辺境 2
宴は夜中まで続いた。
王都では見かけない曲がった剣と華やかな剣舞。
振る舞われる強い酒。ただし、この地では酒を飲んでいいのは二十歳から。
レオンとエルミナはまだ飲めないので、牛形魔獣の乳が出された。
「わあ! 美味しいです」
注がれた飲み物が魔獣のミルクであると聞いた途端、エルミナの目が研究者のそれになった。
「もしかして、このミルク魔力が含まれていますか?」
「そのようだな」
「やっぱり……レオン様、大丈夫ですか?」
「……そうだな、それほど魔法や魔術を使ってないから魔力があふれそうだ。少し発散するか」
エルミナが心配するのも無理はない。
レオンは魔力が強い。
彼は魔力を貯める器も大きい。
だが、過ぎたる魔力は人の体には有り余る。
幼い頃、成長に伴って増える魔力量に器の成長が追いつかず、彼は何度も熱を出し死にかけた。
魔力があふれて暴発したらいけないと、エルミナは近づくことを許されず心配のあまり自室で泣いた。
彼の母が亡くなってから、どう過ごしていたかエルミナは知らないが……。
魔力を使い切ったときならいざ知らず、外部から魔力を取り入れれば、レオンの体に負担がかかるだろう。
「魔力があふれないように消費がてら、歓迎への返礼といこう」
レオンの体を白銀の光が取り巻いた。
その美しさにエルミナだけでなく皆が見入った。
魔力に引き寄せられたのか、金色の光を帯びた細長い虫がフワフワと宙を飛ぶ。
打ち上がった魔力が上空で爆ぜる。
まるで地上に降り注ぐ星のように魔力が舞い落ちてくる。
あまりに美しいその光景に、全員の視線が釘付けになった。
だが、エルミナの視線は細長い虫に向かっている。
「ムーンワーム」
「……魔獣に興味を奪われた」
光り輝く虫は、魔獣の一種。
王都には存在しない、辺境にしかいない。
魔獣ではあるが人に害をなすことはない。
ただ、ほのかに光るだけの無害な生き物だ。
「でも、この子がいるってことは」
しばらくの間、レオンの魔力と戯れるように飛びまわったいたムーンワームが、フワフワとエルミナに向かって飛んでくる。
「ドラゴンが、いるかもしれない」
エルミナの声は期待に震えていた。
「ドラゴン……」
だが、レオンの声音には深刻さが含まれていた。
レオンは実戦経験こそ少ないが、ほとんどの魔獣には負けないだろう。
だが、ドラゴンは魔獣というより災害だ。
彼らが人に害をなすことは少ない。
しかし、もしもこちらに害意を示したなら。
辺境の人々の視線も、ムーンワームに向かっていた。
この地においてドラゴンは特別な、神格化された存在だ。
ムーンワームが、フワフワと舞い上がるように空へ消えていく。
人々は歌い踊り酒を飲む。
彼らは皆、過酷なこの地で陽気に生きているのだ。
焚き火を囲み宴は深夜まで続いた。




