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君の盾になりたい  作者: もも


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10/12

10 夜会

 あっという間に月日は過ぎ結婚式まで三カ月になった。伯爵家は改装も終わりすっかり昔のような美しい姿を取り戻していた。庭師も雇ったので庭園が見違えるように美しくなっていた。

内装はレイチェルの好みに合わせてクリーム色で統一してあった。そこに古くから使っていた家具を入れた。レイチェルの使う家具と夫婦用のベッドはデートを兼ねて二人でリンドバーグ商会に選びに行った。

家具選びは楽しかったが、夫婦用のベッドを決める時は二人ともぎこちない態度になった。

しかし買わない訳には行かないので広くてクッションの良い物を重点において選んだのだった。従業員の生温かい視線に二人とも顔から火が出そうに恥ずかしかった。

最低限しかいなかった使用人も戻って来てもらったり、新たに募集して増やすことができた。


クリスとレイチェルの部屋の間に夫婦の寝室が作られた。元々は現在の伯爵夫妻の部屋だったが、領地の仕事が忙しくなったのと息子の結婚でそちらに拠点を移していた。両親の気遣いなのだろうとクリスは嬉しく思った。

これで偽装夫婦であることがばれにくい。暫く結婚しておけばレイチェルに対する家からの圧力も弱まるだろう。そうすれば解放して自由にさせてやれる。

この時のクリスはそう単純に思っていた。




 父からの手紙には石炭事業で忙しいと嬉しそうに書いてあり、久しぶりに張り切って仕事をしている姿が浮かんでクリスも嬉しくなった。

両親は二人とも三十代半ばでまだこれから頑張ってもらわなくてはいけない。

貧乏に押しつぶされそうになっていた時より若返っていてくれればいいなと願っていた。



 そんなある日王宮からの夜会の招待状がロイド伯爵家に届いた。招待日は結婚式の一ヶ月前だった。

あまり領地を空けるわけにはいかない両親の代わりに、クリス達が出席することになった。

両親は式の一週間に王都に来ることになっていた。


 レイチェルが総力をあげて自分のドレスとクリスの礼服を作ることになった。

生地は遠い国の特産品でまだ輸入が始まっていない最高級のシルクを使うことにした。クリスの髪色の紺を華やかに見せる為に何層にも水色のシルクを重ねることにした。歩いて揺れるとウエストから裾にかけて色が濃くなり裾が紺色に見える仕立てにした。そこにダイヤモンドを飾りさらにキラキラさせることに成功した。

身に着けるアクセサリーをダイヤモンドにすればより映えるだろう。


クリスの礼服はレイチェルの瞳の色の紫色を濃くしたシルクだ。髪色の金で伯爵家の紋を襟に刺繍すれば、お互いの色を纏っていることになる。アクセサリーはもちろんダイヤモンドを着けて貰う。


デザインを考え作っている間レイチェルはわくわくが止まらなかった。

小さくても自分の商会を作ろうと決めた。





 夜会当日は朝早くからステラ達侍女が張り切って仕事をしてくれた。頭の先から足の指先まで磨きたてられた。

クリス色のドレスを着たレイチェルは胸元にダイヤのネックレスとイヤリング、指輪もダイヤを着けた。髪は高く結い上げられた。


迎えに入って来たクリスは濃い紫のタキシードがよく似合っていた。ダイヤのピアスが耳で光っていてそこはかとない色気を感じさせていた。


「水の妖精のようでとても綺麗だ。早くアクセサリーを贈れるようになるからね」


「貴方も素敵だわ。気持ちだけで充分よ。アクセサリーは焦らないでね」


「ごめんもっと褒めたいのに言葉が出てこない。悔しいな、語彙力がない。行こうか、僕のお姫様」

耳を赤くしたクリスがやっと言葉を紡いだ。


「ええ行きましょう」


馬車は伯爵家の紋が入った高級な物だ。エスコートで乗り込むとクリスが言った。


「一年前はこんな日が来るなんて思ってもいなかったよ。全て君のおかげだ。ありがとう」


「私だって思っていなかったわ。あの時声をかけてくれてありがとう」


「うん。今日は頑張ろうね。こんな所に来るのは初めてだから迷惑をかけないようにするよ。慣れていれば君をリード出来たんだけど」


「そんなことは思わないわ。ダンスも一緒に練習したしマナーも勉強したじゃない。大丈夫よ、クリスなら出来るわ。それにずっと離れないわ」


「そうだね、そう言ってもらうと安心する。低位の貴族からだから呼ばれるのは真ん中くらいだね。サリバンに会えるかもしれない」


「前に話してくれたお友達ね。今夜はおすましで頑張るわ」

二人は微笑みあった。





 エスコートされて入った宮殿の大広間は光の洪水とドレスの花と香水の香りで熱気が凄かった。


「もう帰りたくなってきたわ。まだ半分の方しかいらっしゃらないのよね」


「これから高位貴族の方々が入場されるし最後が王族の方々だ」


「この目で尊き方々を拝見するまで頑張るわ」


「ご挨拶をしないといけないと思うよ」


「そうなのね。早く教えて欲しかったわ」


「緊張するといけないと思って黙ってた。ごめんね」

クリスの思いやりにそれもそうかと思ったレイチェルだった。早く知っていればその時から落ち着かなくなっていただろうことはたやすく想像がついたからだ。


給仕が飲み物を配ってくれた。クリスは軽めのワインだがレイチェルは果実水だ。

「私だってお酒飲めるのよ」


「何かあってはいけないからね、今夜はこれで我慢して。心配なんだ」


そうクリスに言われるとレイチェルは素直に頷くしかなかった。こんな甘い言葉なんて、今までに言われたことがなかったのだから。


小さな声で話していると時間が過ぎたようで王族の登場になっていた。陛下、王妃様、王太子殿下、王子様に王女様が壇上に並ばれた。


絵姿でしか見たことがない雲の上の人を見ることが出来レイチェルは感激してしまった。王族オーラって半端ない。


「皆の者、今宵はよく来てくれた。国の為日々努めてくれていることに感謝する。楽しんで貰いたい。では乾杯!」


「「「乾杯!!!」」」


陛下と王妃様のダンスを皮切りにダンスが始まった。


「踊っていただけますか?レイチェル・リンドバーグ嬢」


「喜んでクリス・ロイド様」


にこやかで穏やかな二人の社交界のデビューはこうして幕を開けた。


レイチェルが着ていたまだ見たことがないないドレスが、流行に目ざとい貴婦人達の話題となり、囲まれてしまうのはその後直ぐのことだった。







読んでいただきましてありがとうございます! やっと貴族令息らしい褒め言葉が出るようになってきた

クリスです。

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