「えっ?泣いていたんじゃなかったの?放っておけば良かったよ。嘘泣き?頭可怪しいの?」


「可怪しいのかもしれない。軽蔑するわよね?私さっき婚約破棄されたの。小さい頃から嫌われていたけど、まさか有ることないことでっち上げられて破棄されるなんて思っていなくて、取り乱してしまったの。ごめんなさい」


頭が可怪しいわけでは無さそうだ、良かった。


「君良いところの娘だろう?馬車とか侍女は?」


「侍女と馬車は先に帰ったの。もう少ししたら帰るわ」


「君が帰るまで一緒にいるよ。何かあったら寝覚めが悪い。ねえ、使用人って普通ずっと待っているものなんじゃないの?」


「帰りは元婚約者の家が馬車を出してくれていたから今日もそのつもりだったの。でも流石に今日は嫌でここの馬車をお願いしたからもう直ぐ呼んで貰えると思う」


「嫌っているのに送るんだ。何とも言い難いけど・・・それは災難だったね。でもさっきの様なことを誰にでも言わない方が良いと思う。奔放な女性だと思われるよ。それで良いなら構わないけど」


彼女に声が届く範囲に距離を広げ、余計なことだとは思ったがそう言った。



「家から婚約者の義務だとでも言われていたんでしょう、馬車を出すだけで本人はいないわ。次の縁談は年の離れた人になる。それも多分後妻よ。それを拒めば修道院に行かされる。その前に甘い言葉で傷を埋めて欲しかっただけ。魔が差したの。ごめんなさい。変なことを言ってしまって。

偽りでもいいから、デートをして甘やかしてくれる人がいたら良いのにと考えていたらあなたがハンカチを差し出してくれたから、つい口から出てしまったの。言ってしまってから恥ずかしくなったわ」


「そんなに謝らなくていいよ。聞かなかったことにするから。そいつのことが好きだったの?」


「会った時から嫌われていたのよ、好きではないわ。でも冤罪をでっちあげてまで嫌われる程だとは思っていなかったの」


「冤罪だと言わなかったの?」


「言ったけど無駄。どうしても私のせいにして破棄したかったらしいから」


「冤罪の証拠はあるの?」


「学院に通っていないのに相手を虐めたそうよ。それが反撃できる証拠かしら。こうなる事を見通せ無かった私が甘かっただけ」


「酷いな、悔しいだろう?」


「そうね、でももういいの。別れて良かったと思えてきたわ。ずっと嫌われたままで生きていくほうが辛い人生よね。いくら父が決めたと言ってもどうして我慢していたのかしら。もう少し抵抗すれば良かった。修道院に行くわ」


「親の言う通りに結婚するのが当たり前の世の中だからね。自分を責めることは無いと思うよ。でもお金を出すからデートしてはいただけないな。自分を安売りは良くないよ」


「あなた真面目そうで優しそうだったから言ってみただけ。褒め言葉で傷が癒されれば良いなって思ったの。叱ってくれてありがとう。婚約破棄ブルーってところかしら」


「君の元婚約者ってそれすら言わなかったの?」


「嫌われてたって言ったわよね」


「ごめん、君名前は?僕はクリス。貴族学院の三年生だ」


「レイチェル・リンドバーグよ。学院には結婚するから行かなくて良いと言われたの。一通りは家庭教師に教えてもらったわ。これで傷物になったから普通の嫁ぎ先は望めない。ため息ものよ」


「リンドバーグって大商会の?男爵家だったよね。僕貧乏だけど一応伯爵家の嫡男で卒業したら王宮で文官になるんだ。契約で良かったら婚約者になる?後妻や修道院より良いと思うよ」

自分でも驚くような大胆なことを言ってしまった。


「良いの?迷惑がかかるわ。私にばかり都合がいい話だし。それに別れた後、あなたの結婚に差し障るわ」


人生の大事なことを決めてしまう危うさはあったが、目を腫らして泣いていた女の子に今更やめると言える筈もなかった。



「伯爵家と言っても貧乏だ。結婚は諦めていたから大丈夫だ。君が落ち着くまで、婚約者としての役目は果たすよ」

本当にこのまま大商会の令嬢と婚約していいのか不安になりかけた僕は、誤魔化すように出来るだけ落ち着いた声で言った。


「私ばかりが得をして貴方に利がないわ。婚約者としての持参金は父に話してみるわ。父は損をするのが嫌いだから、多分向こうの浮気で破棄になるわ。慰謝料は取れると思う。

伯爵家なら父も快諾するわ。喜ばせるのは業腹けど。あなた人が良すぎるわ。騙されるわよ。でもありがとう。私の人生を救ってくれて。恩返しは必ずするわ」



こうして変なきっかけで僕たちは契約婚約をしたのだった。





読んでくださりありがとうございます!

護衛君は男が近づいた時に剣を抜きそうになっていましたが、お嬢様が泣き止んだ時点で害を与えるような人物ではないと判断して見守っています。契約で婚約をしたのは聞こえていません。

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