表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
料理の巨匠、ダンジョンで魔物メシを提供する ~危険地帯で屋台を開いた結果、冒険者の胃袋を掴んでしまいました~  作者: 絢乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/16

011 マンドラゴラの天ぷら②

 次の日――。

 朝、俺はアリスとミャオを率いてダンジョンに入った。

 順調に進み、地下10階に到着したのは昼前の頃だ。


「いやー、改良された屋台は快適だにゃ! 昨日よりも大きくなったとは思えないにゃ!」


 セーフティゾーンに着くと、ミャオがリアカーから離れた。


「シズルの工房は今回もいい仕事をしてくれたな」


 俺は腕を組み、リアカーを眺める。

 追加の荷車が2台も連結されたことで、積載量が三倍になっていた。

 新たな荷台には野営道具のほか、予備の調味料などを積んでいる。


 それでも軽く感じるのは、リアカーや荷車を魔導具にしたからだ。

 おかげで、電動アシスト自転車のような快適性が手に入った。

 少し押しただけで、すいすいと滑るように動くのだ。


 もちろん、こうした改良には結構な費用がかかった。

 数日かけて貯めた550万円を丸ごと持っていかれたのだ。

 おかげで今の俺は無一文に近い素寒貧である。


「――というわけで、作業分担だ。ミャオは屋台と野営の準備をすること。仕込みは俺が担当する。言っておくが、ミャオ、食材には触れるなよ。盗み食いは素振りを見せただけでもギルティだ」


「にゃ!? にゃハハ……盗み食いなんて、ミャオはそんなことしないにゃ。大将、人聞きが悪いにゃァ……!」


 俺は「どうだかな」と笑った。


「シュウジさん、わたくしはどうすれば?」


「アリスはいつもどおり魔物の乱獲を頼む。できれば、マンドラゴラを多めに集めてくれると嬉しい。今日の看板メニューにしたいし、余ったら売って売上の足しにする」


「かしこまりました! それでは、行って参りますわー!」


 アリスは抜刀し、剣を振り回しながら走り去っていく。


「道に迷うなよー!」


「地図があるので大丈夫ですわー!」


 全くもって信用ならない返事だが、大丈夫だと信じよう。


「大将、マンドラゴラの乱獲は難しいのではないかにゃ?」


「その点は問題ない。アリスは方向音痴以外は概ね完璧だからな」


 ミャオの言うとおり、マンドラゴラの乱獲は難しいとされている。


 マンドラゴラが非常に繊細な魔物だからだ。

 地中から引き抜こうとすると、強烈な悲鳴を上げる。


 この悲鳴が厄介だ。

 聞いた者を即死させると言われているが、現実には叫んだ本人が死ぬ。

 しかも、そうして死んだマンドラゴラは即座に腐って使い物にならない。


 だが、アリスには関係なかった。

 土魔法で地面を操り、抜く前にマンドラゴラを仕留めるからだ。

 そのため、彼女はマンドラゴラの乱獲に何ら苦労しない。


「大将、準備できたにゃ!」


「お疲れさん。水分補給を済ませたらアリスの補助に行ってくれ。荷物持ち兼ナビゲーターとしてな」


「大将は人使いが荒いにゃー! ところで、ナビゲーターとはどういう意味にゃ?」


「アリスは極度の方向音痴なんだ。だから、ミャオがここまで案内してくれ」


「そういうことにゃ! それなら任せるにゃー!」


 ミャオは敬礼すると、籠を背負って走り去った。

 驚いたことに、アリスが消えたのとは全く違う方角に消えていった。

 いや、違うどころではない。真逆だ。


「おいおい、あいつも方向音痴なのか……?」


 俺は苦笑いを浮かべ、仕込みを進めた。

 道中で手に入れた魔肉に串を刺していく。

 肉と肉の間には、長ネギに似た野草を挟む。

 人気メニューの一つ〈ダンジョンねぎま〉だ。


「レッドボアの角煮も準備しておかないとな」


 俺は食材庫を開け、吊しているレッドボアの魔肉を取りだした。

 地下1階を通過する際に調達したもので、不要な部位は除外してある。

 あとは一口サイズに切って圧力鍋にぶち込むだけだ。


「大将! ただいまにゃー!」


 仕込みに励んでいると、ミャオが帰ってきた。

 意外なことにアリスも一緒だ。

 二人は大量のマンドラゴラを持っていた。


「わたくしとしたことが、うっかり道に迷ってしまいましたの。ですが、ミャオさんのおかげで戻ってこられましたわ!」


「うっかり迷うってレベルじゃないと思うが……」


 とにかく、ミャオを派遣したのは正解だったようだ。


「それにしても、ミャオはよくアリスの場所がわかったな」


「ふっふっふ! ミャオは鼻が利くにゃ!」


「猫ではなく犬だな……」


「失敬にゃ! ミャオは立派な猫人族にゃー!」


「まあ、実力があるのはわかった。迷子のアリスを迅速に発見できるなら、それだけで雇った価値があるというものだ」


 ミャオは「にゃっはっは!」とドヤ顔で腕を組んだ。

 それから、俺の作業を見てカッと目を見開いた。


「大将の手つき、半端ないにゃ!」


「ん? そうか?」


 俺は喋りながらレッドボアの肉塊を切り分けている。


「ミャオですら目で追えないスピードで、しかも手元を一切確認していないにゃ!」


「それだけではございませんわ! 見てください、あの多彩な動き! 複数の作業を同時に進めていますわ!」


「うちのメニューは豊富だからな。その分、仕込みの幅も広がるわけだ」


 今は俺たちしかいないが、他の冒険者が来るのも時間の問題だ。

 階層によってラッシュの時間帯が異なるものの、基本的な考え方は変わらない。

 目的の階層へ行く道中か、もしくは特区へ戻る道中に立ち寄る。


 俺がメインにしているのは帰り際の冒険者だ。

 時間帯でいうと、昼過ぎから夕方までが忙しくなる。


「基本の仕込みはこれで十分だろう。あとは二人が持ち帰ったマンドラゴラだな」


「大将、マンドラゴラでどんな料理を作るにゃ?」


「わたくしも気になりますわ。先日は苦労されていたようですが……」


「シンプルに天ぷらでいこうと思う」


「「天ぷら!?」」


「昨日、葉の部分をおひたしにしたり、本体を細かく刻んで()え物にしたりと試したんだが、どれもパッとしなくてな」


「ですが、天ぷらとなれば素材の味がダイレクトに伝わる……和え物よりも厳しいのではありませんの!?」


「そう思ったんだが、これが予想以上にいい感じに仕上がったんだ。下処理が必要だけどな――ん?」


 話していると、二組の冒険者パーティーがやってきた。


 総勢10人。

 揃いも揃って泥だらけの傷だらけだ。

 激しい戦いの後であることが一目でわかった。


評価(下の★★★★★)やブックマーク等で

応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