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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
434/462

フラグ

【地球極東 人工日本列島タカマガハラエリア・フジ イスラエル連邦首相府】


「何?ガリラヤからの通信が途絶?」

思わぬ知らせに眉をひそめるニタニエフ首相。


「はい。東京の大使館や横田基地からの通信にも応答しません。日本政府や他の列島各国も同様に連絡が取れていないとの事です」

神妙な表情の諜報特務庁モサード長官が説明する。


「ガリラヤと同時に北半球のボレアリフも同様に連絡が取れません」

「火星名物の大規模な季節砂嵐では無いのかね?」


「いいえ。東京とは現在も常時データリンクしており通信状況は正常です」

報告を聞いたニタニエフの質問に答える長官。


「うむ。火星は地球と気候が違うのだ。念のために嘉手納と三沢から偵察機を出して調査させよう」

ニタニエフが長官に応えると、控えていた秘書官が連邦軍司令部へ指示を伝える。


「いぜれにせよ、これで火星における我が国のプレゼンスは示せただろう。我々はMCDA(火星通商防衛協定)が膝まずいて服従するのを待つだけで良いのだ」


 この時点で核爆発が想定を遥かに超える被害をもたらし始めたことにイスラエル連邦政府首脳は気付いていなかった。


          ☨         ☨          ☨


――――――【太陽系第五惑星『木星』大赤斑最深部】


 大脱出作戦オペレーション・エグゾダスを実行すべく5億6000万体余のジュピタリアンがチューブワーム長の作成した異相空間を通って地球へ向かった現在、広大な液体水素の海に浮かぶ固体化した水素やケイ素からなる最深部中央に位置する大陸には、火星日本列島グルメツアー目指して詰めかけたジュピタリアンが未だに多数残っている。


 その数は地球へ向かったチューブワーム長を始めとするジュピタリアンと同数近い。


 グルメツアー再開は地球からチューブワーム長が戻ってからだが、諦めきれないのか行列に並びながらソワソワと身動みじろぎするジュピタリアン。


 ケイ素と水素カルシウムで形成されたチューブワーム長の住居である高さ300mもの煙突チムニー状構造物の頂上から、二人の木星探査隊隊員が水平線まで続くジュピタリアンの行列を観察していた。


「祭りの余韻が未だ醒めやらずって事ね!」

名取由美子が快闊に傍らの少女に話しかける。


「他の惑星へ物見遊山なんて、地球人でさえ滅多にありませんもの」

頷く天草華子。


「私達のお仕事は、大赤斑最深部ここでのんびりジュピタリアンを見守るって事ね」

「見守ると言うかイワフネ船長代理曰く、隠れ異相空間を使ってこっそり火星日本列島へ行こうとするジュピタリアンを見張るって事ですわ」


 木星探査船『おとひめ』のイワフネ船長代理から言い渡されていた任務の趣旨をお気楽に変換した由美子の認識を修正する華子。


 煙突チムニー上で見張りを続ける二人の傍に着陸しているアダムスキー型連絡艇からビーッとブザーが鳴り響く。

 ブザーは惑星磁力線の異常数値に反応する様になっている。


「っ!!異相空間探知センサーに反応!9時の方角ですわ!」

華子が反応する。


「んん~、あそこだね。華子、行くよ」

双眼鏡で華子が示した方角を視ていた由美子がさっさとアダムスキー型連絡艇に乗り込む。


「そちらでゲートを作りかけの水素クラゲさん、こっそり異相空間は禁則事項ですわ。行列最後尾ですわ」

アダムスキー型連絡艇から強力なサーチライトで水素クラゲをライトアップしつつ警告する天草華子。


『ダッテ、マチキレナクテ……』

警告された水素クラゲがしゅんと項垂れる。


「お気持ち分からなくも無いですが、皆さんがいきなり全員で火星へ行かれても火星日本列島むこうがわのおもてなし準備が間に合わなくて向こうの方々が困り果ててしまいますわ。

 海鮮丼やウニ・イクラ丼は……火星日本列島は逃げませんわ、お行儀良く並んでいれば必ずグルメツアーに参加出来ますわよ」


 華子がジュピタリアンをおしとやかに諭すと警告を受けた水素クラゲがノロノロと空中に浮かび上がると遥か水平線の彼方の行列最後尾へ向かっていく。最後の励ましは華子の嗜好が少し入っているかもしれない。


