表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移列島  作者: NAO
混沌編 宇宙国家の興亡
77/462

ラグランジュポイントの戦い【前編】

2024年(令和6年)(アース・ガルディア歴7年)11月12日23時【月面『ユニオンシティ』上空】


 月面上空の半分近くを覆う灰色に輝く地球を背景に、ユニオンシティ上空に集結した『空飛ぶ方舟』20隻余りと火星日本列島各国艦艇による連合宇宙艦隊がユニオンシティ上空から水素エンジンの淡い水色の炎を煌かせて一斉に出撃していた。


 連合宇宙艦隊の出撃に合わせて、ユニオンシティ宇宙港からネイビーブルーに塗装されたF45スターファイター戦闘攻撃機が次々と発進して艦隊周囲に展開していく。


――――――【ユニオンシティ居住区 総合行政庁舎前広場】


『ご覧頂いている映像は、ユニオンシティCNNテレビによる月面都市からのライブ中継です。

 ユニオンシティ防衛軍と日本を始めとする火星各国軍の連合艦隊が、アース・ガルディア最強と言われる”アンゴルモア艦隊”との決戦に向けて出撃していきます。

 これから始まる人類史上初となる宇宙艦隊戦の勝敗に、ユニオンシティの命運がかかっていると言っても過言ではありません――――――』


 総合行政庁舎前に臨時設置された巨大液晶画面に映る連合宇宙艦隊に向かって、住民達が盛んに声援を送っている。


 総合行政庁舎執務室では、ソーンダイク代表が一人ユニオンシティCNNテレビを見ていた。


「アンゴルモア艦隊に勝利しなければ、我々はシベリアに逃げたイゴールを捕まえる事が出来ない。ジョーンズ少将、頼んだぞ……」


 呟いたソーンダイク代表は、意識をテレビ中継から非戦闘員の火星避難計画に戻すのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同月11月13日10時【地球と月面の中間地点『ラグランジュポイント』】


 10時間をかけてユニオンシティ防衛軍と火星各国軍の連合宇宙艦隊が、重力均衡点であるラグランジュポイントに到達しようとしていた。


 ユニオンシティ防衛軍の宇宙戦闘艦は、北米大陸救出作戦で使用されたロスアンゼルス型原子力潜水艦を宇宙航行用に改装した『空飛ぶ箱舟』にミサイルランチャーや近接対空レーザー、20mmバルカン砲、主砲のレールガンを装備している。


 連合宇宙艦隊の周囲には、旧合衆国宇宙軍時代から開発が進められてきたロッキード・グラマン社製のF45スターファイター戦闘攻撃機が奇襲攻撃を警戒しながら飛行している。


 F45宇宙戦闘攻撃機は、F35ステルス戦闘機の機体をベースに、エンジン吸気口を断熱材で封鎖、エンジンは単発式の水素エンジンを装備、機首には30mm機関砲1基、胴体下の兵器格納庫に多目的誘導ミサイル12基を装備している。


 また、火星から派遣された火星各国派遣艦艇は、戦略核ミサイルを搭載していた英仏戦略原子力潜水艦を惑星間航行可能な様に月面マルス・アカデミーラボと火星ダイモス宇宙基地で美衣子監修のもと、改装されたものである。

 ちなみに、日本国自衛隊は海上自衛隊を退役した『おやしお』型潜水艦を改装した2隻を連合宇宙艦隊に派遣している。


 火星各国派遣艦艇は基本的にユニオンシティ防衛軍『空飛ぶ箱舟』ロスアンゼルス改装型と同じ、外殻部分をセラミック耐熱タイルを敷き詰めた装甲板で覆い、装甲板で覆われた外殻中央部両舷に長大なソーラーセイル(太陽帆)を2基装着し、太陽エネルギーを風のように受け止めて推進する事が可能となっている。


 セラミック鋼板と合金で出来た長大な金属クジラの連合宇宙艦隊は、ラグランジュポイントに到着するとソーラーセイルを折りたたんで収納し、正方形の艦隊陣形を構築して戦闘態勢へ入っていくのだった。


          ♰          ♰         ♰


――――――【連合宇宙艦隊旗艦『ドゥ・リシュリュー』戦闘指揮所(CIC)】


 第三次世界大戦時、深海に潜んで密かに命令を待ち続けたフランス海軍所属戦略ミサイル搭載型原子力潜水艦の発令所は、2重3重の防護壁で覆われ、イージス艦並みの最新統合指揮・通信システムと各種液晶パネルが並んだ現代戦に相応しい空間へと変貌し、搭乗員は宇宙空間戦闘に備えて全員が宇宙服を着用している。


