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魔獣学者エルミナの手記  作者: 氷雨そら


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辺境 3


「それにしても、ウォルターさんがそんなに偉い方だったなんて――あっ、ウォルター様とお呼びした方が?」


 エルミナの言葉に、ウォルターは苦笑いした。


「辺境では一番強い人族長になる」


 アランが辿々しい口調でそう言った。

 

「そうなのね……ということは、一番お強い」

「そう思っていたが……上には上がいるものだ」


 ウォルターの視線の先には、レオンがいる。

 彼が強いことは知っていたが、強者が集うという辺境ですらトップクラスの力を持つことを知ってエルミナは驚いた。


 ――後ろ盾の高位貴族を持たない以外、レオンは完璧なのだ。

 魔獣好きであることが災いし、第二王子と婚約解消することになったエルミナと違い……。


「強くなければ生き残れない。だが、シルフ卿は俺の魔術など跳ね返すことができただろう?」

「……それはどうでしょう。魔力はそれほど強くありません」


 ウォルターは、曖昧に笑った。

 そういえば、彼の見目は出会ったときのようにボサボサしたものに逆戻りしてしまった。

 どうせ、魔獣との戦いになれば髭を剃る時間などない。と言うのが彼の言い分だ。


「ところで、本当に俺のことを直属の騎士にするおつもりなのですか?」

「――もちろん。この地に墓標を立てることになるかもしれないが、そのときにエルミナを助けてくれるものが必要だからな。幸い金を使う暇もなくたまるばかりだ、給金ははずもう」

「……たった三年生き延びればいいだけのことです。あなた様は王都に帰るのですよ」

「居住区域ならいざ知らず、この地の前線で三年生き延びることの難しさは、貴殿ならよく知っていることだろうに」


 エルミナは、レオンとウォルターの表情を交互に見た。

 レオンは覚悟を決めているようだし、ウォルターは否定する言葉を見つけられないようだった。


 ――魔獣との防衛線。そこに行けば高位の魔獣が多く生息するだろう。

 だが、戦う術を持たないエルミナがその場所に行けば、間違いなく足手纏い。

 現状のところは、居住区域で暮らしながら、捕獲された魔獣の研究をすることになるだろう。


「――でも」


 エルミナはレオンの前に歩み出た。

 彼を見上げる。三歳年下のレオンは、いつもエルミナよりも小さかった。

 だから、知らぬうちに彼のことを守らなくてはならないと思っていたが……。


「レオン様」


 エルミナはレオンの手を引いた。

 背だけでなく手もエルミナより遥かに大きくなっている。

 ほんの少しだけ、胸が高鳴った。


 魔獣の研究をするときの高揚とは違うこの気持ちの名前をエルミナはまだ知らない。


「どうした? 君が必ず無事に帰れるようにするから心配な……え?」


 それは無意識の行動だった。

 エルミナはレオンに抱きついていた。

 この手を離してしまったら、どこかに行ってしまいそうで怖かったのだ。


「一緒に……帰りたいです」

「エルミナ」

「レオン様がいなくなったら私」


 エルミナはそこまで口にして顔を上げた。

 そこで周囲の視線が全部こちらに向いていることに気がついた。


 それは悲しいだろうか。いや、そんな言葉では言い表せない。つらくて、怖くて、彼がいなくなった未来なんて考えられそうもない。


 ――大好きな魔獣研究ができなくなったらつらいが、それでもエルミナは生きていけるだろう。


 でも、もしもレオンがいなくなったらどうだろうか。


 大事な人なのは間違いない――それでもエルミナは言葉の続きをまだ見つけることができていない。


 エルミナはレオンから離れようとした。

 しかし、抱きしめ返してきた腕の力は思った以上に強く、エルミナはレオンの腕の中から逃れることができなかった。

 

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