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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
432/462

迫りくる惨禍

2027年(令和9年)5月7日午後3時5分【火星衛星軌道 衛星フォボス 英国連邦極東・ユーロピア共和国共同宇宙基地ダンケルク 司令部】


「司令!ユニオンシティの戦闘機が核爆弾を投下した模様。放射線計測値から20メガトン級の核爆発が南北両極で発生したものと推測されます!」

「衛星ダイモスの日本国自衛隊基地も同様の放射線を計測」


長崎佐世保ニュー・ダウニングタウンと東京市ヶ谷、ニューガリアに緊急報告。スクランブル待機中のF45戦闘機を高高度観測機として両極上空へ出せ!」


 オペレーターから報告を受けた当直司令が矢継ぎ早に指示を出していく。


          ☨          ☨          ☨


――――――同日午後3時10分【東京都千代田区永田町 首相官邸】


「総理!市ヶ谷防衛省から緊急連絡。火星南北両極で核爆発が検知されました!」


 扉を開けて駆け寄った補佐官が岩崎総理大臣に報告する。


「何処が核を使用したのですか?」

「ダイモス、ダンケルク両宇宙基地によると、在日ユニオンシティ防衛軍横田基地から発進した戦闘機との事です」

岩崎に訊かれた補佐官が答える。


 別の補佐官が執務室の壁掛け液晶ディスプレイを操作してNHKや民放各局の画面を映す。


「情報はまだ流れていませんね……」


 通常番組が放送中である事を確認すると、ホッとして少しだけ緊張を緩める補佐官。


「補佐官、安心するのは時期尚早です。情報統制をしてもこれだけの事態はいずれ公になります。

大気圏内核爆発による放射能汚染の脅威度について、日本列島が被曝する可能性と対応策について至急調べる必要があります」

テレビを視て口元を緩めた補佐官を窘める岩崎総理。


「しっ、失礼いたしました!」


 慌てて背筋を伸ばすと一礼して執務室を足早に退出する補佐官の背中に「素直に指摘を受け止める謙虚さは良いが、視野の広さで言えば春日君の後任にはまだまだですね」と少しだけ暖かな視線を向ける岩崎総理だった。


          ✝          ✝          ✝


――――――同日午後3時30分【火星日本列島】


 GWゴールデンウイークが終わり何時もの日常が始まったその日午後、日本列島の多くのTV、インターネット、SNS動画サイトでは通常の放送番組やニュース画面が突然途切れ、とある海外放送が割り込む形で始まった。


『こちらはユニオンシティCNN放送です。この放送は地球・火星に住む全地球人類に向けて放送しています。

 本日イスラエル連邦国防軍は火星南北極点において新型核爆弾を使用した特別軍事演習”浄化ピュリファイ”を実施しました。

 イスラエル連邦首相府は、”地球復興を妨げる敵対勢力に断固として対抗する決意を表したものである”とのニタニエフ首相談話を発表しました』


 金髪碧眼の女性アナウンサーが原稿を読み上げた後にイスラエル連邦国防軍が撮影した映像が流れる。

 赤茶けた岩石と凍結した二酸化炭素結晶の混じった氷原の彼方で閃光が煌めいた後、禍々しく黒く巨大なキノコ雲が上空へ立ち昇っていく。


『特別軍事演習で使用された核爆弾は最新型水素爆弾で爆発威力は、かつて日本の広島に投下された原子爆弾の3300倍となる20メガトンでした。

 イスラエル連邦国防省は計算通りの爆発規模であり、大気や土壌への放射能汚染は最小限に留まるとの見解を示しています』


 日本中のメディア媒体を電波ジャックしたユニオンシティCNN放送を視た人々は直ぐにパニック状態に陥る行動にはならなかったものの、自衛隊地球派遣群が苦戦を強いられている旧中国東北部や異形のジュピタリアンが大挙して日本各地でグルメに夢中になる様を映像で連日見続けており、多くの日本人の心の中には隠しようのない漠然とした不安が溢れんばかりに積み重なっていく。