「ドップラ―レーダーが前方の宇宙空間に大艦隊を捕捉しました—――—――IFF(敵味方識別)応答なし。大型艦艇4、中型艦艇28、我が艦隊との相対距離28000m、相対速度440Km!アース・ガルディア・アンゴルモア艦隊です!」


 ヘルメットを被ったレーダー管制官がくぐもった声で報告する。


「全艦パルスエンジン始動。微速前進、針路11。レーザー通信回線開け!統合指揮・通信システムリンク、ECM(電子戦)開始!

 各艦は射程に入り次第、順次レールガン発射!誘導弾はノンアクティブモードで発射!防空隊は艦隊側面からの攻撃を警戒せよ!」


 ヘルメットを被っているにもかかわらず、ジョーンズ少将がよく響く声で次々と指示を出す。


 『ドゥ・リシュリュー』背面にあるSLBM海中弾道ミサイル発射口だった場所から対艦誘導弾が立て続けに発射され、艦隊を護衛していたユニオンシティ防衛軍のF45スターファイター戦闘攻撃機がアフターバーナーを点火してアンゴルモア艦隊へ突撃していく。


          ♰          ♰          ♰


――――――【アース・ガルディア・アンゴルモア艦隊 旗艦『ムルマンスク』CIC(戦闘管制室)】


 アンゴルモア艦隊は火星軌道上での敗北を教訓として恒久的宇宙戦艦を開発、8連装ミサイルランチャー9基と化学レーザー6基、30mmガトリング砲12基とハリネズミの如く武装した最新鋭宇宙巡洋戦艦『ブレジネフ型』を開発、配備していた。

 ブレジネフ型の他にも、ソーンダイク派閥が開発した『空飛ぶ方舟』を模倣したロシア海軍原子力潜水艦改装版『ウスチノフ』型を多数打ち上げてラグランジュポイントに集結させている。


「アレクセイエフ司令。先行している無人ドローンが急速接近中の識別不明艦隊を探知しました!

 巡洋艦クラス6、駆逐艦クラス20、宇宙戦闘艇40、相対距離20000m!相対速度400Km!」


 ロシア軍記章を残したままの宇宙服に身を包んだオペレーターが、アレクセイエフ司令官に報告する。


「艦首ドップラ―レーダー稼働!レーダー員は識別急げよ!」


 タブレット端末の表示を読みながらレーダー担当に指示するアレクセイエフ司令官。


「無人ドローンからの通信途絶。強力なジャミングを確認」

「対抗電子戦開始!」


「識別不明艦隊の艦型照合率75%。

 ――――――米ロスアンゼルス型ベース20、英ヴァンガード型ベース3、日本オヤシオベース3を確認」


「……オヤシオベースも居るのか。……反乱軍には火星の簒奪者達も加担していたのか」


 レーダー管制官の報告を聴いたアレクセイエフ防衛軍司令が怒りに打ち震えながら呟く。


「反乱軍に情けは無用だ!空母『エカテリナ』から迎撃機を出撃!

 全艦隊方円陣形成、対艦ミサイル発射!」

アレクセイエフが命令した。


 アース・ガルディア・アンゴルモア艦隊とユニオンシティ防衛軍・火星各国派遣軍による連合宇宙艦隊は、ほぼ真正面から激突した。


 人類史上初めてとなった宇宙艦隊戦は、時速400Kmを出す宇宙艦艇がすれ違いざまに誘導弾や対空バルカン、レーザー砲、レールガン等艦載兵器を片端から相手に撃ち込む所から始まり、両軍が激突した宇宙空間には紅蓮の光球が無数に瞬いた。


 大破した艦船が双方に出たものの、撃沈艦が無いと分かるや両艦隊は、距離を取って戦闘機同士による制宙戦へと移行した。


 制宙戦では、オリーブ色の葉巻型機体に短い翼が特徴の旧ロシア連邦ミコヤン開発局のミグ98宇宙戦闘機と、ネイビーブルーに塗装されたロッキード・グラマン社が開発のF45スターファイター戦闘攻撃機が人類史上初の宇宙空間ドッグファイトを展開した。


 三面飛行甲板を持つ『エカテリナ型宇宙空母』から発進したミグ98宇宙戦闘機は最大出力・速度ではF45に負けるものの、機体各部に装着された姿勢制御バーニアを活かして前後左右に動き回り、エンジン出力が強大な割に直線的な機動しか出来ないF45を翻弄、圧倒した。


