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転移列島  作者: NAO
混沌編 宇宙国家の興亡
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月面独立戦争

2024年(令和6年)11月1日、 月面都市ユニオンシティのソーンダイク代表は、宇宙都市国家『ユニオンシティ』の建国とアース・ガルディアからの独立を宣言した。


 ユニオンシティは、月面都市ユニオンシティと"極東アメリカ合衆国"が参加した共同体である。

 極東アメリカ合衆国には、ジョーンズ少将を始めとする在日極東米軍駐留隊員とその家族達も含まれる。


 日本国政府は、かねてからソーンダイクと結んでいた秘密協定に基づき、直ちに他の列島各国と共にユニオンシティを国家として承認する声明を発表した。


 ソーンダイク代表は、独立宣言と同時にユニオンシティ防衛軍をアース・ガルディア首都コア・サテライトへ派遣、これを制圧した。

 だが総代表イゴールは事前にこの動きを察知、派遣部隊到着前に地球北極圏シベリア地方へ逃亡した。


 シベリアに逃亡したイゴール総代表は、シベリア拠点を臨時首都にすると共に、「反逆者には大いなる神罰が下されるであろう」と、月面都市国家を否定、地球と月の中間地点である重力均衡点『ラグランジュ宙域』で待機していたアンゴルモア艦隊に討伐命令を下した。


 ユニオンシティ防衛軍は月面都市郊外のマルスアカデミー施設が持つ電磁カタパルトを使用してシベリア地方に岩石デブリ弾を撃ち込もうとしたが、逃亡先の詳細座標が不明な為、何も出来なかった。


 以前よりイゴールは、極東米露が提供したマルス文明即時承継データの中から、過去に滅んだ古代文明遺跡を数ヵ所発見し、秘かに調査させていた。

 特にシベリア地区の不思議な大穴が大量発生していた地域は、環境保護団体の支援を受けていた科学者が唱える地球温暖化によるメタンガス放出跡ではなく、古代アトランティス文明地下都市の排熱孔であった事が判明した。

 地下都市の住民は既に滅んでいたものの、都市機能はまだ「生きていた」のである。


 イゴールが調査させた遺跡はシベリア地区の他に、旧トルコ地域『カッパドキア地下都市』、南米大陸メキシコ地区『オルメカ地下都市』であり、これら地下都市はシベリア地下都市と長大なトンネル網によって結ばれていた。


 イゴールはこのシベリア地下都市を『シャンバラ』と命名、アース・ガルディア臨時首都として反撃の機会を窺う事となった。


 こうして、人類初となる宇宙国家同士の戦争が始まるのだった。


          ♰          ♰          ♰


2024年(令和6年)11月5日20時【月面都市ユニオンシティ 防衛軍司令部】


『ジョーンズ少将。日本国を始めとする日本列島各国は、月面都市国家『ユニオンシティ』を承認した。

 火星日本国のミス・ミイコ氏によると、イゴール総代表は地球古代文明地下都市に潜伏したのでかなり厄介な事態に発展するとの事だ。

 少将は安心してユニオンシティ防衛と、特に地球衛星軌道上の何処かに居るアンゴルモア艦隊の攻撃に備えていただきたい』


 英国連邦極東軍のロイド提督が、火星日本国防衛省から惑星間通信でジョーン少将に状況を伝える。


「ありがとうございます、提督。ですが、敵の首都であるコア・サテライトを制圧した現在、アース・ガルディア軍の指揮系統は麻痺しているのではないでしょうか?」

ジョーンズ少将が質問した。


『……残念ながらイゴールは、潜伏先のシベリアから徹底抗戦命令をアレクセイエフ防衛軍司令官に出したようだ。通信傍受によると彼は、衛星軌道上の各部隊をラグランジュ・ポイントへ向かわせている』

