辺境への旅 2
王都から一歩離れると、露店が増える。
「すごい……」
「原始的な魔法が使われているからな」
王都の店は魔道具で動いているが、露店は魔法が使える者が商いをしている。
氷の魔法が使える者は、冷たい飲み物を売っている。
炎の魔法が使える者は、肉をじゅうじゅう焼いている。
彼らが魔法を使うたびに、魔法陣が浮かぶ。
魔法ごとに色が違うから、赤に青にとてもにぎやかだ。
「さて、食べたいものは食べたか?」
「ええ……お腹いっぱい。こんなに美味しいものがたくさんあるのね」
貴族の料理は豪華だが、露店の料理は豪快で何もかもが美味しかった。
エルミナはすっかり食べ過ぎてしまった。
けれど窮屈なドレスと違い、学者らしいワンピースは軽やかでいくらでも食べられそうだ。
「君は……今でもそんなふうに笑うんだな」
「レオン様?」
「君を巻き込みたくないとばかり考えず、もっと早く連れ出せばよかった」
そう言ってレオンは笑った。
それは、幼い頃に見た彼の笑みと同じものだった。
エルミナは、懐かしさに鼻の奥がツンッと痛くなった。
「さあ、手をどうぞ」
「――レオン様?」
「抜け出してきたから……」
レオンの手を掴むと、二人の足元に難解な魔法陣が浮かぶ。
これほど詳細に魔法陣を描くことができるのは、レオンのたゆまぬ努力の賜物であろう。
しかし、努力だけではどうにもならない部分がある。
生まれ持った魔力の種類と量だ。
全属性の魔力を持つレオン。
こんなに大きな魔法陣に魔力を込めたなら、一般の魔術師であれば途中で気を失ってしまうだろう。
だが、レオンは瞬時に魔法陣に魔力を込め起動させた。
「君と一緒なら、旅もきっと楽しいだろう」
「レオン様? きゃ!?」
魔法陣が描かれた部分に大きな落とし穴が生まれた。
地面が消えて、奈落に落ちていく。
レオンがエルミナの体をグッと引き寄せた。
年下で泣いてばかりいた弟みたいなレオン。
しかし、彼の腕の力はエルミナが思うより余程強かった。
そんなことを思っているうちに、見慣れぬ景色が広がり、エルミナの足元には再び地面が現れた。
侍女フィルをあの街に置いてきてしまったことだけが気がかりだが……彼女はエルミナの護衛を兼ねている。
すぐに追いついてくることだろう……。
「おや、殿下……皆で探していたのに、まさか女性とご一緒だったとは」
低い声からは、こちらへの敵意が感じられる。
だが、レオンが向かった先であれば、周囲にいるのは彼の護衛のはずだ。
エルミナは呆然としながら周囲を見渡した。
「……彼女は俺の婚約者、シュラエ侯爵令嬢だ――頭が高い」
レオンの声は冷え冷えと周囲を凍てつかせるようだ。
魔力の波動を感じた直後、レオンとエルミナを取り囲んでいた護衛たちは、急に体が何倍も重くなってしまったように地面にひれ伏していた。
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