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異世界から令嬢を持ち帰ってしまった件  作者: シュミ


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9/9

取り引き

 学校が終わり、俺はリーシャと共に店を回っていた。


「リーシャどういう物が売れると思う?」


「そうですね。紙は絶対に売れると思います。いくらあっても困りませんから」


「そうか」


 リーシャは棚にあるペンを見て、何だか嬉しそうに俺の方を見てきた。


「これ! 向こうでも使った事があります! すごく書きやすくて気に入ってたんです。ただ他にも気に入ったからが大勢いた結果、在庫不足であまり見なくなってたんですよ。まさかこれもこちらの世界の物だったなんて」


 ボールペンか。

 携帯がない向こうの世界でのやり取りは紙が多いだろう。そうなれば当然書くことも増える。在庫不足になるほど人気だったということはそれだけ需要があるという事。いいな、これも買おう。


 リーシャの反応を見るに、思ってたよりかは売れそうな物が多いな。

 黒の商人という存在が定着しているから、てっきりこちらの世界の物はほとんど売り切っていると思っていた。

 だがよく考えたらまず向こうに行ける人自体そこまで多くないし、その中で商人になる人なんて限られてるもんな。

 それでも名が広がるって事は、それだけこちらの世界の技術が目の見張るものなのだろう。


 そうしてリーシャと財布と悩んだ末、購入したのは以下の通りだ。


 コピー用紙、二千枚


 ボールペン、五百本


 これだけ買っても10000円も掛からなかった。

 ホームセンターと100均にはこれからもお世話になりそうだ。


 それにどれだけ重たくてもインベントリに預ければ良いので無茶できるのもありがたい。


 後は、確認だな。


 俺達は家電量販店に向かい、カメラを見る事にした。


「この中に見た事あるやつはあるか?」


「そうですね⋯⋯⋯⋯⋯⋯。あっ、これですかね」


 やっぱそれだよな。

 証拠を紙で見せられたという時点で、何となく察しは着いた。向こうには現像するためのコピー機なんかないからな。


 撮ってその場で現像できるタイプのカメラ───

「チェキか」


 だがこれで少し分からなくなった。

 普通のカメラが流行っていれば、現像している奴が必ず居ることになる。現像するということは、撮った写真を見れるということ。都合の悪い写真を他人には見せないだろう。であれば現像出来るやつ───つまりはこちらの世界の人間が犯人だとほぼ確定できる。


 だがチェキならフィルムを売り付けているだけの奴って可能性もある。


「なあ。チェキの充電が切れたらどうしてたんだ?」


「充電⋯⋯⋯⋯?」


 知らないのか。


「使い続けてたら付かなくなるだろ?」


「そうなったらみんな捨ててたと思います。壊れるのが早いな、とはなっていましたよ。それもあってか貴族内でしか流行らなかったんです。お金を持ってないと次が買えませんから」


「なるほどな」


 勿体ないことをするものだ。

 持ち込んだ商人もわざとやっている気がするな。初めからリーシャを嵌めるためなら、わざわざチェキを広める必要は無い。写真という存在さえ認識させてしまえば、それが証拠に使えるとすぐに分かる。

 おそらくそれを狙って持ち込んだのだろう。


 となると、やはりこちらの世界の人間が事件関わっている可能性は高いな。


 商人マリオネット。その女はどちらの世界の人間なんだろうか。



 ※



 俺たちは自宅に戻り、早速異世界に向かった。


 ルナの案内でデニムにあるカール商会という場所に来た。


「黒の商人が最初にここを訪れる回数が一番多いと噂されているんですが、原因はなにか分かりますか?」


「それは⋯⋯⋯⋯多分、女神のせいだ」


皆考えることは同じって訳だ。


「じゃあ行くか」


「そうですね」


 俺はドアに手をかける。

 開ける前に一つ気になり、ルナの方に振り向く。


「⋯⋯⋯⋯⋯なぁ、サングラスとかふざけたもの付けて入っても怒られない?」


「それは大丈夫だと思いますよ。商会の人は金にしか興味ありませんから」


ナチュラルに悪口を言うルナ。


「そ、そうか」


ルナの言葉を信じ俺たちは中へと入った。


 すると髭ズラのおじさん──カールさんが出てき、応接室のような所へ通された。

 ルナの事は全く触れてこなかった。

どうやら大丈夫のようだ。


 俺は挨拶も早々にコピー用紙とペンを机に出した。


「(やはり黒の商人でしたか。久々に会いましたね)」


 カールさんは小声でそんなことを言った。


 久々に見たって事はやっぱりデニムに同じような奴がいるわけか。これはいい情報を持っていそうだ。


「紙が千枚にボールペンが二百五十本! ⋯⋯⋯⋯良いでしょう。買い取らせて頂きます」


「ありがとうございます」


 取り引きは思ったより直ぐに成立した。

 100均に売っているような安物でもこっちの世界の物よりは質がいいのだろう。


 横に座っているルナが俺の方にドヤ顔を見せてき、親指を立てた。


 俺も小さく親指を立てる。


「アマネ様、20万ラーツでどうでしょうか?」


 2、20万───。

 何ヶ月分のバイト代だよ。

うわぁ⋯⋯⋯何かダメなことしてる気分。


「は、はい。も、もちろんです」


 10000も掛かっていないのに20万円に増えた。まるで危ないギャンブルに勝ったと思えるほど夢のような状況に俺は正直震えが止まらなかった。


「アマネ様の住む国には他にもこういった便利な物があるのですか?」


「そうですね。こちらに無いものでしたら他にもあると思いますね」


「そうですか⋯⋯⋯やはり不思議ですね。アマネ様のような方たちを我々は黒の商人と呼んでいるのですが、持ってきて下さったものは必ずと言っていいほど便利な物で人気な商品ばかりなんです。一体どうすればこんな物を作れるのでしょうか⋯⋯⋯⋯」


