表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移列島  作者: NAO
火星編 戦女神の星
66/462

模索と娯楽

2024年(令和6年)7月14日午前5時30分【地球南太平洋 オーストラリア大陸東方沖 ユニオンシティ メガ・フロート『マリーンシティ』運航管制室】


 一辺が4Kmの正方形をしたメガ・フロートの中心部に在るメガ・フロートの航路や飛来する空飛ぶ方舟とのランデブー等を管理する部署では、早朝から緊迫した雰囲気に包まれていた。


『こちらアース・ガルディア『神舟7』。

 —――—――基地から避難民300名を乗せてラグランジュ・ポイントへ向かう途中、耐熱隔壁に異常発生!大気圏離脱不可能—――—――これより南太平洋に不時着水す――――――救援求む―――――』


 未だポールシフトの影響で電離層が不安定な為、雑音交じりの通信が管制室に流れる。


「『神舟7』へ。こちらユニオンシティ所属メガ・フロート『マリーンシティ』。レーダーでそちらの現在位置は捕捉している。そのまま西へ向かって高度を下げて着水せよ」


 管制官がマリーンシティ巡航航路の東側へと誘導する。


「巡航航路を先行哨戒中の戦艦『ミズーリ』から入電。巨大な飛行物体を探知。10時の方向、高度5000mから急速降下中!」

通信オペレーターが報告する。


『マリーンシティ!こちら神舟7、エンジンと主翼が半分やられた!操舵不能!』

極度に緊張した声が響く。


「しっかりしろ神舟7!もうすぐだ!」

励ますオペレーター。


「10時!目視で確認!デカい!」


 双眼鏡で外を監視していた隊員が声を上げる。レーダー担当、通信担当以外の隊員が窓辺に駆け寄って西の曇天を見上げる。


「アレか!まんま空飛ぶ方舟じゃないか!」「大きさでは、あちらがデカイな」「おい!火が出ているぞ!」

上空を見上げた隊員達が思わず声を上げる。


 幾つもの破片をバラバラと周囲にまき散らし、船体中央部から炎を噴き上げながら急降下してくる巨大なデルタ翼を生やした方舟がマリーンシティに接近する。


「破片がこちらに降りかかるぞ!電磁シールド展開!」


 今迄事態を見守ってきたジョーンズ少将が、慌てて隊員に指示する。


 薄い緑色をした半透明の電磁シールドがマリーンシティ全体を覆っていき、超低空でマリーンシティ前方を掠める様に炎上しながら通り過ぎる方舟から剥がれ落ちた部品やパネルが電磁シールドに接触すると、僅かに火花を散らしてシールドからはじき飛ばされていく。


 やがてさらに高度を落とした方舟は、船体中央部の炎が全体に拡がると唐突にボカンという腹に響く衝撃音と共に船体中央部が爆発し、巨体を分解させながら灰色の海上へ落下していく。


「……神舟7からの通信途絶」「電磁シールド解除。航行機関停止。ミサイル艇を出せ!生存者を救助する!」


 早朝のマリーンシティに非常ベルが鳴り響き、ミサイル艇や連絡艇が慌ただしく出港すると、仮住まいを得ていた避難民達が救護所を設営しようと物資の入った段ボール箱を抱えてジープや軽トラックに乗り込み、海際へ向けて走り出す。


 1時間後、右舷側の海域を捜索していたミサイル艇や連絡艇の搭乗員は、神舟7のものと思われる多数の荷物と遺体の一部が漂流しているのを発見したが、生存者は発見出来なかった。


「……イゴール総代表の派閥も、ユニオンシティで開発した空飛ぶ方舟の情報を掴んで独自に建造を進めていたのだな」


 火山灰で濁った海面に浮かぶ、多数の船体と遺体の破片がゆっくりとマリーンシティから離れていくのを見つめるジョーンズ少将が、背後に控える副官に確認する。


「肯定です。北米大陸の避難民キャンプに居れば日常的に空飛ぶ方舟を見る事ができますから、情報の取得は容易です。

 またロシア熊共は世界最大数の潜水艦保有国でもあり、水素エンジン開発もEUと共同で行っていた時期もありましたから、我々の後を追えたのかもしれません」


 副官となっていた『ルイビル』艦長のサザーランド大佐が応える。


「彼らはマルス・アカデミーのシャトルなど使えぬから、潜水艦を宇宙に運ぶことは出来なかった。だから、地上で建造して飛ばそうとしたわけだ」

「バイコヌール周辺の工場からロケットを列車でバルト海の軍港まで運び込んだと思われます」


「イゴール総代表派閥には、未だロシアの潜水艦とロケットが沢山ある。これからも開発を続けるのだろうな」

「間違いなく。人的損失を無視するならば、1年も経たないうちにこちらと同じモノを作れるようになるのではないかと」


「……まったく。いつまで続くのだ」


 嘆息したジョーンズ少将は、いつまでも遠ざかっていく神舟7の残骸を見つめるのだった。


          ♰          ♰          ♰


 火星衛星軌道からアース・ガルディア艦隊が撤退し、月面都市『ユニオンシティ』と南太平洋上『マリーンシティ』を拠点とした北米大陸救出作戦が一定の成果を出しつつある現在、火星日本列島各国は2年後のアース・ガルディア艦隊再訪に備えねばならなかった。


