スライムと婚約破棄 3
「陛下の命により、シュラエ馳せ参じました」
「ああ、よく来たな。シュラエ侯爵並びにエルミナ嬢」
「王国の太陽にご挨拶申し上げます」
淡い紫の瞳に合わせた紫のドレス。王城に入ってからも、陛下の御前でも、エルミナは美しく優雅であった。
「……此度は息子がすまなかったな」
「いいえ、全て私の不徳によるものでございます」
誰もが急に婚約を解消されたエルミナを不憫に思った。しかし、実際はエルミナの魔獣好きが招いたことだ。
「しかし、魔獣なぁ……」
国王は彼女が魔獣好きであることを知っている。そして彼女の能力も理解していた。
「して、そなたが魔術院長に渡した本であるが」
「ええ……ご覧いただけましたでしょうか」
古びたその本には先々代シュラエ侯爵の蔵書印が押されていた。
彼は魔獣に興味を示し、当時の国王陛下の友人であると同時に、王立魔術院の設立に尽力したことでも知られている。
だからこそ、彼は特別な本を所蔵していたのであろう。
「図書室の奥から出てきたとのことだが」
実際はエルミナが幼い頃に見つけたものだが……黙っていればわかるまい。この本を読むうちにエルミナはますます魔獣学に傾倒するようになったのだ。
「まさか、魔獣の素材がここまで使える物だとは。……真であれば王国の食、医療、武器。何もかもが大きく飛躍するだろう。それに紫色のスライムであったか? 傷の治りを早めるとは真か」
「ええ、ご覧ください」
エルミナは大きく頷き、そして立ち上がった。そして、止める間もなく自身の指先をブローチの針先で傷つけた。そして、首からさげて隠していた小瓶の蓋を開ける。
瓶の液体がかかると淡い紫の光を帯びて、エルミナの傷は綺麗に消えた。
「ここまでとは……」
「大きな傷であれば治癒を早める程度です」
「いや、見事な発見だ。褒めて使わす」
陛下の言葉にエルミナはもう一度優雅に礼をした。そして鈴が鳴るような声でこう言った。
「このたびの婚約解消は全て私に非があります。どうか、魔獣の研究のため辺境に行くことを命じてくださいませ」
「しかし……」
国王は口ごもった。辺境は危険な場所なのだ。
「私の研究はこの通り国のお役に立ちます。それに……辺境には第三王子殿下がいらっしゃいます」
――エルミナはレオンが辺境に行くと聞くまで、自ら行こうとまでは考えていなかった。
エルミナにとって三歳年下のレオンは、弟のように大切な存在だ。
後ろ盾のない彼は、最低限の供しか連れていかなかった。
しかし、エルミナの生家であるシュラエ侯爵家が後ろ盾になれば話が変わってくるはずだ。
「……なるほど……面白い」
「……」
「エルミナ・シュラエには度重なる第二王子への不敬の咎として辺境で魔獣研究の任に就くことを命じる。だが、今日この日までの王国への貢献も素晴らしいものであった。よって第三王子レオンと婚約するが良い」
「謹んでお受けいたしますわ」
国王の命じたことである……父も否やとは言わなかった。こうしてエルミナは、レオンを追いかけることになったのだった。
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