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君の盾になりたい  作者: もも


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11/12

11 結婚生活

 結婚式の日はあっという間にやって来た。元々派手にする気のなかったので、親族と僅かな友人だけで挙げた。リンドバーグ家は淡々とした様子だったが、ロイド家は両親が涙を流して感激し、クリス達を慌てさせた。


レイチェルは繊細なレースのウエディングドレスを着れて、花婿がクリスというだけで満足だった。

その上花婿は自分のデザインした真っ白な正装姿なのだ。

男ぶりも半端ない。出会った頃に比べて男らしさに磨きがかかっていた。


司祭の前で誓いの言葉を言いキスをしてサインをした状態で幸せは最高潮だった。




 初夜はステラに本当のことを話しているので大丈夫と言ったのだが、念のためにとクリスが指先を傷つけ血を誤魔化しシーツに印を残してくれた。

初めて二人でベッドに横になった。最初はどきどきして眠れるかどうか心配だったが、朝早くから準備で疲れていたレイチェルは話をしている内にいつの間にか眠っていた。クリスの方はレイチェルの寝姿が目に入り一睡も出来なかった。


その上レイチェルが夜中に枕と間違えて抱きついてきたのだ。「えっ!?レイチェル起きてるの?」

と声をかけたが聞こえてくるのは寝息だけだった。ほっとしたような残念なような複雑な気持ちになった。


それならと遠慮なく温かな身体を抱きしめ髪を掬って匂いを嗅いでみた。シャンプーの香りだろうか、花のような香りがする。手触りもシルクのようだ。起こさないように頬にそっと触れてみた。張りがあってつるんとしてすべすべとしていた。


「はあ〜」と情けない息を吐き出した。好きな女性が腕の中にいるのだ。どうにかしてしまいたかった。しかし合意がなくてはいけない。結果理性が勝った。明日から自分の部屋で寝ようと思ったクリスだった。


カーテンの隙間からきらきらとした陽光が差し込みレイチェルの瞼がピクピクと動いた。目が覚めるのか?睫毛が長いんだなと、とりとめのないことを考えていると目を開けた。


「おはようレイチェル」


「おはよう、クリス。よく眠ったわ。あっ目の下に隈が出来てる。眠れなかったの?あ〜っ私大きい抱き枕で温かくて幸せと思って抱きついて寝てたのね。ごめんなさい」


「今夜から自分の部屋で寝るよ」


「私と眠るの嫌だったよね。ごめんなさい、気が付かなくて」


「レイチェルが嫌なのでは無くて・・・その女性と眠るというのが刺激が強いというか。手を出せないのが拷問というか・・・」

クリスがごにょごにょと呟いたが聞こえていなかったらしい。


「そうだったのね。それなら手を繋いで眠ったら良いんじゃないかしら。今まで触れ合ったことさえないものね。結婚式のキスが初めてだったし90」


斜め上過ぎる発言にクリスはがっくりと肩を落とした。


「それは違うと思うんだけど・・・まあ徐々にでいいかって。あっ白い結婚だった。解放してあげないといけなかったんだ。浮かれてた。ごめん」


「浮かれてたの?貴方が良ければ白い結婚でなくていいわ。本当の夫婦になりたい。好きなの」

そう言うとレイチェルはクリスの首に腕を巻きつけ頬にキスをした。クリスが我慢をせずにレイチェルを腕に閉じ込めて唇にキスをしたのは当然の成り行きだった。


「僕も好きだよレイチェル、愛してる」


「私もクリスが好き、大好き」


想いが通じ合った二人の甘い一日はまだ始まったばかりだった。









 伯爵家での生活は穏やかだった。いるのは優しい人ばかりだった。あの日クリスがハンカチを差し出してくれたから全てが始まったのだ。お返しはクリスに。それがレイチェルの信念だ。


だからといって自分の財産を作るのを止めてはいない。

幸せは儚いものだと知っているレイチェルは心の底で未だに信じ切れなくていない。幸せなのにそれさえ怖いと思っていた。

家族は愛情を与えてくれなかった。優しいクリスの側で生きるようになってもレイチェルはどこか人を信じ切れていなかった。

お金という目に見えるモノに変えておかなくてはいけない、何かがあった時に助けてくれる。それが仕事へとレイチェルを駆り立てていた。







 朝クリスを見送ってからレイチェルは自分で立ち上げた洋服の商会に向かい、指示を出したりデザインを描いたりしていた。

それが終わり帰ると家政を取り仕切ったりお茶会に行ったりしている。クリスは毎日朝食と夕食は一緒に食べるようにしてくれている。優しい夫がいるって幸せだと思う。


夜会で披露したドレスのお陰で売り上げは順調だ。注文に生産が追いついていない。縫製が間に合わないのだ。手に入らないものは価値が出る。生地の仕入れは実家の商会を通しているのでスムーズに行われている。

利用できるものは何でも使う。開き直ったレイチェルの信念だ。親が娘を利用しているのだ。逆があってもいいじゃないかと開き直った。





 そんなある日のお茶会で嫌な話を聞いた。成り上がりの男爵令嬢が伯爵夫人になったことが気に入らない御婦人が親切そうに憐れみのこもった目で教えてくれた。


「お宅の旦那様に近づいている蝶がいると噂になっているそうですわよ。お気をつけになってね」と。

もちろんレイチェルは笑っておいたが、その一族のドレスは金輪際注文を受けないように手配した。


昔は没落寸前で気にもとめなかった男性が身なりが良くなり男ぶりが上がったのだ。お金の匂いがしているのかもしれない。妻は大商会の娘だが男爵家だ。

(くみ)し易いと愛人目当てで近づく女がいても可怪しくはない。

でもね身体を鍛え格好良くなったのは私の為だったの。石炭だって家の支援が無かったら上手くいって無かったかもしれないでしょう。

最初は契約だったけど、今は本当の夫婦になったの。クリスは渡さないわ・・・




帰りの馬車の中でステラに命令を出し真相を探って貰うことにした。



近づいていたのは職場の同僚の女性だった。伯爵家の三女で妖艶な女性らしい。やたらと身体的な接触をしていると報告を受けた。仕事の話をしているようだが一緒にいる時間が長いという。まるで妻の様に世話を焼いていると噂にまでなっていた。

それが本当なら今夜でもクリスに聞かなくてはならないとレイチェルは沈んだ気持ちで決意した。


愛していると言ってくれたクリスのことを信じたいが、男というものは美人に弱い。今まで見向きもされなかったのにモテ出したら、心変わりをするのではないかと疑う気持ちが黒く渦を巻いてレイチェルを苦しめ始めていた。







読んでいただきありがとうございました。次で最終回になります。

悪意を持っていた婦人の一族の中には、えっどうして売ってもらえないの?と思い調べた人もいそうですね。

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