 アース・ガルディアの軍事的動向を常に把握すべく、ソーンダイク派閥と火星協力機構の定期通信も始まり、日本国は小型無人シャトル「コウノトリ」を通じたささやかな物資交換やマリーンシティ及び月面ユニオンシティ拡充に必要な資材の支援を行っていた。


 アルテミュア大陸の開拓、火星協力機構宇宙軍の創設、パワードスーツ改良と増産、日本列島再転移対策等を考えながら地球復興を模索する2年間になりそうだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――2024年初夏【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス 大月家】


 日本列島の外が激変する慌ただしい世相の中、美衣子と結と瑠奈の三姉妹は大月家のリビングで、カボチャを使った西野ひかり謹製ポタージュを味わっていた。


「……不味いわね」

「美味しいですよ?姉様」

「カレー粉を入れたら最高の味っス!」


 てんでバラバラの感想を口にする個性豊かなマルス人(人工知能)三姉妹。


「ポタージュは絶品だけど、人々の不安が消えない……」

ポツリと美衣子が呟く。


「むしろ増しているわ姉様」

「人間は複雑ッス!」

結と瑠奈も同意した。


「このままでは2年後を待たずして日本列島が転移してしまうわ」

深刻な表情の美衣子。


「それは不味いわ」

瑠奈のカレー粉入りポタージュを舌で舐める結。


「最高に不味いっス!」

今度はこしあんを投入する瑠奈。


「……とりあえず、考えはあるのだけど」

意味不明な行動を取る妹達を簀巻にする美衣子。


「その前に、食べ物で遊んではダメよ」


 わさびと納豆を投入したポタージュスープを妹達の口元へ流し込む美衣子。


「……!?」「ふんぎゃぁーっ!」


 ダイニングの床で悶絶した二人を冷ややかに見下ろした美衣子がとある計画を二人に告げ、結と瑠奈は即座に服従してキッチンで夕食の仕込み途中でわさびと納豆を探していたひかりに相談するのだった。


          ♰          ♰          ♰


2024年8月【東京都千代田区永田町 首相官邸 内閣官房執務室】


 翌日、美衣子達三姉妹は大月とひかりに付き添われて首相官邸を訪問し、岩崎内閣官房長官と面会していた。


「なるほど、日本列島再転移を防ぐ為に国民の不安感情を和らげたいのですね」


 西野ひかりの説明を聴いた岩崎がふむふむと頷く。


「具体的にどのような方法を考えているのでしょうか?」


「娯楽よ」


 美衣子が言い放ち「まぁ!ステキ!」と感心する西野ひかりの隣で聞いていた大月は、ちょっとお腹がいたくなった。


「スポーツ、バラエティ、教養よ」

美衣子が説明を始める。


「私は火星オリンピックのサポートをするわ。商品は金銀銅メダルのほかに、私と結が発明したマルスアカデミー謹製お宝グッズの数々よ」

グッと拳を握りしめて岩崎を見詰める美衣子。


「……私は『風雲ムスビ城』をやるわ。

  マルスアカデミーの粋を結集したトラップ仕込みのダンジョンを攻略できた人にお宝グッズよ」

結が名乗り出る。


「自分は大河ドラマでテレビデビューして日本を明るくするっス!」

瑠奈がアイドル進出計画を宣言する。


 岩崎内閣官房長官は深く頷くと、


「……わかりました。瑠奈さん以外、採用しましょう。

 瑠奈さんは日本人と同じ外見ですから……まずは日本社会を学ぶところからでしょうかね」


「ガーン!」

瑠奈が思わずよろめいて床にorzと膝をつく。


「……そうですね。瑠奈はとりあえず、小学校四年生位からスタートさせてください」

大月が岩崎に要請した。


 こうして美衣子は、列島各国が参加して2027年7月に東京で開催される人類史上初の『火星五輪』開催委員会の一人として参加し、企画・演出面でのアドバイザーを務める事になった。


 火星オリンピック準備の為に日本国外務省は、対立関係にある極東米露とも協議し、協賛して参加した場合、アルテミュア大陸内陸部で産出される各種資源の貿易再開で合意した。


 首相官邸は東山を三度月面『ユニオンシティ』へ派遣し、アース・ガルディア民生局長ソーンダイクに火星五輪参加要請を行った。


 結は、富山県立山市の尖山マルス基地跡をダンジョンとして作り替え、NHK受信料を払った一般市民と”攻略隊長”のイワフネが参加する視聴者参加型スポーツ・バラエティー番組『風雲ムスビ城』を企画、首相官邸と総務省、富山県の後援を得てNHKと民放各社で共同制作する事になった。


 瑠奈は首相官邸を訪ねた翌日、大月とひかりに赤いランドセルを背負されると両腕を二人に掴まれながら、躾に厳しい東京都港区に在る某ミッション系私立女子大学付属小学校に入学するのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の主な登場人物】


・大月 満= 総合商社角紅社員。

・西野 ひかり= 総合商社角紅社員。社長の孫娘。

・西野 美衣子=マルス・アカデミー日本列島生態環境保護育成システム人工知能。

・鷹見 結=マルス・アカデミー尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。

・大月 瑠奈=マルス・アカデミー地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。

・岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。政治の裏表に精通。

・ジョーンズ=極東アメリカ合衆国海兵隊指揮官。少将。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