「……なんか、やるせないね~」

ゆっくりと視界から遠ざかっていく水素クラゲを見ながら呟く由美子。


「仕方ありませんわ。本来火星日本列島は全速力のスペースシャトル(日本製)で3年かかる距離ですもの。

 日本列島が此方へ来てくれない限り、ジュピタリアンの欲求は簡単には満たされませんわ」

由美子に応える華子。


「……華子がなんかフラグを立てている」


 ボソッと呟く由美子だった。


 グルメツアーを待ちかねたジュピタリアンがフライング火星渡航に及ぶのを防ぐため、由美子と華子は見回りをすべくアダムスキー型連絡艇に乗りこむと煙突チムニーから飛び立つ。

 アダムスキー型連絡艇はジュピタリアンの行列上空をゆっくりと飛行する。


「さっきの警告が周りに効いたのか、みんな大人しいね」


 地上監視モニターを見る由美子。華子は双眼鏡で周囲の様子を観察している。


 双眼鏡で見ていた華子の視界を一瞬金色に輝く粒が横切る。


「あら?」

思わず目を瞬かせて呟く華子。

 

 少しの間を置いた後、連絡艇制御卓の数値が異常値を示すとけたたましくブザーが鳴り響く。


「異相空間探知センサーに反応。方角は······全周!?」

驚く由美子。


 アダムスキー型連絡艇の下で行列していたジュピタリアンの行列が紫色の光を纏ったと思ったその瞬間、上空を覆う様に紫色のリングが形成されて眩い光を放つ。


「由美子ちゃん!これって!」

「やられた!華子ちゃん!直ぐに『おとひめ』へ連絡を――――――」


 華子に応えようとした由美子は言葉の途中で紫色の眩い光の思わぬ顔を俯け、アダムスキー型連絡艇はジュピタリアンと共に紫色の光に包み込まれていく。


 光が収まった後、大赤斑最深部でグルメツアー待ちをしていたジュピタリアン行列の半数が消えていた。


 上空を飛行していたアダムスキー型連絡艇と共に。



――――――【木星衛星軌道上 JAXA木星探査船『おとひめ』】


「大赤斑最深部にて膨大なエネルギー反応!惑星磁力線異常数値計測中!」「名取、天草隊員の連絡艇とデータリンクが強制解除。通信途絶。両名バイタルデータ受信出来ません!」「集結中だったジュピタリアン反応が多数消失」

オペレーター達が次々と異常を報告する。


「消失したジュピタリアンの数は分かりますか?」

「通信途絶前の連絡艇データリンクによると、概算で3億体です」

イワフネ船長代理に訊かれたオペレーターが答える。


「三鷹のJAXA本部に緊急連絡。”ジュピタリアンが大量に転移した可能性大、警戒にあたっていた連絡艇との消息が途絶””日本各地の飲食街への警戒要”と伝えてください!

 マルス・アカデミー木星再生船団のリア隊長にも連絡を。ジュピタリアンの行動は予測不可能です」


 指示を下すイワフネ船長の額には珍しく冷汗が浮かんでいた。


「イワフネ船長代理。天草華子隊員と名取由美子隊員は無事だろうか?」

オペレーターの報告中も口を出さず、イワフネ船長代理の傍でじっと堪えていた天草士郎理事長が訊く。


「ジュピタリアン大量転移と同時に連絡艇の消息が途絶えた状況からみる限り、火星日本列島あちらへ行った可能性が高いでしょう」

イワフネ船長代理が答える。


「火星日本列島……火星あちらはイスラエル連邦の核爆発で慌ただしいと思うが、大丈夫だろうか」

「……流石にそこまでは分りませんね。ただ、木星探査隊こちら火星日本列島むこうも大変になることだけは間違い無いですね」


 大脱出作戦で木星こちらに転移するジュピタリアン(5億6000万体がグルメツアー熱望中)やクローン人間都市(2都市)、自衛隊地球派遣群の対応でマルス・アカデミー技術で作られた探査船『おとひめ』が間違いなく巻き込まれる事を確信していたイワフネ船長代理は思案に頭を巡らせていたために、娘を案じる天草理事長にそっけなく答えてしまうのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・天草 華子=木星探査船『おとひめ』船長。神聖女子学院小等部6年生。父親はJAXA理事長の天草士郎。

 木星探査船(マルス・アカデミー製)は大月家結婚披露宴のビンゴ大会で1位となった景品で取得していた。仮想世界大戦時に負った心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

 仮想世界大戦時に負った心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・イワフネ=マルス人。ミツル商事にサラリーマン研究の為派遣されていたが、仮想世界大戦後、天草華子、名取優美子の心的外傷療養を見守る為、木星探査船『おとひめ』船長代理として木星探査隊に同行している。生け簀によく落ちる。


・天草 士郎=JAXA(宇宙航空研究開発機構)理事長。華子の父。

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦共和国首相。

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