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君の盾になりたい  作者: もも


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12/12

12 真相

 その日クリスが帰って来たのは日付が変わるような時間だった。噂に対する怒りで夫に聞こうと思っていたレイチェルも勢いが削がれてしまった。

朝なんてとんでもないわね、帰ってからにしましょうと思っている間に領地の炭鉱が崩れていると連絡が入り、クリスは急いで行くことになった。

笑って「気をつけてね」と言うのがやっとだった。妻の微妙な笑顔はきっと自分を心配するものだと信じて出かけたに違いなかった。


「なんてタイミングが悪いのかしら」

というレイチェルの溜息は風に消えた。ステラが

「奥様大丈夫ですか?もう少ししたら手紙を書かれたらいいのではないでしょうか」

と言ってくれたので一週間程してから手紙を書くことにした。クリスは一ヶ月職場に休みをもらっていた。




 実家の商会で医薬品や包帯も買って送ることにした。商会から派遣している人達は大丈夫なのか、一緒に聞いてきて貰うことにした。


使いに出した古くから仕えてくれる使用人は

「酷い怪我人はいませんでした。大旦那様も怪我が無くて本当に良かったです。旦那様もお忙しそうでしたがお元気でした」と泣きそうな顔で報告してくれた。

又何があるか分からない場所だ。送った医薬品は保管して貰いたいが、役立たないほうが良いだろうなとレイチェルは胸を撫でおろした。


クリスからは返事が帰って来なかった。そんなに忙しいの?手紙も書けないくらい?

レイチェルは不安な気持ちを仕事で紛らわした。次第に食欲がなくなり、夜眠れなくなった。


心配したデニスが領地まで見に行くと言ってくれたが、これからもあることだからと我慢をすることにし、行くのを止めた。














 それから二ヶ月経って漸くクリスが帰って来た。


「お帰りなさい!大変だったわね。お疲れ様でした」


「ああ、ただいま」低い声で答えたクリスは疲れていたのか嬉しくて抱きつこうとしたレイチェルを躱した。

「えっ?」


「ほら汚れてるから臭いよ。湯に入って着替えて来るよ」

慌ててクリスが湯殿に向った。


臭くなんて無かったし、笑ってもくれなかった。少しでも早く安心したかったのに酷い。でも私の為よね。レイチェルはもやもやとした思いを抱えた。



 夕食を摂りながらクリスの目を見た。眼球が左右に動いている。疚しいことがあるのね。禄に会話もない。食後に話し合いをするわとレイチェルは決めた。


「なんだかいつもと違うわね。夕食を食べたらお話があります」

留守の間に覚悟をしたレイチェルが言った。


「えっ?疲れているんだけど。またにしてくれないか」


「僅かな時間よ。貴方の部屋に行くわ」


「分かったよ」何かを諦めたように夫が言った。女性のことを言われるのが嫌なのかしら。私だって辛いけどいずれはっきりさせないといけないことだもの。


食後のお茶を夫の部屋に用意してもらって二人は向かい合って座った。


「お帰りなさい」


「ただいまって言わなかった?」


「言ったけど聞こえていたのかしらと思ったのよ。どこか上の空だし。よほど気になることがあるようね。クローネさんだったかしら」


「えっ何の話?」


「貴方の職場で妻と呼ばれている人のことよ。悩みの種なのではないかと思ったのだけど、違ったかしら?手紙を出しても返事もくれないし。帰っても目も合わせてくれないんですもの。

その人が好きなの?炭鉱の事故で恋を諦めないといけなくなったことが苦しいの?それとも愛人にしたいのかしら。私が嫌だと言えば男爵家との契約が切れるかもしれないから?そうなると困るものね。

妖艶な方で私とは違うタイプらしいわね。あの時私を救ってくれた貴方の為に隣を譲るべきなのかしら?」

知らず知らずの内に涙がぽろぽろと零れ落ちた。


「何を言ってるの?全て君の誤解だよ。職場の妻なんて気持ちの悪い噂になっていたのか。その女が最近やけにべたべたと接近してきて嫌だから上司に退職を頼むために話を聞いてもらっていたんだ。あの日は帰るのが遅くなってごめん。早く帰るつもりだったのに引き留められて酒に付き合わされたんだ。君を泣かせたくなくて黙っていたのに逆効果だったね。