答えるロイド提督。


「ジョーンズ少将。アレクセイエフについては私から捕捉説明します。彼はISS時代の同僚でしたからね。

 彼の本質はジョーンズ少将と同じく生粋の職業軍人です。融和的だったISS時代の彼からは大きく違ってしまった様で……残念です」


 説明した後に、俯いてしまうソーンダイク代表。


「……それは。……ご説明ありがとうございます。代表」


 ソーンダイク代表に軽く目礼するジョーンズ少将。


『ソーンダイク代表。差し出がましいのですが、万一、敵の攻撃で基地機能が停止した場合、住民が一度に全滅してしまう恐れもあります。

 火星日本列島各国は、非戦闘員を火星こちらに受け入れる用意が有ります。輸送手段や護衛艦隊については、こちらから追加の部隊を派遣して当たらせます。どうかご検討を』


「お申し出、感謝します。火星への避難を検討しますので諸々のご手配をお願いします」


 ロイド提督の申し入れに感謝し、避難支援を要請するソーンダイク代表。


『ジョーンズ少将はユニオンシティ防衛に全力を尽くして頂きたい』

「わかりました。提督。此処に日本のホワイトピース部隊が有れば心強いのですが……」


 ロイド提督の指示に了承しつつ、ダメもとでパワードスーツ部隊の派遣を要請するジョーンズ少将。


『残念だが日本自衛隊の月面派遣は出来ない。火星の情勢はこれからかなり不穏になる見込みだ。

 —――—――オオツキファミリー3姉妹が察知したようだ』


 肩を竦めながら要請を却下するロイド提督。


「……了解しました。手持ちの部隊だけで最善を尽くします」

『少将の幸運を祈る』


 通信を終えたジョーンズ少将は、副官として派遣されたユニオンシティ防衛軍将校達と防衛体制の打ち合わせに入るのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス】


「パパっち!瑠奈は月へ行ってラボをフル稼動させて皆を守りたいっス!」

瑠奈が大月の背中にしがみ付いてお願する。


「……瑠奈。アース・ガルディアはジョーンズ少将が抑えてくれるから心配いらないよ?」

諭す大月。


「心配っス!アトランティスの遺跡はヤバいのがいっぱいあるっス!中には月まで届くやつも有るから超危険っス!」


 大月の身体をゆさゆさと揺らしながら瑠奈が懇願する。

 瑠奈にしてみれば自分の生まれ故郷、否、生まれそのものだから執着があった。


「ん。お父さん。姉の私が行くから大丈夫」


 瑠奈に加勢して結も大月の背中にしがみ付く。


「……うーん。じゃあ結、瑠奈のこと頼んだよ?二人とも絶対に無事帰ってくる事!」


 渋々といった感じで念を押す大月。


 瑠奈と結は大月とひかりにしっかりと頷いた。


          ♰          ♰          ♰


2024年(令和6年)11月6日5時【鹿児島県 種子島 JAXA・航空宇宙自衛隊 打ち上げ基地】


 火星駐留ユニオンシティ防衛軍(旧在日極東米軍)の部隊が次々と美衣子から貸与されたマルス製シャトルに搭乗すると電磁カタパルトから射出されて月面へ出発した。


 ソーンダイク代表の独立宣言を聴いた在日極東米軍基地の将兵が、火星協力機構を通じて日本国政府と大月に美衣子達三姉妹の支援を要請して実現したものである。


 電磁カタパルトから次々と空高く打ち出される小型シャトルには、瑠奈とお目付け役の結も搭乗していた。


 美衣子は日本列島守護の役割が有るので留守番役になる。

 彼女は、自衛隊ダイモス宇宙基地所属のホワイトピース部隊に同行、未だアース・ガルディア傘下にある極東米露への軍事的牽制を行う予定である。


 もっとも、彼女自身は『どこへもドア』で文字通り何処へでも駆け付けられるようになっている為、大月とひかりの傍で今日ものんびりカボチャポタージュを堪能している。


 火星から月面にかけて軍事的緊張が急速に高まる中、大月とひかりは連日イワフネの研修も兼ねた春日の商談に同行して日本列島各地を廻っていた。


 何故か美衣子も同行を志願して時節にそぐわないプチ家族旅行となっていた。

 ある日、出張先の商談が終わって一行が宿泊するホテルへ戻った大月はひかりに、


「……俺は、美衣子達三姉妹に何も出来ていないと思えて仕方ないんだよ」


 モヤモヤする胸の内を明かす大月。


「そんな事ないですよ?

