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異世界から令嬢を持ち帰ってしまった件  作者: シュミ


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5/9

買い物

 カーテンから差し込む光に俺は目を背ける。

 スマホから鳴り響くアラームを止めようと手を伸ばす。


 ゴトン。


「痛い⋯⋯⋯⋯」


 ソファーで寝ている事を忘れていた俺は地べたに落ちてしまった。


 二度寝したい気持ちをグッと抑え、俺は起き上がる。


 朝の9時、疲れが溜まっていたのかまだ寝足りないくらいだ。

 でも買い物を行くためにもこれ以上は寝ていられない。


 リーシャは起きてるかな?


 俺は寝室へと足を運ぶ、閉めていたはずのドアが半開きになっていた。


 コンコン、と一応ノックをし、中に入った。


 そこにはベットに座り真剣な表情で漫画を読んでいるリーシャの姿があった。

 読んでいるジャンルは学園ラブコメだ。


「おはようリーシャ」


「わっ!? おはようございますアマネさん」


 夢中になって漫画を読んでいたリーシャは俺が入って来た事に気づいてなかったらしい。


「アマネさん、この書物すごく面白いですね」


「おっ、分かるのか。⋯⋯⋯⋯って文字読めるの?」


「はい、読めますね。⋯⋯⋯⋯なんで読めるんでしょうか?」


 もしかして<召喚・帰還>の影響で<言語理解>がついたのか? シェリアが自動的につくとか言ってたから、その可能性はあるな。


「読めるなら良かったな。暇つぶしにはなるだろ。でもどうして漫画なんか読もうと思ったんだ?」


「えっと⋯⋯⋯⋯目が覚めたら知らない部屋にいて、びっくりして、ドアを開けたらアマネさんの部屋だった事を思い出したんです。それでアマネさんが寝ているのが見えたので、今のうちに何か手伝おう、と思ったのですがお掃除をしようにもほうきが見つからず、ご飯を作ろうにもキッチンの使い方が分からず、迷惑をかけないためにこの部屋に戻ったんです。それでこの書物をみつけ、何か知れる、と思い読み始めたら夢中になってしまって⋯⋯⋯⋯」