 制宙戦を制したミグ98戦闘機は、ユニオンシティ・火星各国連合宇宙艦隊の対空防衛網を突破、対空レーザーや20mmファランクス機関砲の弾幕をくぐり抜けて艦隊内部に突入、多連装ロケット弾を四方に放って『空飛ぶ方舟』各艦にダメージを与えながら戦場の主導権を徐々に握っていった。


――――――【連合宇宙艦隊旗艦『ドゥ・リシュリュー』戦闘指揮所(CIC)】


「アンゴルモア艦隊戦闘機が次々と防衛ラインを突破、迎撃兵器の対応限界を超えています!変則的な機動でAI射撃管制の未来位置予測がまるで役に立ちません!」


「泣き言を言うんじゃない!動かせる範囲のCIWS(近接防御火器)をオートからマニュアルに切り替えるんだ!ゲームオーバーには早すぎる!」


 うろたえる火器管制オペレーターを叱咤激励するジョーンズ少将。


「ユニオンシティ防衛軍『オクラホマ』『ミズーリ』敵弾の直撃で外殻装甲大破!船体温度急上昇、宇宙線による荷電負荷増大!戦線離脱します」


 ミグ戦闘機のロケット弾を外殻装甲版に喰らって本来の潜水艦部分が露出したロスアンゼルス型『箱舟』が陣形から離脱する。


 被弾して艦隊から離脱した箱舟は、宇宙線による荷電滞留を受け流していた外殻装甲版を失うと荷電負荷が増大して艦全体がスパークした途端、漏れ出た水素エンジン燃料に引火してパッと一瞬だけ瞬いて爆散した。


「『オクラホマ』『ミズーリ』爆散!生存者無し!」


「『フィラデルフィア』推進機関に被弾、航行不能—――—――爆散しました!」


「敵戦闘機は、巧みな機動で攻撃を仕掛けています。戦闘機隊は既に半数が撃墜されました」

戦闘管制官が報告する。


「シット!奴等め、ここまでだとは」

舌打ちするジョーンズ。


「ジョーンズ司令。ユニオンシティのミス・ムスビから通信」


「読み上げろ」

「ミス・ルナによる敵戦闘機、ミサイル回避行動解析完了。対抗プログラムを送る。との事です!」


「仕事の早い娘達だ」

ジョーンズが感心する。


「全艦隊レーザーリンクシステムから対抗プログラムを受信せよ!」


「データリンク完了」

「プログラム受信。AI射撃管制更新、F45戦闘・駆動系統更新」


 ミグ戦闘機の行動パターンを解析した結と瑠奈が送った対抗機動プログラムを更新したF45攻撃機編隊は、戦場の主導権を握ろうとしていたミグ98戦闘機を次々と撃墜すると、お返しとばかりにアンゴルモア艦隊へ突撃していった。


 艦隊戦は双方ともに一進一退の様相を呈していた。


          ♰          ♰          ♰


――――――【地球シベリア北極圏 タイミル半島 地下都市『シャンバラ』】


 永久凍土の地下500mに位置する古代アトランティス文明の都市は、マルスアカデミー承継データで見る限り、都市というよりは軍事基地に近い『要塞』だった。


「アンゴルモア艦隊の戦況はどうなっている?」

イゴール総代表が部下に訊いた。


「ラグランジュ・ポイント補給基地に接近したソーンダイク艦隊と激しい攻防戦を続けている模様!」

通信オペレーターが答えた。


「アレクセイエフには今しばらく時間稼ぎをしてもらわねばならん」


「プラズマ兵器の発射準備は?」


「マグマエネルギー誘因に使用する戦術核兵器の最終調整中、20時間以内に完了します!」


「反乱軍にはせいぜいラグランジュポイントの無重力を味わってもらおう」


「プラズマシステム目標設定、月面『ユニオンシティ』」

イゴールが命令した。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】


・ジョーンズ=ユニオンシティ防衛軍司令。元極東アメリカ合衆国海兵隊少将。

・ソーンダイク=月面都市国家『ユニオンシティ』代表。

・アレクセイエフ=アース・ガルディアロシア語圏代議員。防衛司令官兼アンゴルモア艦隊司令官。

・イゴール・アッシュベルン=アース・ガルディア総代表。ロシア人実業家。アース・ガルディア創設者。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