          ☨          ☨          ☨


――――――【火星日本列島 北海道稚内沖 北東350Km上空】


 午後3時に羽田国際・宇宙空港を離陸したミツル商事航空301便は、目的地であるアルテミュア大陸東海岸に在る人類都市『ボレアリフ』目指して順調に飛行していた。


「ユジノサハリンスク気象観測所からのデータでは、北極圏で季節外れの低気圧が発生した以外は特段の変化なしです」

副操縦士が機長に報告する。


「(以前の様に水素クジラやクラゲの大群に遭遇する事が無くて良かった)分かった。進路予定通り。機内アナウンスをしよう」

心の中で胸をなで下ろした機長がインカムをオンにしてアナウンスをする。


『本日はミツル商事航空をご利用頂きありがとうございます。現在当機は予定通り樺太上空を通過しております。あと1時間ほどでアルテミュア大陸東海岸、ユニオンシティ国人類都市『ボレアリフ』到着の予定です』


 乗客へアナウンスを終えて一息ついた機長に、後方に座る通信士が不意に声を掛けてくる。


「機長。ボレアリフ空港管制が緊急周波数を使って周辺航空機に退避を呼び掛けています」


「何?何があったのだ!」

眉を顰めた機長はすぐにボレアリフ空港管制と連絡を取る。


「こちらミツル商事航空301便。ボレアリフ管制応答せよ」

『こちらボレアリフ空港管制。直ちに退避せよ!北極から巨大ハリケーンが接近中。ボレアリフ州知事は全住民に避難命令を発令した。空港は閉鎖される。我々もこれから避難を――――――』


 機長の呼び掛けに応答したボレアリフ空港の管制官だったが、途中で通信が途切れてしまう。


「機長っ!もしやアレが!?」

「巨大な積乱雲か?」

副操縦士と機長は進路前方に広がりつつある黒い積乱雲を発見する。同時に、機体がガタガタと揺れ始める。


「西から東へ強い気流です!流されています」

隣の副操縦士が計器を見ながら必死に操縦桿を握りしめつつ声を上げる。


「無理に気流に逆らわずに流れを利用して東へ旋回する。左翼エンジン出力上昇!」

機体の姿勢制御を表示する機器を見ながらエンジン出力レバーを上げる機長。


 機体は激しく振動しつつも気流に乗って推進力を増したエンジンの力で東へ翼を傾けると、積乱雲に巻き込まれる事を脱する。


 機長は冷や汗を拭うまもなく機内スピーカーをオンにすると、激しい振動で動揺している乗客にアナウンスする。


『こちら機長です。当機は現在乱気流に遭遇しております。乱気流から離れる為、当機は緊急回避行動中です。乗客の皆様は必ずシートベルトを着用願います!』

何とか冷静さを装う機長。


「通信士。私と副操縦士はこれから操縦に集中する。千歳か三沢に緊急着陸受け入れを要請しろ。黒い積乱雲の情報も忘れるな!」


 ますます機体が激しく振動する中、エンジン出力を上げながら操縦桿を思い切り右に倒して機体を黒い積乱雲から遠ざけようとする機長だった。


 30分後、次々と発生する原因不明な計器故障に見舞われたものの、機長の必死な操縦と最大エンジン出力で乱気流を乗り切ったミツル商事航空301便は、千歳空港へ緊急着陸するのだった。


 航空・宇宙自衛隊管制官の誘導で自衛隊が使用する滑走路に着陸した301便は、着陸直後に滑走路脇に設置している放射能測定器が異常を感知したために乗客を乗せたまま滑走路脇で停止を余儀なくされ、化学防護小隊による機体検査を受けたところ、通常の数百倍の放射線を受けていた事が判明した。


 機体検査中に乗員・乗客が次々と嘔吐や出血等の症状を訴え始めたため、乗員乗客全員が化学防護服を着た自衛隊員に付き添われて病院へ救急搬送されたのは、着陸してから1時間半後の事だった。