翌日事故が起きて領地へ帰らないといけなくなって、話す余裕がなくなっていた。

手紙の返事は使用人に頼んでおいたが、まさか届いていなかったのか?嘘だろう。あの女の回し者だったのか・・・?即刻首にする。まさか離縁するつもりだった?」


顔色を青くしたクリスが慌ててハンカチでレイチェルの涙を拭き、縋るような目をした。


「そうね、でも聞いてからと思っていたわ。お茶会で聞かされるほど噂になっているの。私が貶められるのが嬉しい人は多いわ。報復はさせて貰ったけど。

夕食の時目が左右に揺れていたわ。どうして目を合わせてくれ無かったの?ハグを躱したのは何故?」


「女性の困り事で王宮を辞めたいと言ったらレイチェルに軽蔑されるかと思ったんだ。人間関係はそんなに得意ではないし。相談すれば良かったよ。笑わない?」


「笑わないけど、恋とかではないの?私とはほら始まりが同情からでしょう?」


「もっと早く言えば良かった。あの時君に一目惚れしたんだ。普通に話せるのは君だけだ。あの女とは必要な話しかしていないよ。執拗な接触は躱していたんだけどそう見えていたってことか・・・・そんな理由で王宮を辞めたいとは言い出せなくて。ハグをしなかったのは本当に臭かったからだよ。信じて欲しい」


「お馬鹿さんね、そんなことですれ違っていたなんて相手の思う壺だわ。これでその人が領地に行ってたりしたら致命的だったわね」


「そう言えば、母上が職場の人が事故見舞いに来られたわって怖い顔で笑ってた。母まで誤解をしていたのか?それとも情けない息子に喝を入れたかったのか。君を失うなんて嫌だ。

異常な接触に対する抗議は入れておいた。噂になる前にもっと早く抗議すれば良かった。同じ職場だから穏便に済まそうと思ったのが仇になった。心配かけてごめんね。情けなくて申し訳ない」


「もしかしたら自分の方が良いとアピールしに行ったのかしら。怖すぎるわ。その人に会ったの?」


「会ってないよ、浮気なんてするわけがない。レイチェルが泣くなんて嫌なんだ。一生君だけを愛していると誓うよ。信じて」


「クリスって優しいから本当に好きな人が出来て困っているのかなと思ったの。渡したくなかったけど、始まりがあれだったから私も引け目があったし」


「愛おしいのはレイチェルだけだよ。君以外は目に入らないし入れない。僕の気持ちが通じてなかったから不安にさせて泣かせてしまった。ごめんね。これからゆっくり分からせてあげるから覚悟して」


急に熱を持ち始めたクリスの瞳と腕に身動きが出来なくなったレイチェルだった。




クリスに朝まで愛を囁かれ貪られたのは言うまでもなかった。



誤解が解け心も身体も満たされたレイチェルは人間不信から少しだけ立ち直った。これからクリスが愛情を囁くことで自信を取り戻せば、明るい日々が待っていることは確かだった。

クリスも深い傷を抱えた妻の寂しそうな表情が無くなるように、愛を囁くことに決めた。



職場でクリスに狙いを定めていた女は職場の風紀を乱したとして、過疎地の事務所に飛ばされた。老人が多い地域で全ての事務の仕事をするという。

職員は中年の女性と年配の所長の二人だったが人手が足りなくなっていたらしい。

短くても十年は勤務地は変わらないそうだ。その後王都に帰って来られるかは本人次第だそうだ。十年も経っていたら完全に婚期を逃す。かと言って仕事を辞めて王都に帰って来ても、良い噂のない女性が相手を捕まえるのは至難の技だ。


元同僚から話を聞いたクリスはほっとして、レイチェルだけを愛してもっと甘やかそうと改めて決心した。


二人に子供が生まれ賑やかになるのはもう少し先のことだった。



ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。ヘタレのクリスですが、レイチェルを想う気持ちは一途です。

これが今年最後の作品になります。来年も読んでいただけると嬉しいです。

皆様良いお年をお迎えくださいね。幸多からんことをお祈りしています。

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