 美衣子や結、瑠奈は、貴方が戦争の最前線でパワードスーツに乗って一緒に戦う姿よりも、お家で甘えさせてくれる、暖かく迎えてくれる事を一番の幸せだと思っていると思うのですよ?」


 大月の懸念をやんわりと否定するひかり。


「だから貴方は何ら恥じ入る事はないのですよ?

 ……むしろ、地球人類の創造主があなたを頼って甘えてくる事に誇りを持った方が良いぐらいですよ?」


 「気持ちは分かりますけどね♪」と、ひかりは大月を優しく抱き締めるのだった。


 大月は肩の力を抜いて一息つくと、彼女の温もりにしばし浸るのだった。


          ♰          ♰          ♰


2024年(令和6年)11月13日 21時30分【月面都市ユニオンシティ付近の宇宙空間】


 独立を宣言したばかりの月面都市ユニオンシティから5kmほど離れた宇宙空間を1機のF45スターファイター(宇宙戦闘機)が飛行していた。


「……ほえぇ。カンザスから見えるお月さまは小さかったけど、月面から見える地球はもの凄くビッグね!」


 F45宇宙戦闘機の操縦席から、漆黒の闇の中にぼうっと青白く光る大きな灰色の煙球を見上げて感嘆のため息を漏らすソフィー少尉。


 7か月前、北米大陸救出作戦でカンザス州から月面に避難した彼女は、ユニオンシティ防衛隊に志願入隊していた。

 北米大陸救出作戦時に発揮した通信スキルを磨いた後、アース・ガルディアとの独立戦争を控え、人材不足が慢性的だった宇宙戦闘機パイロットに転向した。

 もともと通信を学んだのは、いずれは飛行機パイロットになって大空を飛んで世界各地を回りたい夢を叶えるためだったりする。


『よそ見をするな、ソフィー少尉。卒業訓練飛行では無いのだぞ!いつアンゴルモア艦隊が襲ってくるか分からんのだ』


 ユニオンシティ防衛軍司令部の通信オペレーターがソフィーを注意する。


「失礼しました。—――—――んんん?」


 操縦席のレーダー画面が反応し、指示された方向に目を向けるソフィー少尉。


 ソフィー機の真横から、大型物体が淡い緑色の光を纏って接近していた。


「方位03にレーダー反応!—――—――デブリじゃない!減速している!?月面へ急速接近中。距離12000を切った!

 ソフィー機から司令部へ!これより目標を迎撃する!射撃管制・ミサイル誘導レーダー作動!フェニックス宇宙ミサイル安全装置解除!」


『おいっ!待て待て待て!ソフィー少尉!

 IFF(敵味方識別信号)は確認したのか!?』


 いきなり戦闘態勢に入るソフィー少尉を慌てて制止する通信オペレーター。


「はえっ!?……えっと、IFFは……やばいっ!JASSDF(日本国航空・宇宙自衛隊)でしたっ!ごめんなさいっ!」


 いきなり急速接近する物体を目の当たりにして混乱したところを通信オペレーターに宥められ、落ち着いて計器表示を再確認すると、平謝りするソフィー少尉。


『……まったく。ミサイルは安全装置を掛け直しておくように。

 その大型物体は此方に行政府から通知が来ているぞ。火星日本列島から来たマルス・アカデミーの大型シャトルだ。此処の住民を一時的に疎開させるための輸送艦だ。

 —――—――さて少尉。名誉挽回のチャンスをやろう。マルス・アカデミーの大型シャトルを宇宙ドックまでエスコートしろ。丁重にな』


「ラジャ―!」


 今度こそ、気を引き締め直したソフィー少尉は、操縦桿をしっかりと握り締めると、ペダルを踏んでアフターバーナーに点火して、F45宇宙戦闘機をマルス・アカデミー大型シャトルの針路前方に滑り込んでエスコート任務にあたるのだった。


「……アンビリバボー。なんて大きさなの。まるでスター・デストロイヤーね」


 ユニオンシティ・ネットフリックスで何度も視聴した某SF映画に登場する帝国軍大戦艦そっくりだが、日の丸を掲げた大型シャトルを目の当たりにして、思わず呟かずにはいられないソフィー少尉だった。