 ここまでの過程を細かく説明してくれた後、勝ってに読んですみません、と続けリーシャは頭を下げた。


「アマネさんの家にお邪魔しているので何かお手伝いをしたかったんです⋯⋯⋯⋯」


「そっか、ありがとう。でも使い方はそれには載ってないから俺が教えるよ」


「ありがとうございます⋯⋯⋯⋯」


 少し頬赤らめてそう言うリーシャ。


「じゃあ、とりあえず朝ごはんにするか」


「はい!」


 リーシャは漫画を棚にしまい俺の方に歩いてきた。そのままリビングへと向かい、俺はキッチンに入った。


「どうかした?」


 リーシャもキッチンに入ってきていた。


「私も手伝います!」


「そっか、じゃあこのパンを焼いて欲しい」


 俺は食パン二枚を出し、リーシャに渡した。


「このオーブントースターってのに入れて摘みを2のところまで回して」


「分かりました!」


 リーシャは真剣な表情をしてオーブントースターにパンを入れ、ゆっくりと摘みを2の方まで回した。


「出来ました」


「ありがとう。じゃあちょっと待ってて」


 俺はその間に取り出した卵とウィンナーをフライパンで焼いた。


「リーシャ、皿出してくれる?」


「はい!」


 リーシャは棚から二枚の皿を出してくれた。


 オーブントースターから焼けたパンを取りだし、皿に盛る。目玉焼きとウィンナーも添えて完成だ。


「オーブントースターでしたっけ? 凄く便利ですね!」


 近代の文化に触れ、リーシャは少々テンションが上がっているらしい。


 テーブルに座り、ご飯を食べ始める。


「いただきます」


 俺がそう言って手を合わせると、リーシャも真似して「いただきます」と言った。


 朝ごはんを食べ終え、俺達は外に出る支度をした。


「悪いな。男物ばっかで」


「いえ、そんな事無いです。ドレスより着やすいので私は好きです」


 そう言って優しい微笑みを見せるリーシャ。


 そうして俺達は揃って部屋を出た。


 エレベーターの前に着き、ボタンを押す。


「アマネさん、これは何ですか?」


 そう言ってエレベーターを指さすリーシャ。


「エレベーターって言って、行きたい階まで運んでくれるんだ」


「へぇ〜⋯⋯⋯⋯」と漏らし興味津々な様子。


 エレベーターが7階に着き、俺達は乗り込んだ。


 そうして数秒で1階に着いた。


「す、凄い⋯⋯⋯⋯ほんとに着いてます」


「だろ」


 俺が作った訳でもないのに何故かドヤってしまった。非常に痛いヤツである。


 マンションから出て近くの駅へと向かう。

 それまでの間、横を通る車にリーシャは驚いていた。


「あれはどういう原理で走ってるんですか?」


 原理か⋯⋯⋯⋯。

 俺も詳しくは知らないな。


「えっと⋯⋯⋯⋯ガソリンていう燃料を燃やして車輪を回してるんだ。リーシャのいた国にも走ってただろ、二足歩行の───」


「竜車の事ですか?」


「そうそう、その竜の部分をエンジンってのにしたのが車だ」


「なるほど、一度乗ってみたいです⋯⋯⋯⋯」


 小さな声でそう漏らすリーシャ。


「あっ、すみません。欲を漏らしてしまって───」


「良いよ。でも悪いな、俺の年齢じゃあれは運転出来ないんだ。似たようなのがあるから今度乗ろうな」


「あ、ありがとうございます⋯⋯⋯⋯」


 頬赤くしてそう言うリーシャ。


 そんな会話をしている内に俺達は駅に着いた。

 俺は定期があるがリーシャは無いので切符を購入した。


 直ぐに電車が来たので俺達は乗り込んだ。


「この世界の乗り物は不思議ですね。私の住んでいた世界とは比べられないほど速いです」


「確かに移動面は楽だな。いつも助かってる」


 電車の窓から外の風景を見つめるリーシャが幼い子供のように見えた。


 電車を降り、近くにあるショッピングモールに入った。


 すれ違う人達がチラリとリーシャに視線を向ける。きっと銀色の髪が珍しいから見ているのだろう。超絶美人てのもあるけど。

 リーシャもそれを少し気にしているらしい。


「私の髪色、こっちの世界だとすごく目立つんですね」


「そうだな。あんまり見ない色だからな。⋯⋯⋯⋯もし気になるなら髪を染めるのも買えるがどうする?」


 こちらの世界は安全だとしても今のリーシャにとって人目はストレスになるだろう。対策できるならしてあげるべきだ。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 リーシャは悩んだ顔をしていた。


 気持ちはわからなくもない。

 自分の髪色を気に入っているのに染めたいなんて思うはずがないしな。


「⋯⋯⋯⋯一応買っておくから気が向いたら使ってくれ」


 買っておいて損は無いだろうしな。


「すみません⋯⋯⋯⋯」


「謝らなくていいよ」


 俺は黒色のヘアカラーを買った。


 その後、洗顔や歯ブラシといった日用品や靴なども購入した。

 それに伴って俺の財布が寂しくなって来ていた。


 それにしてもリーシャ、昨日とは見違えるほどに笑顔を見せてくれるようになったな。俺の事を信用してくれているのだろう。

 嬉しい事だ。


 買ったものは全てインベントリに預けた。

 荷物を持たなくていいのは非常に楽だ。


「これで買い物はだいたい終わったな」


「そうですね」


「リーシャお腹すいてるか?」


「はい。ペコペコです」


 買い物が終わった俺達はフードコートに行く事にした。

 少し時間をずらした事で席は普通に空いていた。


「リーシャは何食べたい?」


「えっ、何でもいいんですか?」


「ああ、何でも良いぞ」


「それでしたら⋯⋯⋯⋯あの、うどんと言うものを食べてみたいです」


「分かった」


 そうしてリーシャのうどんを買い、俺はラーメンを買った。


「「いただきます」」


 俺はラーメンを啜る。


 やっぱりここのは美味いな。


 リーシャは箸を持ったまま首を傾げていた。


「そういえば箸使えなかったな」


「すみません。どうやって使うのか教えて頂けませんか?」


 少し頬赤くしてそう言うリーシャ。

 周りの人達が普通に使っており、自分だけ使えないのが恥ずかしいのだろう。


 俺は箸の使い方を説明した。

 意外と扱うのが難しいので正直フォークを貰いに行った方が早いと思ったがリーシャは教えただけですぐ使えるようになった。


 器用だな。


 俺がそんな事を思っている間にリーシャはうどんを啜っていた。


「美味しいです」


「そっか。なら良かった」


 それにしても幸せそうに食べるな。

 まるで、今までちゃんとしたご飯を食べてなかったみたいだ。


 昼飯を終えた俺達はショッピングモールを後にした。



 ※



 家に帰った後、俺は異世界に行く準備をしていた。


「デニムに行くんですか?」


「ああ、女神との約束を済ませないといけないんだ」


 お腹も空いていないので今のうちにクエストを進めておこうと思った。


「女神⋯⋯⋯⋯⋯そうなんですか」


「ああ。だからしばらく待っててくれ」


「分かりました。ではその間にお掃除をしておきます」


「じゃあお願いするよ。雑巾は洗面所にあるから」


 汚さないように気をつけてはいるけど細かいところまではやっていなかったから正直助かるな。


「了解です!」


「じゃあ行ってくるよ」


 俺はリーシャにそう言った後「召喚」と口にした。


 10のカウントが終わり、発動した。



 ※



 冒険者ギルドの前か。

 <帰還>を使ったところでセーブされるんだな。


「あ、あの。アマネさん⋯⋯⋯⋯」


 聞き覚えのある声が聞こえ、俺の肩を叩いてきた。


 俺はその声の方に振り向く。


「リーシャ。⋯⋯⋯⋯リーシャ!?」


 まずい───。

 俺は咄嗟にリーシャの着ているパーカーのフードを被せ、彼女の顔を隠した。


「どうして私もこっちに⋯⋯⋯⋯?」


 状況が読めず戸惑うリーシャ。


  『俺の一部として』あの言葉に俺はものすごく嫌な予感がしていた。

 だがまさか本当に起こってしまうとは。


 くそっ、最悪のバグだ。

 リーシャが俺の一部という判定を受けて共に召喚されるなんて。


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