 搬送先病院に駆け付けた自衛隊病院医師の協力で乗員・乗客の精密検査を行った結果、全員が急性放射能被爆症状であると診断されたのは更に2時間後の事だった。


 検査結果を目の当たりにした千歳基地司令官は緊張した面持ちで、直ちに東京市ヶ谷の防衛省本省に緊急連絡を行った。


          ✝          ✝          ✝


――――――同日午後6時40分【東京都千代田区永田町 首相官邸】


「失礼します!総理に至急のご報告だ!」


 補佐官と入れ替わりで執務室に足早に入室した防衛事務次官が乱れた服装のまま、早口で岩崎総理に報告する。


「人類都市『ボレアリフ』へ向かっていた旅客機が巨大な黒い積乱雲に遭遇、千歳空港に緊急着陸しましたが、乗員乗客多数が放射能被爆していました!」


「ボレアリスの我が国領事館との連絡は?」

「全ての回線を通じて呼びかけていますが、応答ありません。英国連邦極東やユーロピアの領事館も同様です。ボレアリフと一切の通信が途絶しています」


岩崎総理に訊かれた防衛事務次官が答える。


「北のボレアリフは通信途絶……では南のガリラヤ領事館からの連絡はどうなって……はい、岩崎です」

言いかけた岩崎総理は、携帯電話が振動したので応対する。


「……わかりました。我が国のボレアリフ領事館との連絡が途絶しているのもやはり……ええ情報ありがとうケビン。こちらも備えないといけませんね、では」

通話を終える岩崎総理。


「ケビン首相からイスラエル連邦ガリラヤ州との通信が全て途絶したと連絡が入りました。そしてヘラス大陸北方沖を航行していた英国連邦極東軍のフリゲート艦が放射能を帯びた巨大なハリケーンに遭遇したようです。ハリケーンは真っ直ぐ北上しているとの事でした」

補佐官達に伝える岩崎総理。


「我が国は南北から迫る放射能台風に直面します。直ぐに北海道、沖縄地域に放射能災害に係るJアラートでシェルターや屋内への避難指示を出してください。それ以外の地域にも警戒を呼び掛けてください」


 恐怖で身体を強張らせた補佐官達に指示する岩崎総理だった。


 岩崎の指示を実行するために補佐官達が執務室を出ていった後、岩崎は桑田防衛大臣に放射能台風を監視するように指示を出し、春日官房長官と対応を進めていくのだった。


          ☨          ☨          ☨


 放射能による機体への被爆を避けるべく、マルス・アカデミー技術によって機体が緑色のレーザーバリアによって覆われた2機の航空・宇宙自衛隊のRF4E偵察機は、茨城県の百里基地を飛び立つと南北に分かれて火星日本列島へ迫る巨大放射能台風へ接近していく。


 アルテミュア大陸東海岸の人類都市『ボレアリフ』を壊滅させた巨大放射能台風は、不安定な大気圏上層部の気流によって進路を急速にアルテミュア大陸西側へと転じていき、アルテミュア大陸西海岸に在るユーロピア共和国首都『ニューガリア』へ向かって真っすぐ西へ西へと進んでいくのだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――同日午後7時45分【アルテミュア大陸西海岸 ユーロピア共和国首都ニューガリア 首相府】


 首相執務室でパイロットスーツを着替えないままカフェオレを片手に、ジュピタリアン自炊計画を補佐官のクロエ・シモンや王将で修業を積んだ首相府料理人ジョルジュと検討するジャンヌ・シモン首相に執務室の片隅で待機していた秘書官が声を掛ける。


「ジャンヌ首相。東京のムッシュ岩崎から至急電です」

「スピーカーモードで繋いでちょうだい。……バゲットサンドを全部食べてきた方が良かったかしら?」


 若干空腹気味でご機嫌斜めなジャンヌ首相へ秘書官が電話を繋ぐ。


「ジャンヌです。如何されたのですかムッシュ岩崎?」

『イスラエル連邦が引き起こした北極の核爆発から巨大な台風が発生しました。放射能を帯びた台風の直撃で人類都市『ボレアリフ』が壊滅し、現在は貴国へと向かっているのです』


「はあっ!?なんてこと……」

途中から思わず言葉を無くしてしまうジャンヌ・シモン首相。


『台風が今の速度で進むと8時間程でニューガリアへ到達します。直ぐに避難を。我々も可能な限りの輸送機を派遣します』

「ええ。お申し出に感謝します岩崎首相閣下。我が国は直ちに退避準備に入りますので失礼します」


 とりあえず通話を終えたものの受話器を握ったまま、迫りくる惨禍を前に茫然と立ち尽くすジャンヌ首相だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・クロエ・シモン=ユーロピア共和国首相補佐官。妹のジャンヌ・シモンはユーロピア共和国首相。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・岩崎 政宗=日本国内閣総理大臣。日本列島火星転移当時は内閣官房長官だったが、爆弾テロによって重症を負った澁澤太郎から政権を託された。

 地球復興優先を図るイスラエル連邦の暗躍による与党混乱で立憲地球党主導の政権交代が実現すると野党となり、一時期下野する。

 火星原住生物巨大ワーム群による東京湾侵攻の混乱で立憲地球党政権首脳陣が死亡した事に伴い救国暫定臨時政権を樹立、再び総理大臣となる。

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