『こちら日本国航空・宇宙自衛隊ユニオンシティ支援任務部隊。スリル満点な出迎えに感謝する……』


「……先程は大変失礼いたしました。……ユニオンシティ防衛軍防空隊ソフィー・マクドネル少尉です。宇宙ドックへ誘導します」


 皮肉の効いたメッセージに、赤面するしかないソフィー少尉だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――【月面都市ユニオンシティ 防衛軍司令部】


 ラグランジュポイントに設けられたアース・ガルディア軍補給基地のアンゴルモア艦隊が月面侵攻へ向けて出撃準備を整えている所をユニオンシティ防衛軍の哨戒機が発見していた。


 月面に到着したばかりの結と瑠奈は、早速マルスラボ閉鎖区画を稼動させてラグランジュポイントからユニオンシティへ接近するアンゴルモア艦隊を捕捉していた。


「……ジョーンズ。アンゴルモア艦隊がこっちへ来るわ」


 結が司令部の戦力配置図と睨めっこしていたジョーンズ少将に報告する。


 瑠奈がラボのコントロールに専念して話す事が出来ない為、結が瑠奈に代わってジョーンズ少将に伝える役目を担っていた。

 トカゲ娘に呼び捨てされる鬼将軍の光景は、ユニオンシティ防衛軍兵士から見るとアンビリバボー(信じられない)だったが、結と瑠奈の実力を知るジョーンズ少将は気にもしていなかった。

 司令官席に座るソーンダイク代表はそんな光景を面白そうに見ていた。


「了解したミス・ムスビ。」


「瑠奈が『今なら先手必勝』と言っているわ」


「根拠は?」


「瑠奈が操るラボ防衛システムは、強力なシールドや電磁カタパルトを使ったデブリ弾も使う事が出来るからラボだけでアンゴルモア艦隊の攻撃を多分防げる。

 ソーンダイクとジョーンズの戦力をラグランジュポイントへ全部投入して航行中の艦隊を攻撃して月面都市への直接攻撃をさせない事が大事。

 万一、二人が負けても瑠奈の電磁シールドが有れば立て直す時間は稼げる」


「……負けると後が無いのだが」

苦笑するソーンダイク代表。


「ソーンダイク代表に同意します。……ですが小職も先制攻撃が最良と判断します」


 結の辛辣な進言に顔を引き攣らせていたジョーンズ少将がソーンダイクと向き合う。


「……そうだね。可愛いレディの言う事に間違いはないだろう。

 地上救出作戦で彼女達の優秀さは分かっているよ。将軍、打って出よう!」


 ソーンダイク代表は、全軍を挙げてアンゴルモア艦隊と決戦に臨む事を決断した。


 ガルディア暦7年(西暦2024年)11月13日23時30分、ユニオンシティ防衛軍と火星協力機構宇宙軍の連合艦隊がユニオンシティから出撃、地球との重力均衡地点であるラグランジュポイントへ向かった。


 強大なアンゴルモア艦隊との決戦が迫っていた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の主な登場人物】


・大月 満= 総合商社角紅社員。

・西野 ひかり= 総合商社角紅社員。社長の孫娘。

挿絵(By みてみん)

・西野 美衣子=マルス・アカデミー日本列島生物育成環境保護システムの人工知能。

挿絵(By みてみん)

・鷹見 結=マルス・アカデミー尖山基地管理専用人工知能だったがバージョンアップされた。

挿絵(By みてみん)

・大月 瑠奈=マルス・アカデミー地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。

挿絵(By みてみん)

・ロイド提督=英国連邦極東軍中将。

・ジョーンズ=ユニオンシティ防衛軍司令。元極東アメリカ合衆国海兵隊少将。

・ソーンダイク=月面都市国家『ユニオンシティ』代表。

・イゴール・アッシュベルン=アース・ガルディア総代表。ロシア人実業家。アース・ガルディア創設者。

・ソフィー・マクドネル=ユニオンシティ防衛軍少尉。アメリカ合衆国カンザス州出身。北米大陸救出作戦でユニオンシティに避難した。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、鈴木プラモ 様です。

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