「それは⋯⋯⋯⋯秘密にさせてもらいます」


 俺もそれは知らん。

多分この質問、他の奴にもしたんだろうな。

売り目的だから技術とかないし、誰も答えられなかったんだろう。


「他にも魅力的な商品がございましたら、どうぞうちを頼りにしてください」


「分かりました。あっ、そうだった。一つお聞きしたいことがありました」


「何でしょうか?」


「ある一人の商人についてです」


「なるほど。⋯⋯⋯⋯⋯ですがアマネ様、他の商人の情報をお渡しするのは私としても少し───」


予想通りの返答だな。

金にがめつい商人がタダで何かを与えるなんて有り得ない、とルナが言った。

確かにと納得した俺はある作戦を立てた。


それがこれだ───

「ここにさっきと同じ数の紙とボールペンがあります。もし質問に答えてくださるのでしたら、15万⋯⋯⋯いえ、10万で差し上げましょう」


名ずけておまけ作戦だ。


利益しか見えていない商人なら、これに乗るはずだ。


するとカールはニヤリと笑みを浮かべた。


「⋯⋯⋯⋯それで、知りたい商人の情報とは何でしょうか?」


「契約成立ですね。では質問の方を───マリオネットという商人をご存知ですか?」


「ええ、もちろん」





「彼女は商人として凄まじい勢いで成り上がっていきましたから記憶に残っております。そんな彼女も始まりはここなんですよ」


カールは自慢げにそう言った。


始まりがここね。

()()()()()()()()()()()()()()()が。


「彼女の特徴は?」


「綺麗でよく手入れされている赤い髪と宝石のように輝く紅い瞳のべっぴんさんでしたよ。そりゃあもう、ものすごく」


ルナの言った特徴と当てはまるな。

その特徴は元々の色か。もしくは染めたものか。


「彼女が売りに来たものは黒の商人のものと似ていましたか?」


「ええ、その通りです。なので驚きました。茶髪に黒目程度の違いでしたら稀に見たのですが、彼女ほど完全に特徴から外れていた方は初めて見ましたから」


黒の商人と完全に特徴が離れている辺り、少しは意識してやっている気がする。

変装した現実世界の人間という可能性も高いな。


後は名前か⋯⋯⋯⋯⋯マリオネット。操り人形。

やはり少し引っかかる。

ここにも何か意図があるような⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

そうだ! 単独犯である確証はないんだ。

商人は異世界人だけど、売り出す商品を持ってくる現実世界の人間が裏で関わっているというのもある。

その商人は現実世界の人間に操られているから、マリオネットと名ずけられた。

もしくはそう誘導するためにわざとその名前にしたか。

あるいは単純にその異世界人の名前がマリオネットだっただけか。

現実世界の人間が偽名でそう名乗っているのか。


ダメだ。選択肢が増えてややこしい。

名前から意味を見出そうとするのはやめよう。

とりあえず異世界人と現実世界の人間の共犯の線で考える事にするか。


マリオネットの目的は商売ではなく、多分王子に近づくことだ。


「マリオネットは物を売る以外でカールさんに求めた事とかありましたか?」


「求めた事ですか。⋯⋯⋯⋯他の商会や貴族とのパイプを繋げて欲しいと言われましたね。アマネ様のようなやり方で釣られてしまいまして⋯⋯⋯⋯。それと彼女、凄まじい話術を持っていましたね。誘惑が上手いというのか、魅力があるというか。何だか話している内にまるで恋をしたかのような感覚になって、色々話し込んでしまったのを覚えています」


「⋯⋯⋯⋯そうですか」


女の武器を使ってエロジジイをたぶらかしたわけか。

手段を選ばない敵ってところだな。

厄介だ。


「その貴族ってのは教えて頂けますか?」


「教えるくらいでしたらいいでしょう。この街の領主でもあるジールス・ビーネット公爵です」


「ジールス・ビーネットか」


「ジールス公爵様は非常に厳格な方でして、気に入られるには相当な努力が必要となります。ただの商人では普通、話すことも出来ないはずなのですが、マリオネット様はきっとあの巧みな話術でジールス公爵様をおとしたのでしょうね」


なるほど。

そうやってマリオネットは成り上がり、王子の元までたどり着いたというわけか。





「質問に答えて頂き、ありがとうございます」


「いえいえ、今後ともご贔屓にして頂ければ十分でございます」


そうして俺たちはカール商会を出て、自宅へと戻った。


「リーシャ、カールの言葉に嘘はあったか?」


「いえ、特にありませんでした」


そこは商人だな。金さえあればなんでも吐く。


「そうか。じゃあジールス・ビーネットに関しては何かわかるか?」


「ジールス公爵の事はそこまで知りませんが、ビーネット公爵家の事についてなら少し知っています。あの家は、代々、希少とされている称号【治癒ヒーラー】を排出しています」


「【治癒ヒーラー】か。医師的な立場なのか?」


「確かにそういう側面もあります。ただ病気を治すと言うよりかは外傷を治すというのを主にしています。というのもあの家が売り出しているのは回復薬やバフ系の薬なんです。あの街の領主というのも冒険者が多くいる場所のため、怪我人は良く出ます。その治療にあの家の回復薬が使われるんです」


「つまりは街だけで稼ぎ放題って訳か」


「そういう事にはなりますね」


マリオネットはそんなところに何を売ったのだろうか。


「リーシャ、回復薬ってデニムのどこに売ってるんだ?」


「確か⋯⋯⋯⋯エリス薬店という店で販売されていたと思います」


エリス。

どこかで聞いたことあるな。



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